特集

総力特集TPP 考えよう 議論しよう この国のかたちを
座談会
JA全中専務理事・冨士重夫氏
主婦連合会会長・山根香織氏
司会
東京大学教授・鈴木宣弘氏

一覧に戻る

座談会「日本の食と暮らし、命を守るために」  冨士重夫氏・山根香織氏・鈴木宣弘氏

・広く真実を伝え理解の輪をひろげよう!
・海外メディアにも注視し情報収集を進む水面下での動き
・「暮らしが壊される」を発信し世論の転換を
・国の将来が立ちゆく政策選択を海外の情報を頼りに

 野田総理が昨年11月、TPP交渉参加に向けた協議に入ると表明してから半年。以降、政府は国民に何の情報開示もせず事前協議に臨む方針を明らかにしないままの状態が続いている。
 この状況に国民の関心が薄れつつあることが懸念されるが、私たちは改めて国民生活にもたらす影響や米国主導のTPPの本質を発信し、「この国のかたち」に関わる大問題であることを国民各層に伝えていくことが今後のさらなる課題だろう。
 座談会ではTPPの本質を発信し続けてきた鈴木宣弘先生の司会で、今後の運動をどう進めていくべきなのか議論していただいた。
 これまでTPP断固阻止を訴え運動を展開してきたJA全中の冨士重夫専務と主婦連合会の山根香織会長は、あらゆる情報に注視しながら国民に正しい理解を図っていくことが重要と終始強調された。

日本のあるべき未来のために
国民運動の拡大を


広く真実を伝え
理解の輪をひろげよう!

◆TPPへの「入場料」と日本政府の動き

 鈴木 現在政局は消費税問題などで紛糾し表面的にはTPP問題が出てこない状況にありますが、TPP問題は今、どのような状況にあると捉えるべきなのか、まずその認識をお伺いしたいと思います。
JA全中専務理事・冨士重夫氏 冨士 6月18、19日のG20サミットでメキシコとカナダが新規加盟国として認められ、日本だけが取り残されたという状況に日本の推進派の官僚は相当ショックを受けたと聞いています。
 今後、メキシコとカナダが参加し11カ国で議論するのは12月だといわれています。日本はこれからどうするのか、推進派は焦っていると思いますが、日本もそこに参加したいとするならば、アメリカのいう90日前の通知ルールを考えると8月下旬か9月上旬には通知しないといけないわけです。
 米国の要求で見直しを始めた輸入牛肉の規制問題は、これを検証しているプリオン専門調査会が7月に米国産輸入牛肉の規制を「生後30か月齢以上」に引き上げる答申をする予定だと聞いています。
 そうなると牛肉に加え、保険、自動車という米国が要求したTPPへの「入場料」を日本政府は揃え、「条件整備ができた」とアメリカ議会に通知を迫ることもないわけではないです。
 そういう意味で7月、8月の官僚や政治家の水面下での動きには注視する必要がありますし、逆にそこで動きがなければ来年以降が局面になるのではないかと思います。
 鈴木 その「入場料」の条件にあるかんぽ生命ががん保険への参入を凍結するとしましたし、食品安全委員会も議論を急いでまで輸入牛肉の月齢を緩和する方向で審議しているわけですから、おそらく見直しが下されるだろうと思います。
 冨士 現在国内では選挙がいつ起きるかわからない状況ですし、アメリカも11月に大統領選挙を控えています。
 この相互の政治状況によってなかなか日米間での議論が前に進まないというのも一方にはあると思いますが、それでも行政レベルでは水面下での交渉が着実に進められているという実感があるので、やはり動向を注視し続ける必要があると思います。
 鈴木 水面下での交渉が整ってしまえば急に参加する、といったことも起こりかねないですよね。特に自動車が一番大きな問題でしょう。自動車に突きつけられているいくつかの条件について日本がどのように応えるのかで事態は動きかねないと認識しています。

 

海外メディアにも注視し
情報収集を進む水面下での動き


「暮らしが壊される」を発信し
世論の転換を


 冨士 アメリカが日本に求めている自動車への条件としておよそ10項目が挙げられているということがアメリカの報道からわかっています。
 政府からはまったくこれらについての情報を知らされませんでしたが、民主党の経済連携プロジェクトチームで問い詰められるとようやく排気量や燃費基準など6項目の条件が出てきました。そこで「これらがアメリカ側のいう交渉参加の前提条件ではないのか」とさかん問い詰めても「いや、アイデアの交換だ」、「ただのアメリカ側の関心事項だ」という主張をするだけです。
 なぜ政府はこういう態度なのかというと、これらを相手国の前提条件と位置づけたとたん、国民に6項目の中身について説明し、国民的議論によって国益の観点から可否を判断するというプロセスを経なければならず、これを避けたいために水面下で交渉をしているというわけです。
主婦連合会会長・山根香織氏 鈴木 誰が聞いても明らかなウソを平気で言い続けるわけですよね。山根さんはどのようにお考えですか。
 山根 非常に腹が立っています。国民が何を言おうがまったく聞く耳を持たず、交渉をどんどん進めている。TPPが今どうなっているのか、その状況は全然見えてこず、マスコミも消費税と電気料金の値上げ一色でTPPについて何も報道しません。
 情報を求めても「交渉に入ってから明らかになるものだから今は分からない」、こちらが不安事項を示しても「ちゃんと交渉しますから大丈夫です」で済まそうとしている。すごく国民をバカにしていると思います。
 交渉が実は相当進んでいて、ある日突然、総理から参加が発表されるのではないかと心配しています。国民のことをどう思っているのでしょうか…。


◆真相は嘘でごまかす

東京大学教授・鈴木宣弘氏 鈴木 自動車に10項目の条件を突きつけられていたことがアメリカ側の資料でばれたことを受けて「TPPを慎重に考える会」のメンバーが政府に説明を求めて会合を開いたときも、そこにやって来た官僚はペーパーの一枚も持ってこず、10項目の中身にも触れず「説明できることは一つもない」と全員がただ1時間並んで座っているだけでした。テレビカメラはすべてを撮っていたのに流さない。推進派がメディアも含めて仲間をつくってしまっている。ひどい状況です。
 こういう状況にありながらも、これまでお二方は国民理解を図ろうと運動をやってこられています。その成果についてお話いただければと思います。
 冨士 我々はTPP問題が出てきたときから「農業対工業」の対立問題ではなく、環境や食品の安全性、医療、人の移動や政府調達といったさまざまな分野にわたって国のかたちやルール、基準を変えてしまう極めて大きな問題だといってきました。
 そういう意味でいろいろな業界の人たちとネットワークを作り、情報交換しながら連携し発信してきたことで、広範な人たちに関心や考えを与えることができていると思います。まだまだ不十分なところはありますが、運動は広がりを見せていると思っています。
 山根 主婦連合会としては昨年の2月にTPP反対を表明し、その後は労働関係、医療関係などさまざまな団体と連携を進めながら小さな学習会から大きな集会まで行ってきました。
 しかし、なかなか消費者団体が一丸となった運動に至っていないのが実情です。
 TPPは中身が見えづらく、その上メディアの影響によってどうしても農業、生産者の問題だという先入観が強くあるようで、消費者として一体感が持てるところまでは進んでいないのが課題です。

 

国の将来が立ちゆく政策選択を
海外の情報を頼りに


 鈴木 政府は徹底的に情報を開示しようとせず、出す情報はウソばかりですから、いかに正しい情報を早急に共有できるようにするかが非常に難しい問題だと思います。このあたりをどのようにしていけばいいのでしょうか。
 冨士 日本政府が何も言わなくても外国から情報が漏れてきています。日本政府がアメリカ政府に言ったことをアメリカ政府が業界団体に話し、そこからマスコミに伝わって我々の耳に入る…。そういった情報もキャッチして国民に伝えていくことが必要だと思います。
 先日メキシコとカナダにTPPへの参加が認められましたが、そこで受託した条件として報じられているのは、最初の参加国である9カ国がすでに合意した内容は全て受け入れることや、これからある交渉分野で9カ国が合意した内容についてはその合意に従わなければならないことなどです。
 今からTPPへの参加が認められても、後発参入国はルールメイキングに参加できるどころか拒否権の発動も認められない、ほとんどの条件を飲むに等しいといわれています。どうやってルールメイキングに参加していくのかを含めて、これまで政府が言ってきたことは本当なのかということを国民に発信し、ともに考えていく必要があります。
 もともと9カ国でやっているTPPは閉鎖性がきわめて高い交渉なので中身が漏れてこないわけですから、こういった情報を我々が発信していかないと国民が何も分からないまま参加が決まってしまいます。
 鈴木 去年12月に開かれた公聴会でUSTR(米国通商代表部)のマランティス次席代表が言っていたのは、メキシコとカナダ、日本を入れるかどうかを話し合うトラックと、9カ国で協定を決めるトラックはまったく別物である、ということでした。いつの時点で入ろうが9カ国以外の国がルールメイキングや交渉そのものに影響を与えることはできないし、できたルールに従うだけ、将来決まることについても何も言えないんだと。
 日本政府は早く入ったら交渉に参加できるから乗り遅れちゃいけない、がんばってそこで例外を作るんだ、と言い続けていますが、実際は何もできないということです。それが今回メキシコとカナダが飲まされた条件にちゃんと入っています。政府が何も言わなくてもアメリカの文書やパブリックシチズンから情報が出てきていますので、いろんなルートで情報が取れると思います。


◆脅し文句に疑いの目を

 鈴木 主婦連として情報発信について何が必要だと思いますか。
 山根 消費税問題なども含めて、今あるさまざまな問題すべてにいえることですが、「このままでは日本がダメになる」とか「外国との競争に負けたら日本は潰される」などといって、「だからTPPに入らなければいけない」、「このままでは未来の子どもたちが危ない」と“脅し”みたいなものが必ず先にありますよね。それが本当なのかということです。
 こういう脅し文句に「仕方がないのかな…」と思っている消費者は多いと思うんです。TPPについては農業が衰退しているからここで喝を入れることも必要なのかも、と思わされている消費者もいるわけです。それが間違いであって、TPPは農業にとってはもちろん、それだけでなくさまざまな分野に及ぶ大問題なのに、情報が閉ざされた今の状態で物事が進んでいってしまうことは非常に怖い、もっと問題はたくさんあるということを伝えていかなければいけません。
 私たち団体としては機関紙や集会でのアピールなどで地道に仲間を増やしていく活動が主になりますが、とにかく一人でも多くの消費者に問題点を気付かせるしかないと思います。
 鈴木 特に消費者は食品の安全性の問題には敏感だと思いますが、政府はTPPの交渉条件にそれは挙がっていないと言っていますね。


◆TPPの山場をどう乗り切る?

 山根 これについてはかなりの消費者団体がとても危機感を持っていて、問題だとの声は大きく上がっています。食品表示や安全基準など、これまで我々ががんばってつくってきたことが貿易のためのルールによって変わってしまうことにとても懸念があります。「交渉事項には挙がっていない」とか、「食品の安全基準や検疫措置は各国が決める権利を持っているので交渉でこれまでの基準が変わることはありません」、という政府の説明を鵜呑みにしていいとは思えません。
 冨士 アメリカは自国の基準より厳しい基準には必ず「おかしい」、「取っ払え」といってくるはずです。「アメリカが科学的に正しいと考えたことを世界基準として認めろ」と言っているわけですから。アメリカ以上に厳しい基準でやっているということは科学的根拠がないとみなされます。
 遺伝子組換え食品にしてもポストハーベスト農薬にしてもアメリカ基準にあわせることになってしまうでしょう。
 鈴木 マランティスさんはアメリカの科学的根拠に基づかない厳しい検疫措置を課している日本の基準について「WTOとは違ってアメリカが基準を変えられるシステムがTPPなんだ、それに私は執念を燃やしている」とはっきり言っていますので、まさに大丈夫だといっている日本政府の議論は成り立たないわけです。
 山根 遺伝子組換えについては、きちんと選別できるような表示の整備が求められているのに、今のルールさえなくなり、すべてがアメリカ基準に移行してしまうことにはっきり「NO」と言っていきたいので、説明を尽くして消費者の理解を広げていきたいと思います。
 鈴木 政府による脅しのようなイメージ戦略でまだまだ一般の方々の認識はぼんやりしていると思います。単純に製造業だからTPPに賛成、農業だから反対、ということではなくて、ほとんどの国民生活に相当な影響を与える問題だということを国民は知るべきです。
 どのように日本や世界の未来を築いていくべきなのかといったビジョンも含めてTPP交渉になぜ参加してはだめなのかということをまず、説明していくことが効果的なのではないでしょうか。


◆潜む米企業の戦略

 冨士 TPPの本質についていろいろいわれていますが、この交渉はまったくフェアではありません。アメリカ側が国家として利益を勝ちとろうとしている構図に過ぎず、その国家戦略の裏には大企業の戦略が潜んでいます。
 アメリカは日本の自動車市場を閉鎖的だといっていますが、すでに日本に輸出している自動車への関税はゼロです。つまり、関税をゼロにしてもフェアではないといっているわけです。軽自動車や日本の環境基準、代理店制度など、ありとあらゆることを要求してきます。こういうこと自体、極めていびつな交渉です。
 鈴木 極めつけの条件は日本市場におけるアメリカ車のシェアが小さすぎる、目標値を決めてむりやりでも輸入しろ、と。まさに自由貿易でもなんでもない。「ミニマムアクセス・カー」ですよ。
 冨士 アメリカが気に入らないものや入れたくないものは入れない、そういう国家戦略で交渉していくということですから、「フェア」という考えはなきに等しい。
 ISD条項(投資家対国家の紛争解決制度)もそうです。たとえば先進国と途上国での交渉で、途上国の法整備が十分でない場合には成り立つのかもしれませんが、きちんと法整備ができている先進国同士でISDをやるというのは国家主権を侵害することになります。国の法律は国民が選んだ国会議員によって作ったり改正したりしますが、企業が他の国を訴えて法律を改正できるというのは非常におかしい。TPPがもっているこのような問題をもっと暴いて本質を広く国民に理解してもらうことが大事です。
 鈴木 企業の自由な活動を保障するために邪魔なものは提訴して損害賠償を求めることができるとなれば、食品の安全基準が厳しいことも訴えられる対象になる可能性があります。
 実際にカナダやメキシコはアメリカとのNAFTA(北米自由貿易協定)で人々を守るための安全基準や環境基準、社会のセーフティネットといった分野でアメリカ企業に提訴され敗訴するということが起きています。判決を下すのは世界銀行傘下の国際投資紛争解決センターで、そこではどれだけ企業側が損害を受けたかだけが審理基準になっているからです。
 こういったアメリカ中心の制度には世界中から批判が広がってきています。日本の皆さんにもそのことをぜひ理解いただきたいです。


◆他の経済連携との比較も

 冨士 TPPとは別に、FTA(自由貿易協定)やEPA(経済連携協定)といったその他の交渉をどう考えるのかということも整理しておかなければいけないと思います。
 よくJAグループはTPPに反対だというと全ての経済連携や自由貿易を否定しているとの批判を受けますが、そうではなくて、「TPPはこういう理由だから反対」、「日中韓FTAやASEAN、これまで進めてきたアジアとのEPAやFTAはこういうことがきちんと担保されていてお互いの国のために締結しているからいいんだ」、ということもあわせて発信していかなければならないと思います。
 山根 消費者団体もそうです。大きな声で反対というと何でもかんでも反対する集団だと一部のメディアは書きたがります。過度に安全志向な団体がうるさく言っているというような取られ方をしてしまうことにもとても憤慨していますが、こうなるのも恣意的な報道もあり国民的な理解が広がっていないからだと思います。
 反対運動をみんなでやりましょうという前に、まずは「TPPってなんだ?」というところからもう一度理解を進めて課題を共有しないといけません。日本のこれからを大きく変えていってしまう未来に関わる話なので、今気付かなかったら大変だよ、と言いたい。若い人たちには特に気づいてほしいと思います。
 鈴木 おっしゃるように日中韓FTAやASEAN+3(日中韓)などとTPPとの考え方の違いをきちんと整理して示すことは重要だと思います。
 内閣府の試算によるとTPPは他の交渉にくらべて日本のGDPの増加率が一番少ないそうです。経済的メリットが最小で失うものが最大なのだから、常識的に考えてTPPは選ぶべきものではないわけです。
 山根 一部の、外国と貿易をしている大企業が利益を得るだけですよね。少なくとも2国間や3国間で丁寧に互いの利益について話し合うことが必要で、TPPのようにすべての国が一緒くたというのは間違いだと思います。
 鈴木 一部の企業にとっていいものを国民の99%を無視してまで勝手に進めようとしている構図です。アジアの国々とお互いを思いやりながら共にメリットのある協定を進めていくという選択肢が具体化してきているなかで、どうしてまずそちらをやらないのかということをもっときちんと示すことも必要です。


◆柔軟性の高い協定を

 冨士 「高いレベルの経済連携」とよく聞きますが、お互いの国がハッピーになることが大事で、「高い」とか「低い」とかいうことではない。レベルを高くしてお互いに傷つき失うものが多いというのはおかしな話で、お互いの立場やお互いの国の将来が立ちゆくような「柔軟性の高い」経済連携協定を目指すべきだと思います。
 鈴木 そもそも、例外のないFTAほど域外国に与える損失は大きいので、経済学的にも例外のないものほど世界の貿易を歪める「悪いFTA」であり、柔軟なFTAのほうが「レベルが高い」という見方ができます。しかも、高いレベルの交渉だといっておきながらアメリカは自国の都合でルールを決めてしまうわけですからTPPは非常に危ない。社会を守っているさまざまな相互扶助の制度や組織を攻撃して潰していったら、これまでにない大きな社会損失を被るのは誰が考えても分かります。
 国民が何を言っても勝手にすすめてしまう今の状況は政治家を操っている一部の官僚が作り出しています。野田総理だってISD条項さえ知らなかったということですからちゃんと教えられていない。一部の官僚と一体化して結びついているのはその人たちの天下り先となっている大手企業です。こういう人たちを今断罪しなければ日本は崩壊してしまいます。
 山根 選挙が近いのだとすれば、候補者の姿勢を国民が評価できるチャンスでもありますので、一人ひとりにTPPについてどう思っているのか表明してもらい、それを元に国民が判断するということも必要ではないかと思います。
 冨士 やはり情報で社会を変えていくことが必要だと思います。TPPについて「何も知らないから国が言っている方向でいい」―といっている人が多いわけで、本質をしっかり知れば「そうか」となるわけです。発信した情報を受け取ってもらえることが世論を変えていく材料になると思います。
 それから、官僚と政治家の政策決定システムや貿易政策のあり方も問題にしなければなりません。これまで2国間でEPA交渉をするとなった場合、自国にとってどういうことが問題なのかを経済界や学界、官僚、政治家が議論して決定するという産官学連携による共同研究を経たうえで、双方の政府が判断してきました。
 しかしTPPにはそういうシステムはありません。WTOの農業交渉も議長案が出されてから各国でその内容を話し合ってまとめていくわけですから、少なくともこういうプロセスで進めていくシステムを作り上げないといけません。


◆運動のパワーアップを

 鈴木 以前、私の講演を聞きにきてくれた若いフランス人の女性が日本人はおとなしすぎると言っていました。「フランスの農民運動を見てみなさい、あれだけやれば政府は動く」と。
 一方、ある県の青年農業者のみなさんから国会で座り込みをやっても効果がなかったから次はトラクターで突っ込むしかないと言われました。「逮捕者が出てもみんなでお金を集めて一生面倒をみる、鈴木さん、どうだ」と。
 こうした手法の効果については議論があるでしょうが、ともかく、それだけみんなが追い詰められている。このような状況を非常に重く受け止め、全国でこの話をしたら多くの人がそのときは一緒に行くから、と賛同してくれました。もう中途半端ではだめです。フランスのように徹底するときは徹底しなくては。
7月6日、反原発を訴え官邸前をデモ行進する参加者。若者や子ども連れも目立った。TPP問題も幅広い国民に訴えていく必要がある 山根 このところの反原発や消費税反対の運動はだいぶ盛り上がりをみせていますよね(7面に写真)。つい最近まで大手の新聞はぜんぜん取り上げてくれませんでしたが、最近は少しずつ集会の様子などが報道されるようになりました。今まで何万人と集まってもまず載せてくれなかったと思うんです。やっぱり集会やデモをやっても誰も取り扱ってくれないと虚しいですし、一般の人へ関心や共感が広がらないので、お金をかけてでもメディアにアピールするくらいやっていかないとダメだと思います。
 今の政治を見て、国民の中には結局何を言っても同じだとあきらめてしまうという人と、怒って声を出そうという人とがいますが、「結局ダメだ」とか「別にいいや」とか無力感の方が広がってしまうのが心配です。せっかく反原発や消費税に対する国民運動が盛り上がってきているのでTPPでもこういう流れをつくっていかないといけないと思います。

(写真)7月6日、反原発を訴え官邸前をデモ行進する参加者。若者や子ども連れも目立った。TPP問題も幅広い国民に訴えていく必要がある


◆世論をどう動かすか

 冨士 官僚は世論なんて気にせず自分たちの考えを一部の国会議員や大臣にすり込んで物事を前に進めればいいという考えです。そのシナリオにまた大手マスコミも乗ってしまっているというわけです。それに歯止めをかけるには、彼らが軽視している世論を変えていくしかないと思います。
 山根 本当に消費者はバカにされています。「TPPに入れば安いものがいっぱい入ってくるんだから消費者は喜ぶべきでしょ」と。
 これまで食の安全や自給率の問題についてみんなで一生懸命訴えてきているのに、安ければいいでしょと言われるとものすごく腹が立ちます。
 後から「知っていれば反対したのに…」と言う人がないように運動を広げていかなければならないと思っています。
 冨士 TPPの本質についてどんどん発信していき、「この状況を変えていかなければおかしいんだ」という世論が多数を占める社会に変えていくしかないと思います。
日本のあるべき未来のために国民運動の拡大を 昔は情報源というとテレビと新聞でしたが、今はインターネットやツイッターなど情報入手の仕方が色々あるので、幅広いツールを使って発信をしていくことが、世論を目覚めさせることにつながると思います。
 鈴木 TPPがいかに国民の命を削ることなのか、どれほど次の世代に負担を強いることなのかを共有できるようにさらに国民に伝えていただきたいと思います。
 なんとかこの問題については政府に交渉参加を断念させるようがんばりましょう。本日はありがとうございました。

 

座談会を終えて

 政局も流動的で、原発や消費税に比べて、TPPの問題はあまり表面に出てこなくなっている。しかし、実務レベルでは、こういう状況下においても、着々と水面下で交渉を詰めており、いつ何時、日本の「頭金」の完納が認められ、突如米国が「日本の参加も承認する」と言い、すべてが終わってしまう危険が続いているのである。
 日本はすでに2011年11月に参加の意思表示をしているのだから、米国が「決意を示せ」と言っているのは、何らかの機会に、入りたいと日本が明言するという意味ではなく、自動車などの懸案事項に対して、しっかりと米国の要求に応える決意が示されるかどうかという意味である。
 このような勝手な国民不在の「ポチ外交」の暴走を国民として許すわけにはいかない。反原発のデモも、最初はほとんど報道されなかったが、ここへきて、10万人を超える大規模な行動を報道せざるを得ない事態になってきている。TPPについても、国の将来に禍根を残さないように、早急に大きなうねりをつくり、一部の官僚が国民を騙して、国を売り飛ばすような行為をストップさせなくてはならない。フランスの方の指摘のように、我々は中途半端なことをしていたのではだめだ。やるときは徹底しなくてはならない。全国のJAなどが率先して、さらに大きなうねりを一日も早く起こせないものだろうか。(鈴木宣弘

(2012.07.11)