JAの活動:新世紀JA研究会 課題別セミナー
組合員の意思を直接反映し常勤理事体制の強化を 濱田 達海 氏2020年3月9日
経営管理委員会制度の問題点と対応
新世紀JA研究会は、研究会内に設けた「経営管理委員会制度検討委員会」で、同制度の検討を行った。監督と理事会の業務執行の分離があいまいで、「屋上屋」になっている面があり、JAにおいては常勤理事体制を強化すべきとの意見に集約された。
検討会の冒頭で同研究会の石川寿樹副代表(JAしまね代表理事組合長)が挨拶。次いで同研究会の福間常任幹事が、開催に至る経過を説明。特に県域JAの誕生など大型合併が進む中で、選択制として、ガバナンスの基本である経営管理委員会制度について一定の考え方の整理が必要であるとの認識を示した。
その後、経営管理委員会制度の現状と課題として3JAが実践報告した。JAとぴあ浜松の鈴木和俊会長は、経営管理委員会制度導入JAとして、これまで検討してきた経過、現状と課題を報告。
またJAふくしま未来の鈴木一三常務は、JAの前身となる旧JA新ふくしまで経営管理委員会制度を導入したものの、再度定款を変更し、従来の理事会制度に戻した経過(理由を含む)と現在の新JAの役員体制を説明した。
また、JAしまねの矢田篤総務部長が、令和元年6月から始まった新たな役員体制の発足に至る検討経過と県域JAとして理事会制度を採用しているものの、経営管理委員会制度を採用すべきかどうか継続的に検討を進めていることを報告した。
次いで新世紀JA研究会幹事の濱田達海氏が理事会制度と経営管理委員会制度の概要について説明し、小樽商科大学の多木誠一郎教授が経営管理委員会制度の全体的なコメントを述べた。
以上を踏まえて活発な相互討議を行い、次のような内容を確認した。
(1)経営管理委員会制度は、当時の住専問題の国会審議等を経て、1996(平成8)年の農協法改正により、理事会制度との選択制で導入されたものであるが、その後、JA段階ではほとんど導入が進んでいない。それは、この仕組みに制度的な難点があることと無関係ではない。
(2)組合運営において、監督と業務執行を分離するのが本来の経営管理委員会制度の考え方であるが、実際の運用は経営管理委員会と理事会が併用されており、このことが監督と業務執行の分離をあいまいにして、実際は「屋上屋」の運営となり、ともすれば統治の二重構造を生むことになっている。
(3) 組合員の意思を反映することを本旨とする協同組合としてのJA運営の下では、監督と業務執行の分離は、理事会制度の下で業務の専門性を確保する常勤理事体制の強化で進めるべきであり、そのことは、とくに単位JAの運営において留意されなければならない。実際、経営管理委員会制度をとっているJAにおいても、理事(常勤理事)の少数精鋭体制で業務執行の機能強化を行っている。
(4) 単位JAの2次組織である全農、全共連、農林中央金庫・県信連においては、法律で経営管理委員会制度の採用が義務付けられているが、協同組合のガバナンスのあり方として引き続きその内容が検討されなければならない。
2015(平成27)年の農協法改正はJAの地域性を否定し、農業関連事業へ経営資源を傾斜することを強制するため、経営の裁量権や私法人のトップ・マネジメントに政府が関与する改正となった。具体的には、理事の定数の過半数は、原則として、認定農業者または農畜産物の販売、その他の事業もしくは法人の経営に関し、実践的な能力を有する者でなければならないとされ、認定農業者等をガバナンスの中核とするプリンシパル・エージェンシー・モデルに回帰する改正となっている。
農業者の所得増大というプリンシパルと、地域への貢献というステイクホルダーとの間で、改めてガバナンスの重要性が見直されているといえる。
ガバナンスモデルには、①プリンシパル・エージェンシーモデルと、②ステークホルダーモデルがある。プリンシパル・エージェンシーモデルは、企業は株主のものであって、経営者は株主(主権者・プリンシパル)の代理人(エージェンシー)としてとらえる。ステークホルダーモデルは、企業は株主だけのものではなく、従業員、取引先、債権者、地域社会などの利害関係者(ステークホルダー)のものであり、経営者はこれら利害関係者の調整人となる。
検討会の相互討議はJA運営の基本に関わることであり熱を帯びたが、最終的にはJA段階においては、組合員の意思を直接的に反映できる現行の理事会制度のなかで、業務の専門性を確保する常勤理事体制強化の方向が望ましいということで議論を終えた。
一方で、上場企業におけるガバナンス改革の動きに注視しながら、とくに連合組織でJAグループを巡る環境変化に対応できるガバナンスとは何か、引き続き検討を行っていく必要がある。
※このページ「紙上セミナー」は新世紀JA研究会の責任で編集しています。
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