コラム

「正義派の農政論」

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【森島 賢】
TPP交渉で翻弄される日本外交

 先週12日の新聞がHPで伝えるところでは、アメリカ通商代表部のロナルド・カーク代表が、TPPで日本のコメを、関税撤廃の例外品目にすることを容認するようだ、という(注、本文下)。玄葉光一郎外相がそういっているし、石田勝之内閣府副大臣も、そういっている、という。本当だろうか。
 もしも、それが本当なら、アメリカは日本を脅したり、すかしたりして、日本をTPPに加盟させたい、と考えているのだろう。もしかすると、TPP加盟に前のめりの政府が、国民を脅したり、すかしたりしているのかも知れない。
 同代表は、以前から全ての関税を撤廃する、といっていた。アメリカにとって、日本のコメは、TPP交渉での最も強力な切り札である。その切り札を、まだ加盟してもいないのに、使ってしまったとは思えない。交渉上手なアメリカが、そんなことをするだろうか。
 一方、民主党のPTは、今月中にもTPP交渉参加への意見を集約するようだ。事態は切迫している。

 TPPは、全ての物品の関税撤廃が大原則である。だが、アメリカが、この大原則の例外を認める、というのである。もしかすると、TPP加盟に前のめりの外相や副大臣が、聞き違えたのかもしれない。悪意にとれば、農協などの反対派を懐柔しようとして、わざと聞き違えたのかもしれない。
 真相は、やがて分かるだろう。アメリカは、例外品目を認めたおぼえはない、と否定するだろう。だが、火のないところに煙は立たない。

 最大の注目点は、アメリカは日本のTPP加盟を、それほどまでに強く望んでいることである。それは、経済的な利益だけでなく、政治的な利益も重く考えている、ということだろう。TPPは、対中国包囲網なのである。
 アメリカは、戦後、日本や韓国をアメリカ化したように、中国をはじめ、東アジアの国々をアメリカ化したいのである。この点で、日本や韓国は優等生だった。それを東アジアに広めたい、と考えている。
 韓国は、韓米FTAで、日本よりも先に進んで、さらに徹底的にアメリカ化することになった。次の狙いは日本だろう。TPPは、アジア太平洋地域の諸国をアメリカ化することが目標である。
 アメリカ化とは、アメリカの通商制度だけではなく、全てのアメリカの社会制度を、他国へ強引に押し付けることである。そうして、資本がアメリカ的に自由な活躍ができる場を広げ、貧富の差を拡大することである。
 日本は、TPPに加盟して、アジアのアメリカ化に加担するかどうかが、いま問われている。

 最大の問題点は、コメさえ例外品目にできればいいのか、という点である。この問いは、TPP反対派にも向けられている。
 韓米FTAでは、コメだけが例外品目になった。畜産物をはじめ、他の全ての農産物は、関税をゼロにすることになった。関税をゼロにするまでの経過期間をもうけた品目もあるが、その品目も、やがてはゼロ関税になる。
 TPPは、韓米FTAよりも「高い水準」の自由化を目指す、という。だから、TPPに加盟すれば、韓米FTAと「同じ水準」の、つまり、コメだけが例外品目になり、コメ以外の、全ての農産物がゼロ関税になる「水準」が、交渉の出発点になるだろう。このことは、いわば、既定の事実である。
 だから、TPPではコメの関税をゼロにするかどうか、だけが交渉の論点になる。コメ以外の農産物の関税をどうするか、は交渉の論点にもならない。せいぜい経過期間を何年にするか、という程度の議論にしかならない。その後はゼロにする。
 それでいいのか。日本は、いま、その覚悟が問われている。それは、食糧主権を放棄する、という反国家的な覚悟である。そんなことをしてはならない。


(注)各紙の報道

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(2012.04.16)