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量販店では、新米でも5s1980円以下…
米の再生産はできるのか? 卸業界も不安視する事態に

12年産米緊急対策 卸業界の反応

JA全中は、8月2日の理事会で12年産米の緊急対策の検討に入ることを決めたが、一方、低米価に苦しむ米卸業界からは、「小手先の対応で乗り切れる局面ではない。抜本的な需給改善が不可欠。海外援助の拡大、大幅な生産調整の拡大など素人でも分かる手法が必要」との声も挙がっている。  (関連記事: JA全中 12年産米 緊急対策の検討を開始 (8/2)


売り上げ確保に苦しむ業界

 「宮崎などの12年産早期コシヒカリが量販店で、どう販売されるのか知っていますか。(11年産の)茨城などの関東コシヒカリの精米販売の棚を一部空けて、そこに宮崎コシヒカリを並べることになるんですよ。
 新米と古米の違いはあるけれど、食味に格差はありますか。知名度では茨城などのほうが上。この関東コシヒカリが、量販店の棚に5kg1880円程度で並べられているときに、新米だからといって宮崎コシヒカリが5kg2000円以上で売れるわけがない。過剰在庫でコメが余っていることは誰でも知っているんですから」(関東のある大手主要卸)。

 宮崎・鹿児島・高知・徳島の12年産早期米価格が昨年の11年産同期比60kg当たり1000円以上下落した。この理由については冒頭の大手主要卸のコメントが象徴的に物語っていると思われる。
 この不景気で、量販店といえども売上高を確保することが至難の技となってきている。このため商品陳列棚には、できる限り売れ筋商品だけを並べる傾向が強まってきている。だから新米といっても最早、売れない(売れ行きが悪くなる) ような小売価格は付けられ ない。

 したがって、卸にとっても量販店の棚に食い込むには、新米の宮崎コシヒカリでも5kg1980円以下にする必要があるが、小売価格を5kg1980円以下にして売り出すには、卸段階での玄米の仕入れ価格が60kg1万6000円程度でなければ採算が合わないことになる。さらにいえば、この価格帯まで値下がりしてこない限り、品揃え上必要な最低必要数量しか各卸ともに買えないことになる。

早期米でも高値つかず

 事実、宮崎などの12年産早期コシヒカリの価格・需要動向は、この通りの展開となった。
 安くなければ売れないといっても、他の量販店や卸よりも早く新米を売り出したいという販売競争は顕在で、出回り始めの7月26日ごろまでなら宮崎や鹿児島コシヒカリも1万8000円以上の値が付いた。

 だが、新米セールの開始を急ぐ各量販店や卸への出荷が一巡してからは荷動きがやや停滞。収穫が本格化するはずの7月下旬に長雨や台風6号の影響で出荷が遅れるような格好になっても、各卸からの引き合いが鈍く、各産地の経済連はズルズルと価格を引き下げざるを得なくなったからだ(早期米販売は8月のお盆前までが勝負で、高値を維持して売れ残すわけにはいかない事情がある)。
 ほんの3年ほど前までは、台風などの影響で収穫が遅れると、需給が一時的に逼迫。収穫作業が回復するまで価格が反発するのが常だったことを考えるとと隔世の感があるが、過剰在庫のなかでは新米といえども特別な存在ではなくなり、米価が最早、生産・収穫の状態とダイレクトに連動しなくなってきたことが特徴になっている。

 つまり、あくまでも各卸ともに「使える価格帯」である60kg1万6000円程度に値下がりしてくるまで待ち続けるスタンスになってきたのだ。

前年比マイナス2000円の相場感も

 また、これは早期米だけの現象と見ることは誤りで、今後収穫が始まる北陸や東北などの普通期の12年産米でも同様の状況に直面する可能性も大きくなってきているのが実情と考えられる。
 前述通り早期米は半月から1か月勝負のコメ、一方、東北などの普通期は1年間かけて販売するコメであり、確かに販売期間は異なるが、売れる価格帯のものでないと買わないという販売業者側のスタンスはそのままで、必然的に各産地ともに値下げ販売を迫られる格好になることが想定されるからだ。

 実際、その通りの米価になるのか否かは分からないが、今後出回りが始まる各産地の12年産米についても量販店や卸側では既に値決めを実施している。

 あくまでも概ねの目安価格だが、△新潟一般コシヒカリ・クラスで1万8000円(60s、以下同)△栃木や茨城、千葉などの関東コシヒカリ、滋賀や福井などの2番手グループのコシヒカリで1万6000円△東北ひとめぼれ、あきたこまちクラスで1万5500円△それ以外のキヌヒカリなどのB銘柄で1万5000円△北海道きらら、青森むつほまれクラスで1万4000円ーーであると算出。同価格帯に値下がりするまでは様子見を続ける気配が出てきている。(これは新潟一般コシヒカリで11年産価格比2000円、関東コシヒカリや東北ひとめぼれクラスで同500〜1000円、北海道きらら等で同500円程度の下落に相当。全産地銘柄の自主米入札の落札加重平均価格では、概ね11年産価格比1000円値下がりの1万6000円程度になることも意味する)。

 新潟一般コシヒカリなら5kg2000円以上でも売れるだろうが、関東クラスのコシヒカリでは宮崎の早期米と同じく5kg1980円以下にすることが不可欠である。ひとめぼれクラスなら5kg1880円程度が目途だ、というのがその理由である。
 もちろん、これは販売業者側の一方的な相場感であり、そうなると決まったわけではない。また生産現場から見ると、最早、生産コスト割れの価格帯であり、簡単に容認できることでもないだろう。だが、この流れを覆すには今のコメを巡る需給状況が余りにも深刻であることも事実だ。

生産調整の大幅拡大求める声

 宮崎などの12年産早期米価格の下落に危機感を抱いたJA全中が12年産米の緊急対策の検討に入ることを決めたことは、政府側にもに論議の早期開始を呼び掛ける格好にもなった。緊急対策に取り組む検討メモでも指摘されたとおり、今年10月末の国産米在庫は国の基本計画を50万トンは上回る270万トン前後に達する見通しとなった。これは昨年10月末の在庫数量(255万トン)を越えるものであり、さらにいえば今年の12年産の作柄次第では在庫数量が300万トンを越えるという2〜3年前の最悪の需給状況に逆戻りすることをも意味する。 こうした状況に対して関西のある大手主要卸では次のように述べている。

 「今の国産米在庫や12年産米の豊作基調などを勘案すると、12年産自主米価格の1000円下落は避けられないのではないか。量販店などといくら折衝しても、『そんなにコメが余っていてなぜ、値上げできるのか。消費者にどう説明できるのか』と切り返されるだけであり、小売価格を今の11年産米と同じくらいの5kg1980円以下で設定せざるを得ないからだ。
 ただ、来年の13年産米以降もこうした米価下落が続いて欲しいと考えているわけでは決してない。米価が下落すれば量販店も卸も単価が落ちた分、マージンが減少。また、再生産確保が困難な水準まで価格が落ちてきていることも承知しているからだ。販売・流通業者から見ても、安心かつ美味しい国産米を今後とも売り続けたいのが本音。全中の検討メモと同様に販売業者側も今の状態については危機感を抱いている。

 だが、たとえば10万トン、20万トン程度のエサ米処理などを行っても、また、政府米の販売凍結などを実施しても、これはコメ業界内だけで通用する専門的な在庫対策であり、量販店や消費者にはまったく理解されないのが実態。

 厳しい状況であることは間違いないが、100万トンを越える海外援助とか大幅な生産調整の拡大とか、素人でも分かるような手法で問題解決を図って欲しい。つまり最早、小手先の対応で乗り切れる局面ではなく、抜本的な需給改善が不可欠になってきていることがポイント。米価の適正水準とはどの程度なのか、販売業者側でも最近は分からなくなってきているのが実情だが、米価下落は今年の12年産米で一旦、歯止めを掛けて、来年以降から仕切り直すという観点からの取組みを期待したい。ただ、今回も小手先の対応に終始するようなら米価続落は避けられない。正念場だと思う」−−。


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