農政 シリーズ詳細

シリーズ:時論的随想 ―21世紀の農政にもの申す

【梶井 功 東京農工大学名誉教授】

2016.03.08 
(103)農地所有 なぜ必要か?危機感持て 特区法改正一覧へ

 3月2日の国家戦略特区諮問会議で、企業の農地所有を限定的に認める特例措置をとることが決定された。この特例措置をとることを盛り込んだ国家戦略特区法改正案が近く閣議決定されるそうだ。特例措置のポイントは、3・3日本農業新聞の記事によれば次のようになっている。

◆首相主導の狙いは?

○企業の農地取得 特例措置のポイント
【農地取得の透明性】
・自治体がいったん地権者から買い取り、企業に売り渡す
 ※50a以上の農地売買には議会の議決が必要
・農地取得が必要な企業名と理由を公表
【農地の現状回復措置】
・荒廃時などには、自治体に農地の所有権を戻す・農業委員会は自治体に利用状況を通知
【対象地域の限定】
・国家戦略特区のうち
 (1)担い手の著しい不足
 (2)耕作放棄地増加の恐れ-を条件
 →当面は兵庫県養父市に限定
【期間の限定】
・5年間の時限措置

 この問題は、2月5日に開催された国家戦略特区諮問会議で竹中平蔵委員らから突如提案され、当日の"......担当大臣に、実現の方向で対応策を検討していただき、最終的には私の判断で、法案に具体的成果を盛り込みたいと考えています"という安倍首相の締めの発言から急速に案がつくられることになったらしい。
 つくられた案は、"農地の荒廃を防ぐ担保措置を条件に、特区内で企業の農地所有を解禁する"(2・7日本農業新聞)というものであり、現行法では2分の1未満となっている総議決権を2分の1以上とすることなどを改正特区法案に盛り込むことになっていた。


◆特例では済まない

 現行法では、といったが、その現行法は、昨年の農協法等改正法のなかの農地法改正で、これまで4分の1未満とされていた農業者以外の出資比率を2分の1未満に引き上げたばかりで、その施行は4月1日からということになっている現行法だった。農業参入企業等の要望を入れて緩和し、施行直前にきている段階で、農地の荒廃を防ぐ担保措置つきとはいえ改正法を超える農地所有権を企業に認める改正をしろ、というこの要求には、自民党の先生方も頭に来たらしい。2月23日、自民党参議院農業・農協研究会は、"農地所有解禁は「農地法の根幹を揺るがすものであり、農家の不安と動揺は計り知れない」...農業生産法人の農業者以外の出資比率については...改正農地法で2分の1未満まで引き上げるのが「...ぎりぎりの意見集約の結果」と指摘。農林幹部に対し、党内の多くの意見を踏まえ、議論を経て集約するよう強く求める"(16・2・24「日本農業新聞」)とする申し入れを行ったそうだ。
 冒頭引用の特例措置のポイント"農地取得の透明性""農地の現状回復措置""対象地域の限定""期間の限定"等の条件は"党内の多くの意見を踏まえ、議論を経て集約"した結果、つけられた条件だった。が、この条件で企業の所有権取得欲求を抑制できるだろうか。改正を求める根拠が明確でないことをもっと強く主張し、取り下げさせるべきではないか。
 企業の農地所有権取得を強く主張したのは、竹中委員の外では国家戦略特区になっている養父市の広瀬栄市長だが、市長は所有権取得が必要な理由として、
 (1)中途解約のほか、土地所有者の代替わりによって契約が更新されない等のリスクのあるリース契約ではなく、農地を所有することで、長期的・安定的経営を行い、スケールメリットを活かした思い切った事業展開が可能。
 (2)事業拡大に合わせ、「企業ブランド」を活用した若者の新規採用に繋げ、担い手不足を解消。を上げていた。
 が、これは理由にならない、と私は思う。というのは農地についてはリースが成立した以上は、そして当該企業がきちんと営農している限りは、農地法第十七条及び第十八条で賃借権の継続は保証されているといっていい。また、"長期的・安定的経営"を行うためには利用権の長期安定が必要だというのであれば、それは2009年の農地法改正で賃貸借の存続期間は"二十年ヲ超ユルコトヲ得ス"としている民法第六〇四条を農地については"「五十年」とする"と改正(農地法第十九条)していることの活用で足りるとすべきだろう。市長はそれでもリース契約は本来的に"リスクのある"契約だとするのだろうか。
 所有権取得がなぜ必要なのか、自民党の先生方はもっと詰めるべきだ。


◆財界、20年越し目論見

 経団連は20年前の1997年に出した『現行農業基本法の見直しに関する提言』で、"農地法改正から四五年経った今日、農地改革の成果を維持するという農地法の役割は既に終わったと考えられる。自作農主義を原則とした農地法そのものを抜本的に見直し、優良農地の保全とその有効活用という農業経営の視点を柱に据えた法律にすべきである"とし、"株式会社の農地取得の段階的解禁"を提言、"第一段階として、農業生産法人への株式会社の出資要件を大幅に緩和し、第二段階として借地方式による株式会社の営農を認める。そして最終的に、一定の条件の下、株式会社の農地取得を認める方式が考えられる"と言っていた。
 "当面は兵庫県養父市に限定""5年間の時限措置"というかたちで権利を制約しているように見えるが、本音は経団連のあの"最終的"な段階へのステップを特区法改正で踏みださせようということなのか。

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