農政 シリーズ詳細

シリーズ:どうするのか この国のかたち―食料・農業・農村を考える

2018.02.28 
【インタビュー・小池晃・日本共産党書記局長】協同の基本理念は共通一覧へ

・大企業寄り農政とは対決

 日本共産党は党綱領で農業は「基幹的生産部門」と明記している。小池晃書記局長(参議院議員・医師)は農業の成長産業化をめざす安倍農政は大企業のための農業と批判する。めざすべき農政と農協への期待などを聞いた。聞き手は谷口信和東京農業大学教授。

seri1802280305.jpg 谷口 かつて東北大学医学部を卒業し、医師として働いている方が東大の農業経済学専攻の大学院を受験されたことがあります。農村で患者を診ていると、そこに農村や農業のあり方が反映していて、個人の病気を治すだけでは不十分で、社会として病気を診ていかなければならないという話をされ、選考する私達のほうが感銘を受けました。小池書記局長も医師から政治の道に進まれました。その経緯からお聞かせ下さい。

 
 小池 私は地域医療の第一線で仕事をしたいという思いが強くあったので、東北大学医学部卒業後すぐに出身地の東京に戻り現場に入りました。そこから政治の道に移ったのは、私もやはり疾病の背景に社会的な要因がものすごく大きいと感じたからです。医師になった1980年代半ば以降は、いわゆる臨調行革路線のなかで医療制度が改革され、患者負担が増えていった時代でした。
 実際、厳しい労働環境のもとでなかなか病院に来ることができずに手遅れの状態になってから来院する患者さんも少なくありませんでした。そういうなかで党からも医師の国会議員が必要だという話がありました。ですから医学から政治へと違う道に進んだという意識は余りありません。それぞれのドクターは医療機関で患者さんの病気と闘っていますが、私は日本の政治の病を治すんだという思いで仕事をしています。現場の実態をふまえて解決策を考えるというのは医療だけではなく、農業問題にも通じる日本共産党の基本だと思います。

 

◆農村から日本に変化

 谷口 共産党は世間では都市型で労働者の政党だと思われていますが、日本農業新聞の昨年4月の農政モニター調査によると比例区での投票予定率は政党支持率より高いという結果でした。反対に、自民党は政党支持率は高いけれども、農業政策への期待度は低く、比例区投票予定率は更に低いという状況でした。これをどう見ますか。

 
 小池 共産党の規約では「労働者階級の党であると同時に日本国民の党」だとしています。日本共産党は戦前から農業問題を非常に大きなテーマとして取り上げ続けており、農民が小作人として苦しめられている時代から、土地を農民へ、を掲げて闘っていました。それはある意味で戦後の農地改革というかたちで実りました。
 その後も自民党農政とは正面から対決し、とくに輸入自由化路線はだめだということを一貫して主張してきたように、農家や農協に関わるみなさんの思いにいちばん応える政策を打ち出してきたと思います。党綱領では「農業を基幹的な生産部門として位置づける」と明記しています。これが揺るがぬ基本スタンスですが、それが意外だと思われてしまうのは、たしかにまだ私たちの考えが十分浸透していないということだと思います。
 一方で自民党は農家、農村のことを大事にしているように見せかけながら実はいちばん大事にしているのは財界ではないのか。とくに、最近では規制改革会議に見られるような新自由主義的な方向にまい進している。今までであれば財界でもある程度は尊重してきた日本の戦後経済の仕組みすらを敵視し、規制だと言って攻撃する。農協攻撃はその典型です。
 安倍政権は、日本を世界でいちばん企業が活躍しやすい国にすると言っているわけです。それも当面のキャッシュフローをどうするかというような話であって、すべてをいかに株価を引き上げるかといった問題にしていく。その結果、日本経済の土台を作ってきた農業も踏みつけにするし、モノづくり産業も壊してしまっている。
 だから農村部でも自民党支持とは言いつつも、政策はあまり支持できないというギャップが生まれてきているのではないか。たとえば、われわれは選挙で野党共闘を追求していますが、これまでうまくいっているところは東北地方などの農村地域が目立ちます。やはり地方から今の安倍政治に対してこれでいいのかという声が上がりつつあり、農村が日本を変える時代が来つつあるのではないかと思います。

小池晃・日本共産党書記局長(左)と聞き手の谷口信和東京農業大学教授

(写真)小池晃・日本共産党書記局長(左)と谷口信和・東京農業大学教授

 

◆憲法は食料安保の土台

 谷口 この連続インタビューでは憲法と農業の視点から意見を伺っています。スイスは昨年の国民投票で食料安全保障を憲法に盛り込むことにしました。どうお考えですか。

 
 小池 かつてアメリカのブッシュ大統領は食料を自給できない国を想像できるか、それは国際的圧力と危険にさらされている国だ、と演説しましたが、その通りだと思います。
 私は今の日本国憲法はすでに食料安全保障をも包含するような中身を持った憲法だと思います。国家安全保障と食料安全保障、そして社会保障の3つの安全保障を統一的に実現することをめざしているのが今の憲法です。安全保障は軍事に頼るという時代はもう終わっています。軍事力に頼るだけでは国民の命を守れないということは歴史を見れば明らかです。今、本当に必要なのは外交の力で解決するという、まさに憲法9条が示した道で安全を守っていくことであり、それが世界の流れになっていくと思いますし、9条だけではなく、13条の幸福追求権や25条の健康で文化的な最低限度の生活をする権利などは食料安全保障の土台になり得る条文です。
 スイスの国民投票結果は注目すべきことではありますが、実は日本の憲法はすでにその先を行っているのではないか。たとえば、憲法の前文には「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないようにすることを決意し」、「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有する」と書いてありますが、まさに食料安全保障を含めた国家安全保障をめざす憲法になっているのではないかと思います。

 
 谷口 日本国憲法が持っている基本的な哲学をもっと強調していく必要があるということですね。しかし、安倍政権はTPPや日欧EPA一直線です。どう見ますか。

 

◆成長戦略 間違いだらけ

小池晃・日本共産党書記局長 小池 かつては規制改革会議などから抵抗勢力といわれても農水省は農家、農村の立場でそれなりにものを言ってきたと思います。厚労省もそうだったと思いますが、官邸支配が強まり、もの言えぬ空気が霞ヶ関全体を支配しているのは非常に危険だと思います。
 TPP11について政府は二国間交渉を回避するためだと言っていますが、まったく逆効果になると思います。これを批准してしまったら、今までのTPPの農産物市場開放の既定路線を踏襲してしまうわけだし、もしアメリカが参加しない形でTPP11が発効すれば、アメリカからの市場開放圧力は逆に高まっていく。日米二国間交渉が進められるのは必至であり、まさに最悪の道だと思います。
 日欧EPAでは乳製品などでTPPを上回る市場開放を受け入れていますから、北海道の酪農家などにとっては深刻な打撃になる。なにより深刻なのは安倍政権がTPPや日欧EPAを成長戦略の柱としていることで、なぜこれが成長戦略なのかということです。成長戦略とはやはり基幹産業である農業が元気になる、農業所得が増える、地域経済が活性化するということであって、これがない限り成長などあり得ないと思います。自由貿易一辺倒では地域経済は壊滅することは、アメリカを見ればはっきりしているわけで、だからトランプが出てきた。そういう歴史の教訓にまったく学んでいないといわざるを得ない。
 さらに重大なことは情報公開がまったくされていないことです。どういう交渉をしているのかまったく分からない。肝心な内容を隠したまま結論だけを押し付ける。TPP11はもう一回批准しなおさなければなりませんから、やはり徹底的な審議が必要だと思います。

 

◆大企業優先 許さず

谷口信和・東京農業大学教授 谷口 その問題のほかに今国会には農林水産関係法案が9本提出されるようです。これらの評価はいかがですか。

 
 小池 全体として非常に問題が大きいと思っています。とくに卸売市場法改正案については、許可制から認定制に変えて民間企業も中央卸売市場を開設できるということですが、政府の責任が大きく後退すると思います。民間企業の支配力が大きくなると競争力のない地方の卸売市場が淘汰される可能性もありますし、第三者販売禁止が取り払われれば仲卸を介さずにじかに量販店と取引することになる。仲卸のみなさんは目利きであって、きちんと選んでいいものには適切な値段をつけ、それによっていい商品が食卓に届き、生産者も報われるという重要な機能を果たしてきたと思いますが、これが弱まると中小の八百屋や魚屋、地場流通などが後まわしにされかねません。
 また、コンクリート張りハウスの農地扱いについては農業以外に転用される懸念もあるのではないか。それから名義不明の農地の活用のための手続きを簡素化することについては、農地の有効利用ということと個人財産権の保障をどう両立させていくのか、よく検討して不明な点はきちんと正していきたいと思います。
 いずれも大事な法案だと考えていますから、法案が出てきた段階でしっかり吟味していきますし、やはり全体として安倍政権がやろうとしている大企業のための農業の方向にもっていくような動きについては対決していきたいと思っています。

(写真)谷口信和・東京農業大学教授

 

◆農協解体は暴論

 谷口 産業政策で強い農業をつくるだけで、地域政策はいらないという今の農業政策は総合農協をつぶすことにつながりかねません。農協の役割についてどうお考えですか。

 
 小池 農協が果たしている2つの役割を分けることはできません。農業者は農業生産の担い手であると同時に農村の生活者ですから、それに応える2つの役割を農協は持っています。分けるなんてことはまったくナンセンス。農協が農業経営の支援として資材の共同購入や共同販売、営農指導に取り組みながら、同時に生活資材の共同購入や、共済事業などをやっているのは農業者がその両面を持っているからであって、当然、その2つをやらなければ成り立たないわけです。
 それを分けるということは農協の存在を根底から否定する暴論であって、そんなことをされたら農家はずたずたにされてしまうし、大手流通資本の支配を直接農村が受けるようになる。それでは日本の農業も農村も守れないし、国家安全保障も食料安全保障も全部崩壊するということにつながっていきます。

 
 谷口 ところが農協の側では共産党に対していわゆるアレルギーがあるようです。そこはどう受け止めていますか。

 
 小池 最近は変わってきて農協の集会などに行くと自然に歓迎していただくことも増えました。やはり輸入自由化は反対だときっぱり言って、全力を挙げて自給率を上げ、担い手の育成は価格保障と所得補償で支えるという共産党の方向は大多数の農業者のみなさんが一致する方向ではないかと思いますので、地道に努力をしていきたいと思います。
 協同組合とはみんなで協力し、支配する・されるという関係ではなく協同で農村社会をつくっていこうということですね。共産党もそういう政党です。大企業、資本家による搾取をなくして本当の意味でみんなが平等な社会をめざそうということです。共産の産は個人の土地や財産ではなく、生産手段を指しているのであって、それを社会化して搾取のない社会をつくっていこうと、そこは農業協同組合の基本理念と共通する部分があるのではないかと思っており、同じ方向を向いていると考えています。

【インタビューを終えて】

四字熟語で表現すれば、国会中継で垣間見る通り、沈着冷静・論旨明快・舌鋒鋭利だが、内科医らしい温情横溢の方だった▼現行の日本国憲法が国家安全保障・食料安全保障・社会保障の三つの安全保障を統一的に実現しようとしており、食料安全保障は9条、13条、25条が土台になりうるのではないかという指摘にハッとさせられた▼憲法改正が俎上に上りつつある中で、改めて現行憲法が熟読玩味に値するものだと気がついたからだ▼己が党の後退に直面しながらも、選挙では野党連携・統一の方向に揺るぎない活路を見出そうとする姿勢にこの党の成熟の一端を垣間見る思いがした。(谷口信和)

(関連記事)
【インタビュー・立憲民主党代表 枝野幸男衆議院議員】食料・国土守る農業 経済政策とは分離を(18.01.16)
【インタビュー・希望の党代表 玉木雄一郎衆議院議員】農政を基本政策の柱に土着の保守政党めざす(18.01.12)
【インタビュー・細田博之・衆議院議員自民党憲法改正推進本部長に聞く】大切な食料安全保障の確立(18.01.10)
【インタビュー・石破茂・自民党衆議院議員に聞く】農業の潜在力がこの国を創る(17.12.08)
【民進党衆議院議員・玉木 雄一郎】食と農、地域を守る誇りを持つ(17.04.18)
【小沢一郎 自由党代表】地域のために農家が立ち上がれ(17.02.27)
【インタビュー・民進党衆議院議員篠原孝氏に聞く】国会審議は不十分(16.12.17)
農業は日本文化の根幹 亀井静香衆議院議員(16.08.02)

一覧はこちら


このページの先頭へ

このページの先頭へ