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JA全農・酪農部特集

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酪農家の意欲につながる取り組みを強化  JA全農・宮崎幹生酪農部長に聞く

・最大の課題は生産基盤の弱体化
・生産基盤の維持・強化にむけた取り組みを強化

 TPPや海外穀物情勢など酪農経営の先行き不透明感が強まるなか、ここにきて再び飼料価格の高値が続いており、酪農家の経営を圧迫している。このまま手を拱いていては日本の酪農が立ち行かなくなってしまうとの危機感が一層強まっている。
 こうした状況下、生乳の計画生産は、平成24年度から3年間、減産しないことが決定された。これをうけてJA全農では、酪農家の手取りの維持・向上をはかるため、生乳・乳製品の需要拡大や需給調整の取り組みを一層強化している。
 そこで、生産基盤の維持・強化に取り組んでいる、全農酪農部の宮崎幹生部長に話を伺った。

◆最大の課題は生産基盤の弱体化

JA全農・宮崎幹生酪農部長――酪農家の戸数は減少し、生乳生産量も年々減少しています。その背景などについてお聞かせください。
 わが国の酪農家戸数は、私が全農に入会した30年前に全国で9万戸を越えていましたが、後継者問題などにより毎年3〜4%のペースで廃業がすすみ、現在では約2万戸となっています。数年前までは、北海道・都府県とも規模拡大や個体乳量の増加により、生乳生産量をある程度確保してきましたが、それも限界にきており、生産量は減少傾向にあります。
 生乳生産については、一口に規模拡大といっても、難しい面が多々あります。今や、わが国の乳質レベルは、安全・安心や高品質を追求した結果、世界的にみても極めて高いレベルにあります。そのこと自体、流通関係者や消費者にも広くご理解をいただけていると思いますし、また、そうであるからこそ、牛乳は現在もなお国産100%を維持できているのだと考えています。
 ただ、規模拡大となると、酪農家の高い生産性や技術レベルを維持するため、人材の確保やコスト面の負担が増えることにもなりますので、限界があるということなのです。さらには、TPPや海外の穀物情勢など先行きに不透明感があるため、酪農家の投資などの意欲を減退させているという面もあります。
 今年7月以降、再び飼料作物が高騰し酪農家の生産費を押し上げるなか、全農としても、更なる取り組みの強化をしなければわが国の酪農の生産基盤は維持できない、との認識にたっています。


◆生産基盤の維持・強化にむけた取り組みを強化

――生産基盤を維持するため、今後どのような取り組みをしていくのかについてお聞かせください。
 酪農の生産基盤を維持していくためには、酪農家が将来に亘って営農計画を見通せるような環境を作ることだと考えています。そのためには、TPPはもちろん断固として反対しなければなりませんし、国境対策とあわせて国内対策についても明確な見通しを示していくことが必要だと考えています。そうした意味で、全中や中酪などの関係機関との連携がますます重要になってきています。また、生産基盤を維持するためには、酪農家の手取りを維持・拡大していくことも重要です。
 我が国の牛乳の需要は、この10年間で20%前後減少しました。小中学生などのよく牛乳を飲まれる層の人口が減少しているという意味での少子高齢化や、他の機能性飲料の需要拡大などにより、牛乳の需要は今も減少が続いています。酪農家の手取りを維持・拡大するためには、こうした牛乳の需要減退にどのようにして歯止めをかけるかが大きな課題であり、そのためには、消費者にもっと乳の持つ本来的な価値を理解していただく必要があると思っています。
 全国では、指定団体や中酪がこの課題に既に取り組んでいますので、全農もしっかりと提案していきたいと考えています。
 現在では、缶コーヒーなどに業務用の牛乳がたくさん使われるようになってきました。乳の風味とコーヒーの独特な味わいがバランスし、生乳の需要拡大に一役かっています。そうした意味でも、まだまだ乳と相性の良いもの、例えば果物や野菜の中にもたくさんあると思いますし、乳業メーカーや飲料メーカーに提案していけるものと考えています。さらには、チルド原料としての生クリームや濃縮乳などの液状乳製品は、海外の乳調製品に比べ風味などで競争力がありますので販売拡大をしていきたいと考えています。 

◆          ◆

 今年7月以降、アメリカの旱魃によるトウモロコシの高騰で飼料価格が平成20年度並に上昇し、酪農家の生産費を押し上げています。今後の動向が大変懸念されているところです。乳価につきましては、飼料や燃料などの高騰で「畜産危機」とマスコミなどでも叫ばれ、生産・消費・流通サイドが価格転嫁に動く流れができたため、平成20年から21年にかけて、飲用向け乳価を1キロあたり13円の値上げをさせて頂きました。平成25年度の乳価については、そうしたことも踏まえながら、それぞれの指定団体が交渉方針をとりまとめ、年明け以降、交渉していくことになると考えています。
 また、生乳生産の減少は、集送乳の拠点であるクーラーステーションを維持するための経費負担や集・送乳経費の増加となるという意味でも課題があります。生産基盤対策の一環として、県域や地域の集送乳の合理化を進める必要があります。
 各指定団体の取り組み方針を基本としつつ、当該地域の県本部と一体的に協議・推進していきたいと考えています。

◆          ◆

 酪農家の手取りを維持・向上していくためには、生乳・乳製品の需要拡大に加え、生乳・牛乳等の適正価格の実現を図っていく必要があります。しかし、牛乳の需要が年々減少するなか、乳業全体の牛乳の製造能力が過剰となっていることや製造ラインの稼働率の低下などを背景に、牛乳の廉売などの影響が増えてきています。なかには、牛乳の原価、製造や流通の経費などを合算してもそれを下回るような価格のものもあり、乳業の経営破綻も現実的に出始めている現状です。フレッシュな牛乳・乳製品を消費者の食卓に届ける乳業独特のチルド流通網は、酪農家・酪農組織にとっても大変貴重な存在です。
 今後、生乳の適正価格を確保・実現していくため、牛乳の適正な価格形成もまた、われわれ生産者組織にとっても大変重要な課題といえます。そうした意味で、乳業の再編を推進していく必要がますます高まっていると考えています。
 わが国の牛乳は、自給率100%を維持している貴重な食料資源です。世界では、後進国を中心に人口増加に歯止めがかからず、気候の温暖化などの影響を受けて、9億人前後の飢餓人口を抱え更に増えることも懸念されています。その一方で、先進国は、自国の食料需給を第一に考え、当然のように生産基盤維持のための対策を講じています。私どもは、行政や酪農の関係者の皆さんとしっかり連携し、わが国の酪農の生産基盤を維持・強化するため、手取りの維持・向上に向けた諸対策にしっかりと取り組んでいきます。

(2012.12.26)