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コラム:食料・農業問題 本質と裏側

【鈴木宣弘・東京大学教授】

2017.12.14 
丁寧・真摯に説明する=強引・姑息にごまかす一覧へ

 今回は、「建前→本音の政治・行政用語の変換表」に次の用語を追加したい。

●丁寧・真摯に説明する
=強引・姑息にごまかす。「丁寧・真摯」と連呼し、内容は説明しない。

 空虚な単語だけが連呼され、具体的な説明を伴わない状況はまったく変わっていない。
 「強引・姑息にごまかす」手法も相変わらずである。先だっても、2017年11月のトランプ大統領の訪日時の日米首脳会談で、日本側は平然と「日米FTAは議題にならなかった」と言ったが、駐日米国大使は「議論した」と認めている。国民は、だまされて、だまされて、また、だまされて、わかっているのに、事態は止められず、事態は最悪に向けて着々と進められていく。

 

◆日本側が否定し米国側からバレる繰り返し

 こうした姿は、TPPへの日本の参加のための「単なる情報交換」を思い出させる。
 日本政府は国民に2年以上ウソをついて、米国に日本のTPP交渉参加を認めてもらうための「入場料」の交渉をやっていた。国民には、「アイデアの交換をしているだけで、日本のTPP参加とは何ら関係がない」と平気で言い続けたが、米国側のニュースで「日本側が自動車問題について、ここまで譲歩した」といった報道がなされて、やはり裏交渉しているではないかと、当時の民主党政権時代、国会議員の先生方も永田町の議員会館で50人ぐらい集まって説明会をやった。
 政府から10人ぐらい出てきても、紙1枚持って来なかったことが多かった。「説明しろ」「説明できません」、「説明しろ」「できません」。1時間押し問答。この異常なやり取りをテレビカメラも一部始終撮影しておきながら、地上波は一切流さなかった。TPPの異常さが国民にわかってしまうからである。
 そうやって、何も説明しない説明会を何と44回やった。何も出てこない。結局、国民はもとより、その民意を代表している(はずの)国会議員もここまで愚弄し、TPP参加を既成事実化し、タイミングだけの問題としようとした卑劣な手法は許し難いが、このような事態の進行を、結局、誰も止められない。

 

◆裏(表?)で操る「有能な」官僚

 このように、我々は、最近、官邸と規制改革推進会議を特にクローズアップしているが、裏でも表でも操る「有能な」官僚の存在を忘れてはならない。
 2011年10月に当時の野田総理がハワイで参加意思表明を行ったときに、米国から「入れてもらいたいなら入場料として米国の要求事項(日本が差し出すべき国益)に応えろ」と言われて、水面下で事前交渉が始まった。入場料を払えばTPPに入れてもらえるということがわかったから、国民を騙しておいて、入場料を払って勝手に入ってしまうという行程が進められた。
 BSEに伴う米国産牛肉の輸入制限は、2011年10月の緩和検討の表明から「結論ありき」で着々と食品安全委員会が承認する「茶番劇」だった。米国へのお土産として表明したのは明らかなのに、「科学的根拠に基づく手続きでTPPとは無関係」と平気で言い続けた。
 自動車については、ゼロ関税の日本市場なのに、「米国車に最低輸入義務台数を設定せよ」と「言いがかり」の要求を突きつけられたが、これを国民に知らせて、あからさまに議論したら、日本国民も猛反発するに違いないから、所轄官庁が極秘に譲歩条件を提示した。「そんなことを国民に隠して、あとで日本がたいへんなことになったら、あなたはどう責任を取るのか」と迫った良識ある官僚もいたが、逆に、「はき違えるな。我々の仕事は、国民を騒がせないことだ」と言われる始末である。
 米国が「頭金」を払ったと認めたときが実質的な日本の「参加承認」であった。2012年11月の東アジアサミットでも、当時の野田総理による再度の「決意表明」が準備されたが、結局見送られたのは、国民の懸念を勘案したからではまったくなかった。まだ米国が「頭金」「入場料」が足りないと言ったからである。
 大統領選挙も終わって、自動車の入場料について米国も柔軟に妥協してくれるはずと見込んだが、見込み違いで、まだ足りないと言われてしまったため、継続交渉となったのである。そして、必死で入場料の交渉を詰めて、ついに煮詰まってきて「総理に決意表明してもらえるぞ」となったときは、ちょうど政権が変わって安倍総理になっていて、このほうが都合が良かった。
 そして、2013年2月、安倍総理とオバマ大統領による日本のTPP参加の共同声明が出された。自動車については、軽自動車の優遇税制の見直し、米国の安全・環境基準を適用する輸入数量枠の設定など、郵政民営化に関連しては、かんぽ生命が米国の保険会社と競合する商品に参入しないことなどを共同声明で確約させられた。国会ではTPPで守るべき国益が決議されたが、自動車の税制・安全基準の維持、数値目標の拒否や保険での日本の特性の維持などは、守るどころか、逆に「前払い」することで、共同声明の時点で反故にされていた。
 しかも、安倍総理の参加表明に対して、日本が「公式に興味を示したのは歓迎するが、自動車、保険、その他の非関税障壁への対処はまだ足りない」と、米国に足元を見られて、さらに要求を上乗せして、つけ込まれた。食品添加物や農薬の基準などの緩和は「その他の非関税障壁」の重要事項だった。こうして、12カ国間のTPP全体の交渉とは別に、日本だけが、積み残しの懸案事項への回答を示すための2国間並行協議をさせられることになった。

 

◆国民に対する「特別背任罪」

 TPP12以降の日欧EPAやTPP11、今後の日米FTAも含めて、このように米国などに対して国民を欺いて国益を次々と差し出す行動を続けてきた実務部隊は霞が関の一部の有能な官僚である。
 驚いたのは、3・11の大震災から6年以上が経過したが、あの震災の2週間後、内閣官房では、一部の省庁からの出向組の幹部を中心に「喜んでいた」。「震災のおかげでTPPについては"死んだふり"で、情報も出さずに議論もせずに強行突破できる。野田総理(当時)がハワイに行く直前に急浮上させて、滑り込み参加表明させれば良いのだから。」というのだ。
 残念ながら、そのとおりに事態を運ばれてしまい、震災時に、そう言って喜んでいた人たちの多くは、また、TPP11などの交渉でも引き続き活躍・暗躍している。
 TPPの「入場料」支払い交渉も、日米2国間の平行協議も中心的に担当した有能な官僚の中には、ある期間、米国の研究所で米国の国益を研究していた人もいて、その方が「我が国は」と説明する時は、「日本は」と考えると意味が通らなくて、「米国は」と置き換えたほうが意味が通るという話もあるくらいだった。そして、首尾よく日本の国益差し出しを行った功績もあったのだろうか、女性初の局長、総理秘書官、特許庁長官になられた。
 それから、TPPの利益を某省が計算したが、なかなか利益が出てこなかった。「それでもTPPにバラ色の未来があるかのように言い続けなきゃいけない。なぜならN省ではBSE事件で5人の首が飛んだ。このまま放っておくと原発でK省では20人以上の首が飛ぶかもしれない。それを回避するには、国際的な視野の中にバラ色の未来があるかのように見せかけて国民の目をそらす必要がある。それがTPPだ」と言った人もいる。
 さらに、韓米FTAについても、日本に対して「TPPの交渉経過は4年間秘密だが、韓米FTAは似たような内容で、すでに発効しているのだから、TPPの内容を知りたいなら、韓米FTAを見てくれ」と示唆してくれたのは米国政府だった。それを聞いた日本政府は慌てて全省庁を集めて「韓米FTAの内容を可能な限り国民の目に触れないよう画策しろ」と箝口令を敷いた。筆者がテレビの生番組で、この話をしたときは司会者も含めてスタジオ中が大声で筆者の話をかき消そうとするかのように騒然となったのを覚えている。
 国民をここまで愚弄し、TPP参加を既成事実化し、タイミングだけの問題にしようとした卑劣な手法は、いまも日欧EPAやTPP11、今後の日米FTAも含めて継続しているが、結局、誰も止められないのか。国民に対する「特別背任罪」のような罪は問えないのが現状だ。しかし、さすがに、このままでは済まされない。

 

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