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農業協同組合研究会

2007年度 第1回課題別研究会
改正卸売市場法下で農協共販は生き延びることができるか

「市場流通はどう変わるか」
東京農業大学教授 藤島廣二氏


◆抜本的な変革を遂げた卸売市場制度
藤島廣二氏
藤島廣二氏

 卸売市場法は1999年と2004年に大きく改正された。
 99年改正で注目すべき点は相対取引(相対販売)の容認だ。どの品目で相対取引を認めるかは市場取引委員会で決めることになり、相対取引品目は市場ごとに異なっていてもいいし、品目によってはすべてを相対取引にしてもよいとされた。改めて述べるまでもなく、それまでは競り取引が大原則だった。
 04年の改正で注目すべきは卸売手数料の弾力化(自由化)だ。09年4月から卸売手数料は国などが決める全国一律の公定手数料制ではなくなる。
 また、これまで委託集荷が原則だったが、買付集荷を自由化し、さらに中央卸売市場から地方卸売市場への転換も進める。
 すなわち、今回の二度にわたる卸売市場法の改正によって、1923年の中央卸売市場法の制定以来遵守されてきた「委託・競り原則」が撤廃され、公定手数料制も廃止されるなど、卸売市場制度は従来とは百八十度異なるものになる。

◆市場流経由率・経由量の低下とその要因

 このような大幅な制度の変更によって、今後、市場流通は当然大きく変わらざるを得ないが、そこに話しを移す前に、現在、既にどのような変化が進行しているかをみると、その主なものの一つとして野菜、果実とも市場経由率と市場経由量の低下があげられる。
 市場経由率は1985年ごろは野菜で90%程度だったが、現在は80%前後。果実の場合は一時は90%を超えていたが現在は50%台まで低下した。市場経由量も野菜は一時1300万トン近くあったが、現在は1100万トン程度で果実も一時は800万トンに迫っていたが、今や500万トンを割っている状況だ。
 これは何によって引き起こされたのか。
 直売所が全国的に開設されたり、宅配便で生産者から直接消費者に販売されるなど、生鮮品の市場外流通が盛んになっていることが原因ではないかとの声をしばしば聞く。
 しかし、直売所は10数億円の売上げがあれば日本でも有数だと言われる。しかもそうしたトップクラスの直売所でも野菜の売上高といえば、せいぜい4〜5億円程度。かりに一つの県の直売所の合計野菜販売額が20億円を超えるほどだとしても、数量に換算するとわずか1万トン程度に過ぎない。47都道府県で合計してもせいぜい50万トンだ。かりに50万トンすべてが市場外流通品だとしても市場経由量1000万トンにとってどれだけ影響しているといえるだろうか。
 宅配便の場合は果実が中心であるが、かりに取り扱い個数が年間で3〜4億個にのぼるとしても、その数量はせいぜい30〜40万トン程度にすぎない。しかも、宅配便の場合には、小売店が卸売市場から仕入れた果物が贈答品として送られることも多い。いずれにしても、宅配便の伸びが市場経由率の低下に大きく影響したとは言い難い。

◆輸入加工品の増加が原因

 実は生鮮品の市場経由率、経由量が低下したいちばん大きな原因は加工品の増加である。とくに輸入の加工品の増加が影響している。調べてみると実際に市場外流通量の増加と加工輸入品の増加に非常に強い相関がある。市場外流通量の増加分の9割近くは加工輸入品の増加によるものと考えていい。
 加工品は今後も増えると考えられる。理由はたとえば2000年代に入ってから野菜ジュースが大きく伸びていること。健康志向が強まっているからだが、ジュースであれば1日分の必要野菜量を容易に摂取できるし、食べるより飲むほうが楽ということもある。
 果実についてもジュースが多い。輸入果実は生鮮換算で300万トン程度になるがそのうちの3分の2はジュース。今後はさらに、業務用需要の増加に応じて缶詰類も増えるだろう。保管のきく缶詰のほうが取り扱いやすいというのがその理由だ。
 なお、今後も卸売市場が生鮮品に特化する限り、市場経由率と経由量の低下は避けられないが、そうなると改正卸売市場法下で卸売市場間競争が激しさを増すことになろう。具体的には、手数料の弾力化(自由化)によるその引き下げ競争、あるいは生産者への巡回集荷等の付加サービス競争等が強まると考えられる。

◆買付集荷の増大と小売店の大型化

 既に始まっている変化としてもうひとつ注目しておきたいのは、競り販売比率と委託集荷比率の低下である。
 競りの比率はかつては80%を超える状況だったが99年の改正を機に低下し現在では野菜、果実とも25%程度になっている。委託集荷比率も大きく低下している。これらは言うまでもなく相対販売と買付集荷比率の上昇を意味している。
 相対販売、買付集荷が増えた大きな理由は小売店の大型化だ。量販店は安定価格で供給することを販売戦略としているため、卸売市場は日々の価格変動が激しい競り取引よりも相対取引を推進しなければならない。また一方、そうした量販店に応えて安定供給力を高めると同時に、産地の意向にも対応するために買付集荷も増やさざるをえない。
 ここで特に留意しておくべきは、買付集荷の収益率が低く、委託集荷の半分程度にすぎないことだ。これは今まで委託集荷の割合が高かったために問題となることはなかった。しかし、今後は買付集荷の割合が増えるとなると、卸売市場も買付集荷品で利益を上げる必要がある。となると、今回の市場法の改正を受けて、卸売市場は産地からできるだけ安く買い付け、小売店等にできるだけ高く販売するようになろう。もちろん、従来とは違って、産地と利害が反するようになる。

◆多段階手数料制は不可避

 以上のことから今後の展開を予測すると、まず、加工品の増加への対応として総合市場化という方向がありえるのではないか。実際、青果物の加工品だけでなく、卸売市場によっては既にコメの販売を手がけているところもある。ただし、総合市場となると、生鮮品の地位の低下は避けられない。
 一方、従来のノウハウを生かして生鮮品に特化した卸売市場として存続する方向もあろう。しかし、この場合、生鮮品流通が少なくなるため生鮮品市場としての卸売市場数は大幅に減らざるを得ない。これは産地にとって決して好ましいことではない。
 なお、加工品を取り扱う場合も、生鮮品だけの場合も、今後、第三者販売等が認められたことによって、市場間の連携が進む可能性が高い。
 現在、地方市場や小規模市場を含めてそれぞれの市場が互いに特定品目を担当するかたちで一括して大量に仕入れ、その荷を市場間で分割していくというお互いが対等なかたちで共同化を図る方向が検討されている。
 しかし、こういう水平・対等型の連携ではなく、ゆくゆくは荷受市場と配送市場というような役割分担をする垂直型の連携になると思われる。
 取扱品目の点ではなく、手数料の点からは今後どのように展開が予測できるであろうか。
 生鮮品の価格は常に変動しているが、輸入品や加工品の増加など供給過剰基調にあるため低価格に収斂していくと考えられる。そうなると手数料の全面的な引き下げは非常に難しくなる。
 つまり、先ほど自由化にともなって手数料の引き下げ競争が起きると指摘したが、それはすべての生産者に対し一様に引き下げられるということではない。
ある地方卸売市場の切花の競りの販売コストを調査したが、それによると1ケースごとの競りか、複数ケースを一度に販売するかで、同じ競り品でも販売コストが大きく異なることが明らかとなった。
 1ケースごとに競りをする荷の場合、その販売コストは手数料(販売価格の10%相当分)を大幅に上回り、大きな赤字であった。
 同一規格の2ケースの荷を一括して1回の見本競りで販売して、ようやくコストと手数料が見合う程度であった。3ケースを1回の見本競りで販売すると、1ケースごとの販売に比較してコストが半分ほどになり、間違いなく黒字であった。要するに、同じ規格の荷がどれだけまとまるかで、販売コストがまったく違うのである。
 となると、まとまった荷になるほど手数料が引き下げられ、ばら荷に対しては手数料が引き上げられるかも知れない。
 すなわち、手数料の弾力化(自由化)による引き下げ競争は、価格の低位収斂化状況の下では一律手数料制から多段階手数料制への移行を進める可能性が高い。
(「全農青果サービス(株) 代表取締役社長 森口俊氏の報告」へ)

(2007.7.20)


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