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【提言 金子勝・慶應義塾大学経済学部教授】農業・農協が「抵抗勢力」なのか2018年1月9日

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・日欧EPAとTPP11がもたらすもの

 2017年は日欧EPAの交渉が妥結、TPP(環太平洋包括連携協定)は米国抜きのTPP11として大筋合意した。これら通商交渉を推進してきたのは経済界だが、日本の大企業の不祥事が続々と発覚した年でもある。しかし経営者はほとんど責任をとっていない。「不正がまかりとおる無責任社会」と批判する金子教授に、農産物のさらなる市場開放がもらたす問題点と責任ある農業政策をどう構築すべきか、2018年の課題を提言してもらった。

◆無責任な財界こそ改革を

金子勝・慶応義塾大学経済学部教授 安倍政権が発足してから、TPP、日欧EPAが推し進められ、農協が「改革」の対象とされてきた。経団連を中心とする財界は、政府に対してその推進を求めてきた。そして農業は、「市場原理」から見て「遅れた部門」であり、大規模化して民間企業とりわけ株式会社の仕組みを持ち込めば、「効率化」するという議論が行き交う。だが、本当だろうか。
 むしろ日本の大企業は失敗のモデルではないのか。この間、名だたる大手企業で無資格者による品質管理やデータ改ざんが相次いで露見している。神戸製鋼、日産自動車、富士重工、三菱マテリアルの子会社2社、三菱アルミと続き、いまや経団連会長の出身企業の東レまでが「不正」を行っていることが露見した。しかも、発覚しても経営者はほとんど責任をとっていない。

(写真)金子勝・慶應義塾大学経済学部教授

 
 不正がまかり通る無責任社会が始まったのは、1990年代の銀行の不良債権処理問題だった。経営者が責任をとらないまま問題の先送りが続けられ、2011年の福島第一原発事故後でも同じことが繰り返された。そして日本の産業衰退が止まらなくなっている。IT革命に遅れて、電機産業は新製品を生み出せなくなり、国際競争力を低下させていった。
 重電機産業と電力業でも、政府が原発再稼働・輸出路線をとってきたために、東芝の経営危機を招いた。そして、分散型エネルギーの送配電網の構築は遅れ、結果、新しいエネルギー産業の成長が遅れている。いまや自動車産業の電気自動車への転換(EV転換)でも遅れが目立ち始めている。経済界は、農業部門に犠牲を押しつけて貿易交渉を進め、そのために農業の「改革」が必要であるという前に、自らの「改革」が急務であるという自覚に欠けている。

 

◆深刻な貿易協定の打撃

 そうした中で、安倍政権は交渉内容を公開しないまま貿易交渉を行ってきた。日欧EPA(経済連携協定)が2017年7月に大筋合意、同年12月に交渉が妥結した。同年11月には、カナダは首脳会合を欠席する中、アメリカを除く11か国間でTPP(環太平洋包括連携協定)が大筋合意されたとされる。政府は両者でGDPを13兆円押し上げると効果を強調し、農水産業の損失は2600億円と見積もっているが、既存の農産物生産が落ち込まないことを前提とした試算に意味がない。
 日欧EPAの合意内容を見ると、乳製品で大幅な関税撤廃が行われる。ソフトチーズなどチーズを3.1万トンの輸入枠を設けて16年目に関税を撤廃する。脱脂粉乳・バターは6年間で、生乳換算で1.5万トンまで関税を低下させる。つぎに畜産では、豚肉が低価格帯にかける従量税を10年で現行1キロ当たり482円から50円に引き下げられ、牛肉は16年で従価税を38.5%から9%に引き下げられる。
 TPP11でも、米国からの輸入分も含めて7万トン(生乳換算)と設定された乳製品の低関税輸入枠の縮小ができなかった。この部分はオーストラリアとニュージーランドからの輸入が埋めていくことが予想される。
 これらの措置は酪農、畜産に深刻な影響を及ぼしかねない。チーズやバタ-の関税撤廃・引き下げは生乳の売れ先をなくす。とくに北海道の酪農の被害が大きいが、北海道の生乳が飲用向けに本州で販売されるようになれば、価格下落が起きる可能性がある。安い豚肉の流入は、飼料米の売れ行きに影響を及ぼしかねない。
 政府は、一応18年度予算で対策費として53億円を組んだ。一定の乳質基準を満たした酪農家が生産する生乳のうちチーズ向け1キロ当たり12円を交付する。自らチーズにしたり、チーズ工房に販売したりする生産者には、それに3円が上乗せされる。だが、現状では、相当の生産性上昇が起きなければ、これで29.8%の関税撤廃に対処できるか疑わしい。
 もちろん関税が撤廃される果物なども、賃金の安い国で商社が品質管理を行って、安いものが大量に入ってくる可能性もあるが、こうした点も十分に考慮されているとは言いがたい。
 日欧EPAとTPP11の大筋合意を契機に、次にトランプ米大統領がより強く日米2国間貿易交渉の圧力を強めてくるだろう。トランプ政権はロシアゲート事件で苦しい立場に追い込まれているからだ。中間選挙で勝つには、「自国中心主義」を掲げた以上、自国に有利な貿易協定を締結することが至上命題になってくる。実際、トランプ政権は、北米自由貿易協定(NAFTA)や米韓自由貿易協定(FTA)の再交渉を始めた。日欧EPAとTPP11の「合意」内容がベンチマークになって、それ以上の譲歩を求めてくることは必定だろう。

 

◆農業対策になっていない

 こうした一連の農業を破壊する合意内容に対して、政府が打ち出している対策には問題が多い。飼料米に補助金を出すことで当面、米価が上がっているが、減反政策の見直し、さらに豚肉・牛肉の関税の大幅引き下げが行われていけば、大量の外国産豚肉や牛肉が輸入されるので、飼料米の売り先がなくなってしまい、やがて対策は成り立たなくなってしまう。
 つぎに、農地を集積して大規模化を図り、株式会社を導入する政策も問題が多い。アメリカの平均耕作面積は約200ha、オーストラリアは約3000haもあるのに対して、日本はわずか2.9ha程度。そもそも、規模で競争することはできない。しかも、耕作放棄地になっているところは中山間地域が多く、大型機械も入らない所では、いくら土地を集積しても「効率化」は進まない。価格下落する下で、競って借金をして規模を拡大すれば、さらなる農産物価格の下落をもたらすだけだ。農業は農繁期と農閑期では労働需要が大きく違うので、常用雇用を雇うと経営は成り立ちにくい。農業生産は規模を拡大して株式会社化しても「効率化」は達成しにくいのだ。

 

◆新しい農家経営モデルを

 もう少し農家目線で考えてみよう。人々が農業をやってみようと思うには、農家1戸あたり最低500万円を稼げる見通しが必要である。農家は住居費や食費が低いので、サラリーマンの平均所得を上回れば、それなりに生活していける。
 では、どうしたらよいのか。まず、農業基本法以来とられてきた大規模専業農家モデルというドグマから解き放たれないといけない。中小零細農家の強みを活かすには、農薬を減らし安全と環境を「売り」にするとともに、いかにして兼業機会を自ら増やしていくのかが大事だ。この間、地方では工場はアジアに出て行き、兼業機会が大幅に減った。そして、若者が地域外に流出するようになった。工場誘致が難しくなった以上、産直や直売所、あるいは直接加工に乗り出すことによって、流通の中抜きを取り込むことで利益を上げていく垂直統合としての6次産業化が有効だ。6次産業化は農家に新たな兼業機会を創り出すこともできる。
 さらに、世界的な再生可能エネルギーへの転換に合わせて、ドイツやデンマ-クのようにエネルギー兼業農家になるのも一つの方法である。耕作放棄地や飛び地での太陽光発電設置、農地の上に細長い太陽光パネルを設置するソーラーシェアリング、貯水池や農業用水での小水力発電、海岸や牧草地での風力発電などを自ら行っても良いし、地域単位で出資するのもいい。同じ1次産業である再生可能エネルギーを生産することで、農家は地球環境と安全の守り手になる。こうした試みによって、農業は職業的ミッションを持った先端産業に変貌できる。
 あとは本業の農業で採算がとれるようにするには、もし関税による「保護」を無くすのであれば、WTOルールにしたがって直接に所得補償をすべきである。そうした所得対策抜きには担い手は育たない。下から所得を積み上げて、どんな人でも最低限生活が成り立つ、新たな農家経営モデルを若い世代に向かって提示することが求められている。

 

(かねこ・まさる)
昭和27年東京都生まれ。
50年3月東京大学経済学部卒。東大大学院経済学研究科応用経済学専攻博士課程単位取得修了。茨城大人文学部助教授、法政大経済学部助教授などを経て平成元年同教授、12年慶應義塾大経済学部教授。著書に『資本主義の克服 「共有論」で社会を変える』(集英社新書、2015年3月)、『負けない人たち 金子勝の列島経済探訪レポート』(自由国民社、2016年9月)など多数。

 

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