JAの活動:新世紀JA研究会 課題別セミナー
正准一体で農業振興 新たな事業モデルを【福間莞爾・新世紀JA研究会常任幹事】2019年4月11日
准組合員対策を考える場合に、これを全体としてどのように捉えればいいのか。これを「准組合員対策の基本構図」として図式化した(下図)。図表では、この問題を大きく3つに分けた。
◆問題の所在と認識
この問題の発端は、2014年の5月に規制改革会議の農業ワーキンググループが「農業改革に関する意見」で准組合員の事業利用は正組合員の2分の1を超えてはならないとしたことにある。
その後、政府の「規制改革実施計画」で、准組合員の事業利用について、「正組合員の事業利用との関係で一定のルールを導入する方向で検討する」とされ、2016年4月施行の改正農協法では、附則で准組合員の事業利用規制の在り方については、施行の日から5年間(2021年3月まで)、政府が実態調査を行い、検討を加えて結論を出すことが明記された。
では、この問題の所在と認識についてどのように考えればいいのか。この問題を官邸によるJA潰しの一環として捉えることは容易だが、その背景に総体として准組合員の数が正組合員数の数を上回ったという事実がある。
この事実から、JA組織の基本的性格が問われているとする認識と、准組合員は制度として認められているから、いくら准組合員が増えても何ら問題はないとする認識にわかれる。
この点について、今回の政府提案は、准組合員の制度そのものを改変する意図のもとに行われており、JA組織の基本的性格が問われ、戦後JA運動の総括を伴う重大問題とみるべきだろう。
なお、この問題に対する自民党の対応は、JA信用事業の代理店化と同じく組合員の判断とするから安心しろというものだが、これはもちろん選挙対策用のもので額面通りに受け止めるわけにはいかない。
このようなJA運動にとっての最重要課題を自民党に丸投げし、組織の既得権益を守ることばかりに腐心することは良い結果を生まないし、自主・自立の協同組合運動の趣旨にもとる。何より、自民党の選挙対応以降、議論放棄の雰囲気が生まれていることに危機感を持つべきだ。
◆運動の基本方向
以上の状況を踏まえ、基本方向は二つに分かれる。一つは、環境変化を踏まえ正・准組合員が一緒になって農業振興を支えるという新しい総合JAビジョンを確立し、そのもとで国民運動としての新たなJA運動を展開するという方向と、もう一つは従来方針を踏襲し、職能組合と地域組合の二軸論による運動を継続していくことだ。
だが、後者の従来方針の踏襲たる二軸論(現在のJA自己改革路線)は、国会審議を通じ、また農協法改正で完全に否定されたのであり、その事実に向き合わなければ将来展望を切り開いていくことは難しい。また、准組合員問題について政府・自民党を頼りにするとしても、そのバックには国民世論があることを肝に銘ずべきだ。
◆准組合員対策の確立
准組合員対策は、もちろんそれ自体単独で論じられるものではなく、これからのJA運動展開の方向と一体となって考えられるべきものだ。ここで重要になってくるのが、准組合員の位置づけである。
JA運動の基本方向を新総合JAビジョンの確立とみる立場からは、准組合員を「食とJA活動を通じた地域農業振興の貢献者」と位置づけるという新たな発想が出てくる。
これに対して、旧来の地域組合路線による准組合員の位置づけは、「協同組合運動に共鳴する安定的な事業利用者」(全中総合審議会答申1986年)というもので極めて漠然としたものだ。
一方、現実問題として、准組合員の加入推進は主に信用・共済事業における員外利用制限回避のために行われてきたのであり、極論すれば准組合員対策はその方便として考えられてきたとさえ言ってもよい。
またこうした考えの背景にあるのは、地域インフラ論だ。今も全中は、これを論拠にしており、衆参の農水委員会でもその重要性が決議されている。だがこの論拠は、今の時代には全くそぐわない。今や多くの地域で銀行、保険会社、量販店、コンビニエンスストア等がひしめき合い、JAがなくてもこと足りる。
したがって、この地域インフラ論は逆に、多くの地域において准組合員の事業利用規制に有力な根拠を与えることに注意が必要だ。現に農水省は、平成31年度予算1200万円を使い、「農協の准組合員の事業利用規制の在り方の検討に資するよう、各地域における生活インフラの利用実態について現地調査を行う」としている。この調査の趣旨から、事業利用規制の有力な根拠を地域の生活インフラの整備状況としていることがはっきり読み取れる。
JAグループは、総合事業とともに准組合員制度があることによって、営農・経済事業の赤字を信用・共済事業の収益で補填するというビジネスモデルを構築し組織として大きく発展してきた。
だが、政府から准組合員の事業利用規制という問題を突き付けられ、これまでのような主張は続けられなくなっている。JAグループは今こそピンチをチャンスに変え、正・准組合員が一体となって農業振興に取り組むという新たなビジネスモデルを構築していくことが重要である。
そこで、今後の准組合員対応の具体策としては、(1)今までの准組合員対応を農業振興への寄与という観点から検証し、新たな対応策として確立していくこと、(2)准組合員の中核組織として、農業振興クラブ(仮称)構想を実現して行くことが考えられる。
そうすることによって、正・准組合員1000万人を核とした食料主権の国民運動の先頭に立つことができるし、これから困難が予想されるJAの経営危機にも准組合員600万人のメンバーシップを確立することで、事業推進上のアドバンテージを得ることができる。
JAは総合事業と准組合員制度によって、組織として大きく発展してきた。だが今回の農協改革は、JAに対して、これまでの成功体験からの脱皮と農業振興のための新たな総合JAビジョンの確立を要請しているととらえるべきであり、まずはそのための意識改革・転換が求められている。
農業振興クラブの結成については、初めてのことで戸惑いもあろうが、目標ははっきりしており、その気になれば新境地を切り拓くことは可能であろう。JAの底力に期待したい。
※このページ「紙上セミナー」は新世紀JA研究会の責任で編集しています。
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