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平成24年度全農営農販売企画事業のポイント

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平成24年度全農営農販売企画事業のポイント 中澤靖彦 全農営農販売企画部長に聞く

・消費者・実需者ニーズ基づいて生産と販売をつなぐ
・グループの販売力を高めることで組合員に貢献
・特長商品の開発で生産者と実需者を確実に結びつける
・加工・業務用野菜を輸入品から国産へ
・消費者ニーズを的確につかむ直営店 まだ伸びるJAタウン

 「生産者と消費者を結ぶ懸け橋」となり国産農畜産物の販売力を強化し、農家組合員の手取りを向上させるという、JA全農の役割をもっとも体現しているのが営農販売企画部だといえる。具体的にどのように「生産から販売まで一貫した事業のコーディネート」をするのか、中澤靖彦部長に聞いた。

販売と生産の連携をはかり農家所得の向上をめざす


◆消費者・実需者ニーズ基づいて生産と販売をつなぐ

中澤靖彦 全農営農販売企画部長 ――はじめに、営農販売企画部とはどういう役割・機能をもつ部署なのかからお話いただけますか。
 「一言でいえば『生産から販売まで一貫した事業のコーディネーター』で、24年度の最重点課題は『販売と生産の連携の実現』です」
 「組織的には生産系を担当する『事業企画課』と『営農・技術センター』、販売系を担当する『販売企画課』と『リテール事業課』、その間をつなぐ『TAC推進課』という構成です(下図参照)」
 「当部のミッションは、消費者・実需者ニーズに基づいて、産地に対して『新品種・新技術および低コスト生産体系の普及』を行い、TACの活動によって『生産と販売のマッチングを促進』することです。ここで大事なことは、リテール事業を行っていますので実需者だけではなく消費者ニーズにも応えていくことを明確にしていることです」


◆グループの販売力を高めることで組合員に貢献


 ――具体的には、販売と生産の連携をどうはかっていくのですか。
 「全農直販グループとして、JA全農青果センター(株)、全農チキンフーズ(株)、JA全農ミートフーズ(株)、JA全農たまご(株)、全農パールライス東日本(株)、全農パールライス西日本(株)の6社があります。この6社で23年度は6000億円の売上げがあり、24年度は6200億円の計画で事業を進めています」
 「これを7000億円、8000億円に伸ばしていくためには、どのような共通の販売戦略を持てばいいのかを検討するために定期的にトップの情報交換を行っています」
 「大消費地でこの6社のシェアが上がればマーケット側から『全農グループの販売力が上がった』との評価を得ることができます。売上高は『社会との接点』です。これが伸びることで全農グループの価値が高まり、そのことは農家の手取り向上に貢献することになると確信しています」
 ――「国産農畜産物商談会」も毎年開催していますね。
 「全国のJAやJAグループ会社の商品を一堂に集めて、実需者と商談を行う場として開催しています。今年は3月6〜7日に東京国際フォーラムで第6回を開催し、171ブースが出店し、4300人の量販店・生協のバイヤーや飲食店関係者が来場しました。来年2月には第7回商談会を同じ会場で開催する予定にしています」


◆特長商品の開発で生産者と実需者を確実に結びつける

 ――販売力を強化するためには、商品開発も大事だと思いますが。
 「全農グループとしての独自性を打ち出し、商品の差別化をはかるために、営農・技術センターで特長品種の開発に取り組んでいます。そのなかから、ネギの新品種“あじぱわー”、良食味米“はるみ”や、農研機構とのコラボによるトマト新品種“すずこま”、種苗会社との導入による“アンジェレ”(写真)などが生まれています」
 「さらに、今年2月に営農・技術センターに隣接して、JA全農青果センター(株)神奈川センターが開業しました。両者の連携で生協をはじめとする各取引先との商品開発や包材開発、残留農薬検査をはじめとした安全・安心の取り組み等、相乗効果をあげる可能性は非常に大きいと確信しています」
トマトの新品種“アンジェレ” ――トマトの新品種・アンジェレというのはどういう品種ですか。
 「ヨーロッパのメーカーから導入した良食味・高糖度のミニトマトです。長卵型でヘタがなく、トマト臭さがないとか、果肉が厚いといった特徴をもち、スナック感覚で食べられますので、トマトの新しいマーケットを開拓したいと考えています」
 「初年度の23年度は北海道・青森県・岩手県・栃木県・三重県・熊本県の9JAで1.7haで作付けし、東京・大阪の特定量販店で販売しました。種子はクローズ流通で、産地選択は当部が担当。販売は園芸農産部(JA全農青果センター)と機能分担しています。24年度は作付面積を4.4haに拡大する予定です」
 「このトマトで私たちが狙っている商品イメージは、かつての独自商品・赤パックの農協牛乳の野菜版です。首都圏を中心に量販店で差別化商品としての地位を確立し、このトマトを供給する生産者と連携していくことです。そのことで生産者が安心して生産に取り組み、実需者に確実に結びつけていくことをコーディネートしていきます」

(写真)
トマトの新品種“アンジェレ”


◆加工・業務用野菜を輸入品から国産へ

 ――加工・業務用野菜の取り組みも大きな課題だと思いますが…
 「国内野菜の流通量1500万トンのうち56%が加工・業務用向けで、そのうち輸入野菜が30%(平成22年)250万トン(冷凍品を含む)を占めています。これを国産に置き換えていくことです」
 「加工・業務用での国産へのニーズは高いのですが、コストが合わずに輸入品に押されているのが現状です。私たちは販売先を確保した上で、営農・技術センターで開発・蓄積した省力・低コスト生産体系を産地に提案し、輸入品に対抗できる国産野菜の契約栽培産地の育成に取り組んでいきます。これも販売については園芸農産部と連携した取り組みです」
 ――販売戦略の一つに輸出があります。
 「全農は、とりわけ日本産農畜産物の需要が高い台湾・シンガポール・香港をターゲットに、輸出拡大に取り組んでいます。現在、日本の農畜産物生鮮品の輸出は『農業白書』によれば178億円です。そのうち25億円がJAグループの実績ですが、各県がバラバラに輸出事業を行っているのが実態です。全農としては、これを束ね、海外に常設売場(取引先)を確保し、輸出を増やしていく方針です。23年度は常設店舗59店舗を確保しましたが、今年度はこれを100店舗に拡大したいと考えています。現状は円高で厳しいものはありますが、有利販売の手法を共有化し、将来的には複数の産地に『輸出専用農場』を設置して、リレー出荷による安定的な輸出量の確保に取り組みたいと考えています」


◆消費者ニーズを的確につかむ直営店 まだ伸びるJAタウン

生産者と生活者をつなぐ場として好評な「みのりみのるマルシェ」(銀座三越・銀座テラスで) ――リテール事業とは具体的には…
 「JAタウン、全農のお店、ラ・カンパーニュ、ぶらんどJA、みのりカフェ・みのる食堂の5つの直営店があります。これらの直営店の目的は、消費者との直接対話を通じて、(1)商品開発・品種の試験販売、(2)全農ブランドの確立、そして(3)ここで得られた販売実績や消費者からの情報を取引先の売場の企画や商品提案に活用していくことです」
 ――「みのりみのるプロジェクト」というのは…
 「5つの直営店の共通のプラットホームで、そのコンセプトは『生産者と生活者をつなぐ』場をさまざまな活動を通じて提案することです。例えば、TACが集めた地域の特産品を紹介する『みのりみのるマルシェ』(写真)を毎月最終土曜日に銀座三越の銀座テラスで開催していますが、好評を博しています」
 ――JAタウンはどうですか。
 「縮小する国内マーケットのなかで、伸びている数少ない流通チャンネルがネット販売です。JAタウンは、全国のJAなど約100店舗が出展する国産農畜産物専門のネットショップ・モールで、22万人の会員が登録され、23年度の売上げは7億5000万円でした。24年度はこれを2桁億まで伸ばしたいと考えています」

(写真)
生産者と生活者をつなぐ場として好評な「みのりみのるマルシェ」(銀座三越・銀座テラスで)


◆質的な充実をはかる段階にきたTACの活動

 ――最後に、生産と販売のマッチングを促進するTACについてはどうですか。
 「19年度から5年間取り組んで来ましたが、現在、293JA(北海道を除く全JAの49%)で1600人のTACが、9万戸の担い手を訪問し、年間72万件の面談記録を蓄積しています」
 「TAC版PDCAというべき『担い手対応の目的と手順(6つのSTEP)』も浸透し、運動論的には導入期・成長期から安定期に入ったところです。TACは原則的に購買や販売の目標を持っていませんが、TACに取り組んだJAでは、担い手のJA利用率が高まり、購買や販売の実績が伸張するという効果が確実に表れています(下表参照)」
 「今後は、活動が定着したJAのレベルを維持・向上させ事業拡大に結びつけることと、活動が未定着や停滞しているJAをレベルアップさせていくことが重要なポイントです」
 「TACは当初より、恒常的な訪問活動で担い手と信頼関係を深め、その意見や要望をJAの事業改善に反映することを目的としてきましたが、次期3か年計画では、『地域営農振興』と『JA事業の拡大』の2つを目的に掲げ、質的な充実をはかりたいと考えています」


◆震災復興にも惜しまず注力する

 ――「震災復興」も大きなテーマですが…
 「2月に宮城県本部内に設置した『震災復興課』と連携して『復興モデル農場』の設置・運営に協力します。もちろん一般農家への除塩や新技術・新規作物導入などの技術支援や被災地フェアなどの販売支援にもこれまで通り取り組みます」
 「さらに、放射能で汚染された農地の利用について、新潟で養ったバイオエタノール製造技術が活用できないか検討しています」
 ――ありがとうございました。

機構図・TAC取組JAの事業実績

 

(2012.06.04)