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クローズアップ 2012年 今年を振り返る

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【クローズアップ 2012年 今年を振り返る】 2012年のJAグループの活動を振り返り、2013年の課題を考える

・選挙結果は冷静な国民の審判
・農政課題は農業基本計画を基に見直しを
・消費税軽減税率や税制改革など課題は目白押し
・農業者の経営安定のために
・自然再生エネルギーで農業と地方を活性化

 JA全国大会の開催やTPP反対の国民的な運動の展開など今年も農業関係でさまざまなできごとがあったが、最後にTPPを言い出した民主党政権が大敗し衆議院で3分の2以上の議席をもつ自公政権が誕生し、新しい年を迎えることとなった。そこでこの選挙結果を踏まえながら、今年を振り返るとともに、新政権下の課題について冨士重夫JA全中専務理事に率直に語っていただいた。

生産者・消費者そして地域に寄り添った政治を

農業者の所得向上と経営安定をめざして組合員目線で考え行動しよう

◆選挙結果は冷静な国民の審判

 ――衆議院議員選挙が、自民党・公明党の圧勝という結果になりましたが、この結果についてどのような感想をお持ちですか。
 「3年3カ月の民主党政権に対する審判だと思います。選挙ですから民主党にある程度は逆風が吹くとは思いました。自民・公明で過半数はいくだろう、直前では300という予測もありましたが、3分の2を超える325議席になるとは思いませんでした」
 「私も全国回っていましたが、“風が吹いている”とか熱気があるわけではなく、“民主党はもうNO”と淡々と冷静に審判を下されたという印象です。そして自民・公明の安定した政権運営に託すということになったのだと思います」
 「逆に言えば、自民党も公明党も、もう一度託されたわけですから、ここで失敗すればまた同じような結果になりますので、きちんとした政策、政権運営をしていくことだと思います」
 ――そのポイントは何ですか。
「生産者・消費者・国民そして地域など、現場に寄り添って、現場の悩みや課題を政治が解決していくという基本的なスタンスでいくことです」
 「そして議席の3分の2以上を獲得しましたが、衆参のねじれのなかで、その権利をばんばん使うのではなく、どっしりと構えて政策提案し、それに対して野党がどう対応するのかと問い、必要があれば修正すればいいのではないですか。そういう意味で自民・公明できちんと詰めた検討をされた予算や政策は、安定感のあるものになると思います。そういう意味でも、政権与党の政策立案に私たちの意見を反映させていくことが、重要になってくると考えています」


◆農政課題は農業基本計画を基に見直しを

 ――政権交代という流れの中で、JAグループの農政の課題についてはどうお考えでしょうか。
農地集積や担い手育成に向けた議論が求められる。(JA加美よつば(宮城)管内の集落営農組織) 「戸別所得補償とか農家の経営所得安定対策をどうするか、農地の集積や担い手の育成、さらに生産・流通・加工などの施設が更新期にきていますからこれの整備をどう進めていくのかという課題があります」
 「そして農業基本法にもとづいて基本計画を策定しています。基本計画は農業政策や予算を執行するうえでのメルクマールですから、これを見直す必要があると思います。現在の基本計画は平成22年度から26年度の5年ですが、1年前倒しして26年度から新しい基本計画に基づく農業政策の展開ということになるのではないでしょうか。
 26年度予算は25年12月までに検討されるわけですから、基本計画見直しの議論は年明け早々から審議会などで始まるのではないでしょうか。その議論と合わせて、戸別所得補償や担い手対策などの課題についても同時並行で議論していくことになるのではないですか」

(写真)
農地集積や担い手育成に向けた議論が求められる。(JA加美よつば(宮城)管内の集落営農組織)

◆消費税軽減税率や税制改革など課題は目白押し

 「そして当面は、24年度補正予算と来年の税制改革を念頭に置きながら、1月の全中理事会で新政権に対する要望を出していくことになります」
 「それから消費税について8%そして10%に上げることに決まっていますが、8%にするときに軽減税率をするかどうか。公明党はするべきだといっていますが…。私たちは8%の段階から軽減税率を求めています。税制改革では相続税の問題があり都市農業振興をどうするのかという法律議論を含めて行っていく必要があります」
 「課題は目白押しですが、まず24年度補正予算にどういうものを入れ込むのかも早急に具体化していかなければいけないと考えています」
 「それから新政権の政策決定システムがかつての自公政権と同じなのか、少し変えてくるのかを見据えないといけないと思います。今回当選された方々は、政策的に近い方々が多いと思いますが、3分の2を超える大きな力をもっていますので、これに呑み込まれることがないようによく考えて私たちの主張をしていく必要があると思います」


◆農業者の経営安定のために

 ――選挙結果に対する感想と新政権への対応についてお聞きしましたが、この1年を振り返ってどういう感想をお持ちですか。
各地で被災地の復興を応援するイベントが開かれた。(JA福島ビルでの「七夕マルシェ」) 「まずは、東日本大震災の被災地の農業復興と原発事故被害の克服が遅々として進んでいない現状を踏まえ、政府において万全の対策が引き続き実施される必要があります。JAグループとしても、『復興より先にやるべきことはない』との考え方のもと、これまでにも増して展開していくことが重要です」
 「米の戸別所得補償制度の1階部分である10アール1万5000円は現場でも評価されていますので、これの政策的な位置づけを明確にして継続していくことが必要だと思います。ただ、2階部分の米価が下落した場合の不足払いの仕組みをどうするかは新政権の課題になると思います」
 「米の需給対策について民主党政権はいっさい行わなかったので問題が残っています。24年産米は相対的に価格が上がるときにも、備蓄のオペレーションをどうするかが必要ですが、完全に棚上げ備蓄でいっさいやらないということです。しかしそれが本当に政策効果として、財政を含めていいのかどうか。こうした需給対策をどうするのかも新政権での課題だといえます」
 「2つ目は、飼料原料の高騰などによる実質負担を最小限に抑えていくとか、畜産物価格が下落しましたが経営所得対策をしていたのでぎりぎり安定確保しました。畜産・酪農や果樹などを含めた経営所得対策をどうするのかも今後の課題となります」
 「3つめは6次産業化法案をどうするかでもめましたが、地域の視点や農業者の所得経営安定に配慮するという考え方・理念が盛り込まれたことを受け、JAグループとしても5年で100億円のサブファンドを創設して促進していくことにしましたので、来年から6次化も具体的な課題になってきます」

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各地で被災地の復興を応援するイベントが開かれた。(JA福島ビルでの「七夕マルシェ」)


◆自然再生エネルギーで農業と地方を活性化

 「もう一つは脱原発についてです。太陽光とか水力、風力、地熱やバイオマスといった自然再生エネルギーを地域で持っているわけですから、それをどう具体化するのか。そして売電するだけではなく地域農業や地域活性化にとってよい方向に働くような自然再生エネルギーにしていかなければいけないと考えていますので、早急に方向性をだしていく必要があります」


◆情報を共有化しTPP反対勢力を結集する

 ――TPP問題についてはどうですか。
TPP交渉参加断固阻止を訴える集会が各県で開かれた。(写真は山形県) 「TPP参加をいい出した民主党政権が退陣しましたから、これを新政権が引き継ぐのかどうか、一から考え直せばいいわけですから、もう一度、日本国政府として、FTA、EPA、さらにWTOへの基本方針を議論して、こういう考え方のもとにやる、守るべき国益はこういうものとこういうものだということが示され担保されたうえで、TPPに参加するとかしないとか議論し直すべきだと思います。つまり今の枠組みに乗っていくという話では絶対にないと考えています」
 「そしてJAグループとしては、3分の2の力をもった政府与党のなかにTPP反対に賛同する勢力をつくっていく取組みが重要だと考えています」
 「そのためにこの秋から発行している『TPPニュース』を全国会議員に配布し、私たちが持っている情報を徹底的に開示して、情報を共有してもらう必要があると考え実施します。そして医師会とか生協などの関連団体との連携を強化して、広がりをもった国民運動として盛り上げていきます」

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TPP交渉参加断固阻止を訴える集会が各県で開かれた。(写真は山形県)


◆組合員との密度の濃い関係構築を 大会決議の意味

第26回JA全国大会(10月11日NHKホール) ――第26回全国大会決議の実践についてはどうお考えですか。
 「大会決議は、地域農業戦略、暮らし戦略、そして組合員の事業基盤の強化などの戦略を見直して組合員と議論して構築してくださいということです。それにプラスして広報戦略の重要性が強調されました。そのうえで“次代へつなぐ協同”をつくるために、組合員との密度の濃い関係をつくり、すそ野を広げ、事業経営における収益力をあげていくという、リストラ型からプラス型の経営をめざしていくということです」
 ――支店を拠点にということが話題になりさまざまな議論もされているようですが…
 「支店は最前線で組合員や地域と向き合っているところなので重要だということですが、いままで支店統廃合をすすめ本所直轄型のガバナンスになっているのを、そのガバナンスを含めてどう基幹支店に移譲するのかなどを見直し、組合員と目線を合わせることだといえます。目線をあわせることで、組合員の抱えている問題や課題が見えてきますし、そこに事業伸長のカギがあるので大事にしていこうということです」

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第26回JA全国大会(10月11日NHKホール)


◆協同組合間連携や法制を検討する組織を立ち上げる

 ――今年は国際協同組合年(IYC)でもあり、全国大会でも協同組合原則を改めて確認しましたが、今後は…
 「IYCの実行委員会の中核的メンバーと新しい組織を立ち上げて、そこで協同組合間連携できる分野は何かとか、日本の縦割りになっている協同組合法制の見直しや、協同組合間を横につなぐ法律など、協同組合の法体系や法整備の問題点や課題を議論していこうと考えています」


◆参議院選挙に向けて

 ――最後に新しい年に向けてメッセージがあれば…
 「2013年夏には自前候補を抱えた参議院議員選挙があります。今回の衆議院議員選挙の結果も踏まえて、JAグループの力になるような勢力をつくっていかなければいけませんので、さまざまな農政課題を実行するためにも力をいれていきます。とくに1人区は地方ですから、地方に寄り添い、農業や漁業など地方の問題や課題をきちんと解決する人を選ばなければいけないと考えています」

(2012.12.25)