特集

地域におけるJA共済の役割 ―東日本大震災から1年を迎えて

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【立ち上がる被災地「JAらしさ」で支える】現地ルポ・JAいわて花巻(岩手県)

・支店の早期復活ですばやい事務手続き
・県本部推進の「調査員」制度の成果
・「結」の力で農業を再び……

 秋田県境から太平洋側まで、県の中央部一体を管内とするJAいわて花巻は、26店舗中、沿岸部の大槌、鵜住居、釜石の3支店が震災後に押し寄せた大津波で全壊し支店機能を失った。3月12日現在、この3支店の建物更生共済の支払い件数は3570件で管内の4割強、支払額は約126億円で管内総額のほぼ半分にあたる。また全壊査定のほとんどが沿岸部でその数は2045棟にのぼる。
 こうした状況にありながら、組合員からの「JAさんが一番早かった」という迅速な対応への評判が口コミで広がり、沿岸部では昨年9月末で今年度の推進目標を達成した。こういった地域住民からの評価と実績は、被災店舗の早期営業再開とすばやい査定対応にある。

安心への対応に尽くし復興の一歩を支える

地域一の迅速さを住民が評価


JAいわて花巻(岩手県)◆支店の早期復活ですばやい事務手続き

共済推進課・菊池忠信課長 震災の翌日から沿岸部に入り、支援を行ってきた共済推進課の菊池忠信課長は1年前を振り返る。「震災後1週間は現地に向かい沿岸部の職員の安否確認を行うことが第一でした」。支店が流された沿岸部では震災から10日ほど経つと、共済金の支払いや保障についての問い合わせが避難所などにいる組合員から聞かれるようになった。沿岸部の職員たちは「いち早く対応するためには支店がなければいけない」と失った支店をどうするかで手一杯だったため、菊池課長をはじめ県本部の職員らが沿岸部に出動し、まずは津波被害を把握するため丸3日かけて住宅地図に全壊家屋の状況を線引きすることからはじめた。その後は地図をもとにして契約者の状況をつかみ、全壊保障の手続きを行った。それとほぼ同時期の3月27日、閉鎖中だった旧甲子支店を被災支店の臨時店舗として復活させたことで、査定と同時進行で事務手続きを行うことができたこともすばやい対応につながった。

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共済推進課・菊池忠信課長


◆県本部推進の「調査員」制度の成果

共済推進部・藤本一廣部長 一方、内陸部でも建物への被害は多かったが、全支店で4月までには8〜9割の査定を終えることができたという。この速やかな対応はLAのほとんどが査定マニュアルの知識を持つ「JA自然災害損害調査員」の認定を受けていたことが大きいと共済推進部の藤本一廣部長はいう。
 「JA自然災害損害調査員」は2008年に発生した岩手・宮城内陸地震を教訓に、宮城県沖地震を想定して3年前に県本部で推進した制度だ。大地震の際、全国から査定員の支援を待っていてはすばやい対応はできないとして、査定員の養成を強化したことが今回役立った。「もしこの制度ができていなかったら苦情が殺到していたでしょうし、こんなにすばやい対応はできなかったと思います。顔見知りの担当者が査定に来てくれたことも組合員さんの安心につながったようです」と藤本部長はこの制度を評価する。
 同JAでは「復興は普及から」を23年度のテーマとしてきた。24年度は組合員・利用者に1日も早く気持ちも復興してもらいたいと「福幸(ふっこう)元年」をスローガンとし普及推進に努めていくという。「少しでも復興の役に立ちたい…その気持ちがLA活動であり共済活動である」と菊池課長は考えている。

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共済推進部・藤本一廣部長


◆「結」の力で農業を再び……

4月から復興組合による作業が始まる一部のほ場 先月この釜石の地で、一度はあきらめかけた農業再開への希望を胸に「復興組合」が立ち上がった。今年4月から再出発に向けて農地再生に踏み出す。
 震災後の津波によって釜石の沿岸部は跡形もない状態だ。もともと農地が少ないため、ほとんどの人が漁業や土木業などとの兼業農家だったこともあり、震災後は「もう年だし農業はしなくていい」と農業をあきらめた人が多かった。今回設立した「釜石市地域農業復興組合」の鈴木賢一組合長もそのひとり。定年後、専業で水稲と牛を育てていたが、津波によって海沿いにあった農地と牛小屋、2頭の牛、自宅を流され、一度は農業をやめる決断をしたという。
「釜石市地域農業復興組合」の鈴木賢一組合長 復興組合の設立は昨年10月、地区を管轄する岩手県沿岸広域振興局から国による農地再生の話とともに復興組合による助成事業の話を受けたことがきっかけとなった。復興組合のメンバーはもともと80人いる唐丹地区農家組合のなかで被災した水稲農家27人。鈴木組合長はこの農家組合の組合長でもある。自ら農地を再生し農業を再びやろうという人は誰もいなかったが、共同で作業し10aにつき3万5000円の助成金も出るということで復興組合の設立に被災農家全員が賛同した。
 同組合では4月から合計10町歩ある被災農地の草刈りや水路の管理など、国のほ場整備が入るまでの約2年間行っていく。その後のほ場整備は国の事業となるが作業には1年間かかるため、実際に農業が再開するのは早くても3年後だという。
 鈴木組合長は「これからはこれまで以上に協力しあう気持ちをもってやっていきたい。小さいときに経験した『結』での共同作業のように助け合ってやっていかなければ」と話す。また、「これまでは黒土が少ないため米の収量が少なかったので、ほ場整備では黒土を多く入れてもらうようお願いしている。新たな農地ではこれまで以上に収量をあげたい」と意欲もみせた。



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上:4月から復興組合による作業が始まる一部のほ場
下:「釜石市地域農業復興組合」の鈴木賢一組合長

(2012.03.27)