「品薄単価高」バブルがはじけた切り花の3月相場【花づくりの現場から 宇田明】第57回2025年4月10日
花の「品薄単価高」バブルがついにはじけたようです。
よりにもよって、暖地の生産者にとって最も重要な書き入れ時である3月彼岸に、です。
彼岸までの市況は絶好調で高値が続いていました。ところが彼岸に入ると一転し大暴落。
一体何がおこったのでしょうか?
もともと、コロナ禍以降の切り花の高値相場は需要が伸びたからではなく、品薄による単価高。
その要因は、生産者の高齢化などで国内生産が減りつづけていることに加え、円安や国際情勢などの影響で輸入が伸びず、国産の減少を補えていないことにあります。
「品薄単価高」のバブルがはじけ、彼岸相場の暴落を招いたのは、想定をはるかに超える輸入の急増でした。
以前のコラム(第55回)で紹介したように、春彼岸の主役はキク。
そこで、3月の国産キクの入荷量(日本農業新聞ネットアグリ市況、全国主要7市場)と輸入量(植物検疫統計)の前年比を図に示しました。
図のように、国産キクの入荷量は昨年が前年比6%減、今年はさらに減り前年比10%減です。
このままでは、一層の「品薄単価高」が進み、市況は高騰、花屋は仕入コストの増加で経営がますます厳しくなるでしょう。
そのため、市場は限られた国産キクの集荷に力を入れ、輸入キクの買い取り量を増やすなど品薄の解消につとめました。
しかし、考えることは皆おなじです。
蓋を開けてみれば、想定外の前年比21%増という大量の輸入キクが市場にあふれました。
国別の前年比では、中国が43%増、ベトナムが20%増と、キク輸出1位、2位の両国が大幅な増加です。
追い打ちをかけたのが、東京、大阪などの大都市圏で、彼岸入り前の土曜日、日曜日に雨が降り、客足が大きく鈍ったことでした。
これにより、花屋には在庫が積みあがってしまいました。
そこに、開花が遅れていた国内産と、急増した輸入品が大量に市場入荷したため、相場は一気に暴落。
花は、いるときにはいるが、いらないときにはまったくいらない商品。
しかも生ものであり、長期保存ができません。
切り花加工業者や葬儀業者、大手花屋を除けば、保管用の冷蔵庫もないのが一般的。
どんなに安くてもいらないものは買えない。
それが、生活必需品ではない花の宿命です。
今回の3月彼岸の暴落は、起こるべくして起こったといえるでしょう。
数年続いた「品薄単価高」は、需要が拡大したのではなく、輸入が伸び悩んだことによる一時的な品薄状態にすぎませんでした。
輸入が増えれば品薄は解消され、相場の振り子が単価安に振れることは、業界人なら予想できたはず。
さらに、長期間続く「品薄単価高」を、ビジネスに厳しい輸入業者が指をくわえて見ているわけがありません。
ただ、花市場も輸入業者自身も、キクの輸入量が前年比21%も増えるとは想定外だったのでしょう。
日本農業新聞が毎年1月に発表するトレンドは、花では「安定供給」が常に上位にあがります。
しかし、国内生産は、生産者の自然減と天候で左右される不安定なものであり、生産量を調整する力はすでに失われています。
したがって、今後の需給バランスは輸入で調整するしかありません。
そのためには、市場の国内生産動向を見通す能力と、輸入業者との綿密な需給調整力が不可欠になります。
ところが、大手花市場ではデジタル化によるコスト削減が進む一方で、産地巡回などのアナログな情報収集が手薄になり、正確な生産状況を把握できていない現状があります。
また、かつて産地を回り、開花時期を予想できたスペシャリストな従業員はすでに引退し、現状ではメールや電話での生育状況の聞き取りに頼らざるを得ません。
花市場には、これまでとはまったく異なる、新たな入荷予測の仕組み作りが急務です。
果たして、流行りの生成AIはこの難題にどこまで役だってくれるのでしょうか?
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