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農業協同組合研究会 第2回シンポジウム
「農協批判の本質を探る 農協改革・発展の課題」



 農業協同組合研究会(会長・梶井功東京農工大学名誉教授)は第2回シンポジウム「農協批判の本質を探る 農協改革・発展の課題」を11月12日、東京都内で開催した。北海道から九州までJAの役職員、全国連関係者、研究者ら150人が参加。事業分割論など最近の農協批判の底流にある政治経済状況を議論するとともに、今後、農業を核とした地域社会発展のための農協のあり方を考えた。

◆批判の本質は市場主義

 研究会会長の梶井功東京農工大学名誉教授は「農協批判の本質は、強きを助け弱きを挫く市場主義にある」と指摘。90年代以降、日本経団連の農政、農協への提言内容の変化と農政動向について分析した。
 とくに長期不況のなかから企業が新たな事業分野として農業、農村に目を向けはじめ、それが株式会社の農地取得や信用・共済分離論などの提言につながっていると指摘した。実際に株式会社の農地取得問題では、97年の段階的な規制緩和の提言どおりに農政も応え、農業経営基盤強化法の改正などを行っていることをあげた。
 ただし一方で農政自体も国際化の進展で自由化を前提とした農業構造の改革をめざし、大規模経営育成への施策集中と農産物価格引き下げによる内外価格差の是正へと転換、「農政も強きを助け弱きを挫く方向」に踏み出していると強調した。こうした状況のなかで農協が協同組合として地域社会で役割を発揮するための課題のひとつとして「組合員への教育が重要」と提言した。
 過度な市場主義を乗り越え新たな経済の仕組みをつくる中心となるのは協同組合だと訴えたのは、全農改革委員会の委員もつとめた生活クラブ事業連の河野栄次会長。
 全農改革の議論に参加した経験から農協組織に対して、国、制度への依存からの脱却と、多様な流通の仕組みづくりによる国民への食料供給などを提言した。また、全農改革では現場の職員からの問題提起による新しい全農として組織、事業づくりに取り組むべきことを強調した。
 JAに対しては「事業はあくまで手段。目的は人々の豊かさ」だとして「地域の人々が主体となって登場し豊かになるための道具としての協同組合」への変革が求められていると訴え、組合員の再組織化が必要と提言した。

◆集落営農も農協改革の課題

 茨城県在住で本紙「つくば山麓野良だより」の執筆者の農業、野澤博氏は現場から報告と提言を行った。
 担い手を限定する新たな経営所得安定対策大綱が決まったが「一部の農業者だけでは地域農業を守れず自給率の向上も実現できない」と批判。地域で小規模農家が新たに出荷グループなどをつくって生き生きと活動している事例も紹介しながら、今の農業政策を是正するため、役員選出方法の問題など農協に結集するための課題を指摘した。
 JAみやぎ登米の阿部長壽組合長は家族農業中心の日本にとって総合農協は地域農業発展のために先見性があったと語った。
 ただ、農業の構造改革を進めるなかで「総合農協が障害になるとして批判されている」。郵政民営化も農協の店舗がターゲットになっている実態や、米先物取引の検討などをあげ現在の農政が完全自由化の総仕上げに向けて進んでいるのではないかと指摘した。
 農協にとっては、組合員の農協離れが問題となっているが農協運動の理念を復活させて結集を図る必要があると強調し、これからの大きな課題となっている集落営農組織づくりも「組合員が農協に再結集するための取り組み」としてJAは実践していくべきではないかと参加者に訴えた。

◆地域、組合員との信頼関係構築に向けて

 各報告をふまえた総合討論でテーマのひとつになったのは組合員の農協離れ。合併によって農協との距離が遠くなったとの指摘が聞かれるが、参加者からは、職員の仕事のあり方を見直し組合員が安心できる農協に向けて職務の役割分担などを考え直す取り組みを検討しているという指摘があった。また、「環境保全米運動」(阿部氏)など農業の目標へのメッセージが再結集のきっかけになりつつあるなどの具体的な事例も報告された。
 一方、生協でも職員の訪問を重視していると河野氏は紹介し「待ちの姿勢ではなく、組合員が組合員であることの確認が大切」と語った。
 ただ、参加者からは「合併によって組合員が離れるという面もあるが、組合員が離れるから合併によって頼れる農協に、という面もある。機能を強化できないような未合併農協ではますます離れていくのでは」と機能強化との兼ね合いの現実的な難しさを問う意見もあった。
 そのほか合併農協であっても旧JA単位での再編をめざし、集落など地域ごとの目的に即した農業振興計画づくりなどを積み上げて「農協が全体を束ねるという発想」が求められているとの声もあった。また、「農協の事業計画」ではなく、「組合員の視点での地域農業振興策」として毎年の事業計画を考えてきたのかどうかを考えるべきだとの意見もあった。
 討論では組合員の立場に立った運動、事業をどう再構築するかが焦点になったが、「全員同意で新たな事業を展開するのではなく、一部で実験的に事業を始めるという仕組みに合意を得るなど停滞を避ける工夫も試みていいのではないか」との指摘もあった。
 そのほか参加者からは最近の農協批判が日本農業そのものの危機を招くものだとしてさらなる自給率低下への不安と食料安全保障政策の重要性を指摘する声も相次いだ。
 座長を務めた北出俊昭前明治大学教授は「これまでの農政改革、農協改革の理念自体の転換が問われているのではないか。われわれには協同組合の将来に確信を持つことが求められている」と語った。

基調報告
農協批判の裏にある「強きを助け、弱きを挫く」思想
梶井功氏(東京農工大学名誉教授)

◆批判強める経団連の提言

 現代の農協批判の本質的なファクターはグローバリズムを支配している市場主義にあるといっていい。
 市場主義の基本的な特徴はかつて故三輪昌男教授が的確に指摘したように「強きを助け、弱きを挫く」だろう。こうした政策の皮切りとなったのは、1986年の前川レポートではないか。この年にウルグアイ・ラウンドが始まっているが、前川レポートを皮切りにして経団連から87年の「米問題に関する意見」、88年の「食品工業の原料確保に関する見解」と政策提言が相次ぐ。しかし、この段階では米の流通自由化の促進と原料米の価格が高いことを指摘して輸入自由化を提言するにとどまった。
 農政はこの段階ではまだ食料安全保障を主張して自由化に抵抗していた。たとえば、89年にはガット事務局を通じて各国に対して食料安保に関する日本政府の見解を示している。輸出国が食料供給を保障するといってきたのに対し、それは当てにできないとはっきり書き、いざという時には国内で供給できる体制を保持しておくことは国の責任だということを外交文書で明確に主張していた。
 しかし、90年代から少し様子が変わる。
 それをよく示しているのが92年に経団連が出した「21世紀に向けての農業改革のあり方」。構造政策の推進に力点を置き、大規模経営を育成すればコストは5割削減できると主張。低米価に耐えられる強靱な経営ができると提言した。また、初めて農協改革についても提起するが、経営マインドを持った営農指導事業、経済事業に取り組むことを求めるにとどまっていた。
 が、97年の「農業基本法の見直しに関する提言」になると様相が変わる。
 ここで農協に対して、とくに全国組織の農協連合会に独禁法の適用除外が妥当かどうか検討する必要があると提起した。独禁法の適用除外問題が経団連から出たのはこのときが初めてで、同時に農地制度についても提言し、株式会社の参入問題を初めて公式文書で取り上げた。

◆財界要求と農政自体の変化

 92年ではまだ穏当だったが97年でなぜこれほどまでにトーンが大きく変わったかといえば、長期不況が大きく影響している。GDPの対前年比をみると90年では8.0%だが、92年には1.9%、97年には0.6%へと落ちた。この不況のなかでいよいよ「弱きを挫く」にまで踏み込まないと、事業分野を拡充できないと判断するようになったといっていい。
 同時にこうした経団連の提言を引き出すような農政の変化もあったことを注目しておく必要がある。
 92年に新しい農業、農村、食料政策の方向、いわゆる「新政策」が出される。そのなかで新基本法にも入っている「効率的かつ安定的経営体」という概念が初めて打ち出された。今の政策を先取りするような方向である。
 株式会社の問題についても現在の段階では参入を認めるわけにはいかないが、その利点を十分に検討することが大事だと具体的に提起された。
 農政担当者の考え方に変化が出てきたということが、財界の農政要求を質的に変えさせた面があるといっていい。農政担当者の考えが農基法とは違ってきたということが前提になって財界の要求も変わってきた。農政の内部それ自体に出てきた効率的かつ安定的な経営体を助ける、つまり強きを助けるためそこに施策を集中させるという方向、そして国内価格の引き下げによる内外価格差の縮小、まさに弱きを挫く方向を財界としても推進するということになったのである。

◆農業、農村がターゲットに

 さらに2000年代に入ると財界の要求はエスカレートする。
 この背景については横浜国大の田代洋一教授が日本経済の不況からの回復の仕方が変わったことを的確に指摘している。田代教授によると、80年代では不況から好況に回復していくときには、企業収益が高まっていくのと同時に賃金も高まったという特徴があった。しかし、90年代になると企業収益は回復しても賃金は上昇しなくなり、さらに2000年代では企業収益は回復しても、賃金は逆に下がっていくという事態になっているという。
 農政に対する財界の要求がエスカレートしてくる理由もここにあると思う。経済界はグローバル化のなかでシビアな競争を展開しなければならなくなっており、新しい事業分野を求めている。農業、農村にもビジネスチャンスがあるではないかと財界は考えたのではないか。
 その象徴的な例として田代教授はホリエモンこと堀江貴文氏の発言を挙げている。「高くてもいいからおいしい野菜を食べたいという人は多いが残念ながらそれを流通させる仕組みがない。それは農協が農作物の流通をはじめ農家の経済の根幹を握っているから。農協は日本最大級の金融機関でもある。農協が崩壊するとなると、すごいビジネスチャンスになる」(週刊ダイアモンド・04年12月25日、05年1月1日合併号)。
 この点を端的に示したのが総合規制改革会議の第二次答申である。
 そこでは農協系統事業の見直しとして、区分経理の徹底、信用・共済事業のあり方、信用・共済事業を含めた分社化、他業態への事業譲渡等の組織の再編が可能となる措置を検討すべき、と提言した。
 この答申がきっかけになって農協に対する批判、事業分離、独禁法適用問題などが出てくることになった。一連の財界の農協批判はこれ以降、弱者を挫き強者を育てて新しい事業分野を求めていこうという姿勢を明瞭に示していく。

◆利益追求にらむ農地制度改革

 これらの財界の要望のなかでも農地制度についてはもう勝負あったのではないかと思っている。
 97年の経団連提言では農地制度改革について具体的に提言している。「株式会社の農地取得を認めるにあたっては、段階的に進めていくことが考えられる」と指摘し、第一段階として農業生産法人の株式会社の出資要件の大幅な緩和、第二段階として借地方式による株式会社の営農を認める、そして最終的に一定条件のもとで農地取得を認める、と提言している。
 これに即して2000年に農地法改正が行われ、農業生産法人の一形態として株式会社を容認する。そして03年の経営基盤強化法の改正で出資要件が緩和された。
 さらに同じ年に特区のリース方式がスタートし、05年の経営基盤強化法の改正ではリース方式の全面展開が認められた。
 非常に問題だが、いわば勝負あったというかたちになっている。従来は営農に精進するという人たちに農地の利用権を認めていたが、利益追求の株式会社は営農で利益を上げるよりも非農業的土地利用で利益を追求することになると思う。
 強きを助ける方向の典型は、品目横断的所得安定政策の対象を限定したことである。集落営農が認められたことから対象が拡大したと安心している向きもあるようだが、対象を限定するというのが趣旨だし、財政的にも現行の予算枠のままか、むしろ総額としては減るとみたほうがいい。
 これでは構造改善は進むどころか政策の対象ではない農家の方は営農意欲をなくして耕作放棄も進み、自給率はかえって低下してしまうのではないかと思う。
 いちばん問題なのは、自給率が低下して日本の農業が荒廃しかねないということについて、農政はどうもそれでよしとしているのではないかという点だ。

◆農協攻撃と日本農業の衰退への懸念

 米の生産調整の取扱いもそこからきている。生産調整については、米政策改革大綱以来、価格維持のための生産カルテルだから農業団体が主役になって取り組めとなっている。
 しかし、それで本当にうまくいくのか。本来、生産調整とは、水田にすべて米を作付けしたのでは余ってしまうので米の作付けは減らす、しかし、水田がつぶれてしまってはいざというときの食料安保面で困るから水田はつぶさないで、転作をしてくれというのが本来の政策目的だったはず。生産者のカルテル行為だとしてしまったことは、生産調整についての政策に責任を放棄したことになる。
 それが強きを助け、弱きを挫くという方向と裏腹になっている。つまり、効率的かつ安定的な経営体ができれば低米価でも耐えられ生産調整などしなくても済むようになるという考え方だが、それは生き残るのはごく少数者でいいという考え方である。日本農業全体としては縮小再生産、これを農政としては覚悟しているのではないか。そして、財界としてはビジネスチャンスになるということから、信用・共済事業をはがして農協という競争相手を弱体化させるために問題提起をしているのではないか。農政の動きと財界の動きは軌を一にしているような気がしてならない。

生協から見た農協への提言
地域社会の人びとが主役となる農協づくりを
河野栄次氏(生活クラブ生協連会長)

◆改革ではなく新たな全農づくりを

 全農改革委員会で指摘したのは、まず不祥事のいくつかは商習慣のなかで起きているものではなかったかということ。たとえば、静岡茶と表示してあってもすべてが静岡産ではありません。問題は、本来は全農がこうしたことをどうすべきか問題提起する立場なのに、業界と同じようにやっている点だった。問題提起ができなかったのは、やはり国に依拠して成り立っていたからではないかと感じる。
 確かに国はJAや全農を農業生産の主体として位置づけてきたが、そうした関係が終わり切り捨てが始まっている。米流通システムの改革以来、すべての農産物を市場に投げ出すという戦略がはっきりしている。そこを意識的に捉えていくべきだろう。
 また、協同組合原則、価値が事業、組織運営に日常的に生かされているのかどうかも指摘した。たとえば、企業の社会的責任がさかんに言われていて、全農もとり入れようとしている。ところが、協同組合原則にとって社会的責任も情報公開も当たり前のことだと強調したい。
 一方、オールJAは大変な力を持っていることも再認識した。1億2700万人の食料を再生産しているのはどこの団体もできない。約500万人が地域環境も含めてさまざまな食料を支えていくということはそう簡単にはできない。ところが、全農の人々はそのことに自信を持っていないと思う。自分たちのやっていることの日本社会の人々の生活に占める位置について再認識をしていただきたい。
 改革は全農を新しく作ることだということも強調したい。関連会社含めて1万2000人の職員があらゆることを自らの手で見直し、今までやっていたことの問題点を明らかにする。問題があると分かっていながら仕事をしていた人がいてもその責任はあえて問わない。問わない代わりに、問題を短期間に解決して新たなかたちをつくる。そうすれば業界や制度の非常識が明らかになり闘う課題も明らかになる。
 たとえば、米の混入問題でも、一粒も米が残らない精米機などありはしない。むしろ現場の職員から、一粒たりとも、と決めることが本当にいいことかと問わなければならないと思う。

◆食文化まで見越した経済事業

 経済事業の健全性の確保でキーになるのは市場中心の見直しにあると思う。市場中心の事業展開では残念ながら自分たちの生産実態や価値評価基準がなかなか反映できない。市場流通以外で販売戦略に基づいて作る。
 作ったら売れるという時代は終わり、マーケットに対して先取りしてモノをつくる時代に入るべき。10年間で市場流通を7割にして直接取引を3割ぐらいにする力を持つ必要があるのではないか。具体的には販売チャネルの多極化で量販店や生協、食品加工業との提携、外食産業向け、通販、直売所というように価値基準を変えていく。人々の食文化、流通チャネルまで考えて組み立てることに戦略的に取り組まなければならないのではないか。
 関連会社については、設立目的に即して点検することだろう。なぜ、協同組合ではなく株式会社にしたのか、これを抜きにしては結局は同じような会社は合併ということになる。そうではなく当初目的にしたがって事業内容を再点検し、さらに業態別に5年先のマーケットを考えて再編整理することが大切ではないか。
 さらに全国で統合できる事業、地域別、県域別に整理できる事業、それからJA連合ということもあるのでは。その整理を時間を区切って展開することが必要ではないか。
 将来から見て現在を見直し、事業を組み立てる。そうすれば既存のルールは見直すことになる。

◆レイドロー報告を農協は生かしたのか

 グローバル化のもとでは農協だけはなく生協も含め協同組合の存在が問われている。
 市場経済主義の弊害として指摘したいのは、(1)徹底した営利主義、(2)貧富の格差の拡大、(3)短期的視野、(4)環境問題の顕在化。こうした市場経済主義で果たして世界の人々は豊かになるのかといえば、私はならないと思う。
 もうひとつの経済の仕組みを組み立てていかなくてはならない。そのときに中心をなすのは協同組合で、協同組合は古い組織ではなく、まさに新しい生活に必要な仕組みを作る組織として登場するということを考えながらやっていくべきだ。
 そのときに見直すべきだと思うのが1980年に発表されたレイドローの「西暦2000年における協同組合」だと考えている。
 これは多国籍企業とどう闘うかが根幹をなしている。80年代にはあまり議論されなかったが当時、生活クラブはこの本を重視して協同組合を組み立て直してみようと考えた。
 レイドローの多国籍企業と闘うための提起は、(1)世界の飢えを満たす協同組合、(2)生産的労働のための協同組合、(3)社会の保護者をめざす協同組合、(4)協同組合地域社会の建設、の4つ。
 彼は日本の農協を非常に高く評価し、総合農協こそが地域の人々を豊かにする道具であると明解に言い切っている。それを都市のなかにも作らなくてはいけないと提起していることから、私たちもまじめに考えた。

◆人々が登場する協同組合へ転換を

 その結果、私たちがたどってきたのは、たとえば、合併ではなく分権。東京は約5万人の組織を5つの生協に分割した。組織は分権化、事業は連合化と考えている。経済の流れは合併、合併だが、大勢になると協同組合には弱点があるとレイドローは指摘し意志決定に時間がかかり過ぎると言っている。
 それから徹底した情報開示。さらに食料の再生産を重視し生産原価保障方式を採用して市場価格に対抗していく取り組みを進めてきた。
 また、働く場づくりに向けて都市のなかに約23業種、弁当屋やリサイクルショップ、ケアなど労働者生産協同組合、ワーカーズ・コレクティブをつくっている。今では400団体、約1万5000人を雇用し事業高70億円になっている。
 レイドローの提起は非常に先取りしていた。食料問題というのはまさに先取りしなければならない問題で、日本の農協に対してすばらしいメッセージが出ていたと考えられる。しかし、この間、農協は組合員が主体として登場し人々の道具としての協同組合とはならず、形態を維持するだけだったのではないかと思う。
 協同組合は人々によって生活をよくする仕組みだから、まちづくり、協同組合地域社会づくりがキーだということになる。JAでも福祉に取り組んでいるが、この事業は一人ひとりを登場させることが大事な分野だから、まさに協同組合がもっとも得意のはず。もっとトータルに考えると地域の構成員の参加、参画に基づくまちづくりである。地産地消も学校給食も、たすけあいも食教育、文化活動もその視点で行うべきだろう。
 こういう活動をするには目的別、世代別の活動が必要でこれは「新しいJAづくり」ではないか。農協を解体せよといっているのではなく、農民がつくるJAに切り替えるということだろう。課題は組合員の再登録、再組織化にあると思う。

◆情報公開は協同組合の武器

 協同組合の武器は、人間関係資源と情報公開にある。人と人とをつなぎオールJAで多国籍企業と闘うもうひとつの価値概念というものを情報として打ち出していかなくてならない。情報を価値として使う時代が来たということを考えたい。
 そこで農協界が強調すべきなのは、農業生産の時間と空間について。牛肉であれば受精させてから生まれるまで10か月かかる。そして体重が800キロに育って初めて牛肉として食べられる。これが生産時間だ。飼料で考えると約8トンになる。それを牧草だけで育てようとするなら1ヘクタールで2頭しか飼えない。これが生産空間だ。
食料生産における時間と空間についてのメッセージをどう出すかもテーマだと思う。

勝ち組だけでは地域農業は維持できない
野澤博氏(茨城県・生産者)

 新たな経営所得安定対策大綱に貫かれているのは輸入自由化をさらに進め、国際競争に勝てない農家を切り捨てる「構造改革」だと思う。このような極端な農業破壊政策を打ち出した内閣があったか。農業と工業の違いをわきまえないで効率化を唯一の基準にした机上の政策は取り返しのつかない大変な事態を招くと思う。
 9割以上の中小農家、7割以上の農地が対策の対象外で一層、自給率が低下するのは明らかだ。転作補助事業で麦、大豆、そばなどを数10ヘクタール規模で展開し天皇杯を受賞した仲間がいるが、いずれも麦や大豆の価格低迷で大きな壁にぶつかっている。
 今回の政策によって本人たちはいよいよ自分たちの時代だと考えているようだが、私は自分だけ生き残れると思ったら大間違いだ、気がついたらまわりにだれもいなくて、結局は自分もつぶされるのではないかと話している。
 地域には20年前から活動してきた農業青年組織があり、地域農業の発展や後継者育成に大きく貢献してきたと自負している。しかし、輸入農産物の急増などによる農産物価格の低値安定の状態では、仲間は、息子には自分のような苦労はさせたくないなと最近は弱音を吐いている。何人もの後継者を育ててきたが今、実に大きな壁にぶつかっている。
 一方で昨年から近所にほうれん草組合をつくり7軒が生協に出荷している。70歳前後の方が大半だが、みなさん大変張り切っていて、地域農業を守っていくということはこういうことだなとつくづく思う。一部の担い手や勝ち組だけでは日本の農業や農村地域を守っていけない。

◆生産者から頼りにされる農協に

 農協について真っ先に思うことは、役員の選出方法。保守的、封建的な選出方法で、一部の地域の有力者グループからしか役員になれないのが実態。意欲ある農家や、農協に批判的な農家は絶対に役員にはなれない。内部から農協改革をしていくのは期待できず、これが農協離れにもつながっていると思う。
 さらに追いうちをかけているのが合併問題。本来、農家にとって頼れる相談相手であるはずの農協がどこへいってしまったのかという思いがある。
 長い間、農産物を直接消費者に届ける産直活動に携わってきた。消費者宅への個別配達や朝市、細々とした生協産直からのスタートだったが、今では数100人を超える仲間がいる大きな団体になった。しかし、産直団体も相手の消費者の団体も今ではずいぶん巨大化し、設立当初の趣旨や目的もあいまいになってきていることも事実。本州産の夕張メロン、偽コシヒカリなど偽物も出回っているが、本来の目的であった顔の見える産直運動から逸脱した結果であるような気がする。
 本物をつくってそれを責任をもって届ける、そして確実にそれを買ってくれる相手がいるというシステムを作り上げるのは大変な仕事だと思っている。
 まさに「農は国の礎」であり、自国の食料は自国で供給することは当然である。農業は自然そのものであり、農村地域とは文化そのもの。農業を工業と同列に扱うような財界などの農外資本の参入は大変危険。
 農業の大切さ、自給が基本であるということをいかに国民、消費者に知らせるか、あらゆる分野の人たちが協同して農業を守るべきだと思う。今の間違った国の農業政策をぜひとも変えていかなければならない。

完全自由化に抗する農協運動の理念の復活を
阿部長壽氏(JAみやぎ登米組合長)

◆総合農協の先見性

 日本農業の最大の特徴は家族農業経営。だから販売、購買協同組合だけでは不十分で信用、共済事業など総合農協であって初めて農業経営を支えられる。
 全中の調査では730JAで営農指導費用は991億円となっているが、これが総合農協の経営の足を引っ張っており、経済事業部門の赤字をできるだけなくして経済事業を自立させていくことが改革の目的だとされている。
 しかし、991億円、事業総利益の42%の支出というのは、地域農業を支えてきた費用。これは総合農協でなければできないことではないか。ここに総合農協の大きな特徴がある。
 その総合農協に対する批判は、関税の引き下げ、完全な市場経済化の方向に日本農業をもっていくという農政の本質があるからではないのか。つまり、農協は農政改革の障害だというのが農協批判の本音だろう。
 今度の農政改革では、農地改革と担い手の法人化などが柱だが、現場ではそこがターゲットにされて地銀の農業融資攻勢が始まっている。
 また、郵政民営化では、都市部では大銀行との棲み分けができるかもしれないが、農村部では農協の金融がターゲットになると思う。いわば農協に向けて郵政民営化という刺客を放ったということではないか。一方、JAバンクでは一定の基準で店舗の統廃合を進めているが、それは郵政事業に城を明け渡すようなことにならないかと危惧する。これは大きな課題だと思う。
 米の先物取引についてもかなり検討が進んでいる。到底認めることはできない。かりに先物取引市場が開設されれば、米流通は完全自由化しなければならず、WTO交渉で国境措置の必要性を主張する論拠がなくなる。
 しかし、これは予定のコースなのだろう。19年から農協が主役になって米の需給調整をやれといわれているが、集荷率が50%を切っている状況で生産調整はうまくいくか。かりにできないとなると待ってましたとばかりに、自由化と先物取引が大手をふることになるのではないか。つまり、これはあなたたち次第だぞ、自ら生産調整ができなければしかたがないではないか、との考えがあるように思える。

◆集落営農で組合員を再結集

 ただし、農協に何も問題はないのかどうかも問われる。
 たとえば、JAバンク法の施行で農協金融のいわば参謀本部は農林中央金庫ということになったことにも問題がないとはいえない。外側からみると巨大化したJAバンクは、分化・分割論の論拠にならないだろうか。共済代理店制度の施行も組合員の相互扶助という協同組合主義を失ったとみられかねない。現在、代理業務は共栄火災に限定することにしているが、いずれこの壁が取られてしまうことになるのではないか。
 農協が取り組むべきことは第一には農協運動の理念の復活だ。何も新しいことをやる必要はなく、平成9年に作成したJA綱領を実践することだと思う。
 また、農協運動の本質は家族経営農業を主軸とする地域農業改革にあり、営農経済事業は農協事業の本命であることを再認識することが大切だ。そこを貫かなければ総合農協の存在意義はない。
 課題となっている集落営農の展開も、家族経営農業を基本とした地域農業の条件整備として農協自身が活用していくことが大切。政策の意図は違うにしても、われわれはそれを利用していけばいい。多様な集落営農をつくっていくことが離反した組合員の再結集、農協運動の再構築になると期待している。

(2005.11.24)


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