農業協同組合新聞 JACOM
   
解説記事

本紙調査
生産現場 第一線のJAはいま何を考え何を要求しているのか
―JAへの「米政策アンケート」調査結果まとまる―
米改革 現場では「理解されていない」が7割にも


 JAの米事業担当者に定期的に行っている本紙恒例の「米政策アンケート」は、今回、昨年末に決まった「米政策改革大綱」への評価をテーマに行った。アンケートは3月中旬に実施。米主産地の159JAからの回答を集計してみると、改革の中身が「理解されている」は13%と低く、一方で「理解されていない」が69%と極めて高く、現場への浸透がまだまだ不十分であることが浮き彫りになった。同時に今年の生産調整への取り組みも混乱を懸念する声が過半を占めた。アンケート調査結果の概要を紹介するとともに、森島賢立正大学教授に分析、評価をお願いした。
<調査結果>

Q 今年の生産調整への取り組みは?
  生産調整「混乱する」が過半占める

 米政策改革の決定とともに決まった106万ヘクタールの15年産生産調整への取り組みについては、全国集計では「やや混乱する」との見通しを持つ回答がもっとも多く、44%だった。「混乱する」の22%と合わせると7割近くが生産調整の達成に懸念を抱いていることが浮き彫りになった。ただ、ブロック別にみると「昨年と変わらない」とする回答がトップを占めた地域も、北海道(58.3%)、東海(52.5%)、近畿(46.0%)、九州(50.4%)となった。また、「混乱しない」との回答も北海道では15.8%だった。

今年の生産調整について

Q 今度の「米政策改革」は現場で理解されているのか?
  米政策改革は「理解されていない」が7割にも達する

 今回の米政策改革を現場がどのように受け止めているかを探った質問だが、全国集計では「全く理解されていない」が5%、「理解されていない」が69%と合わせて7割を超えた。
 ブロック別にみると「理解されていない」は、北海道、東北、関東、北陸、東海、近畿まではもっとも高い回答だが、中四国、九州では「どちらでもない」が高くそれぞれ61.8%、49.4%となっている。
 また、「理解されていない」は北陸では90%、関東では85%。「まったく理解されていない」は東海の18%がともっとも高い。
 

今後の「米政策改革」について
今後の「米政策改革」について(地域別)

Q 15年産対策として重視することは?
  栽培履歴記帳の推進に取り組む現場

 改正食糧法が施行されるのは16年度からだが、15年産は改革に向けた移行期となる。JAが重視する取り組みについて複数回答で質問した。
 全国集計でもっとも回答率が高かったのが「栽培履歴記帳の推進」で94.2%とほとんどのJAで積極化していることが明らかになった。ついで「施設集荷の拡充」66.5%、「安全性の確保」61.9%などとなった。消費者の安全、安心への関心の高まりに応えるための取り組みとJAへの集荷向上が大きな課題であることがうかがえる。

15年に向けて強化している取り組みについて

Q 米政策改革で評価できることは?
  「米政策改革」について良いと評価できる点
  「改革までの準備期間」への評価は高く

 「米政策改革」について評価できるところについて複数回答で聞いた。
 もっとも回答が多かったのは「改革までの準備期間を長くとっている」で40.6%だった。ついで「生産構造の改革が期待できる」30.3%。
 ブロック別にトップ項目をみると北海道は「食料危機への管理体制が整備される」(28%)、東北は「消費者の信頼が得られる」(68.8%)、関東、北陸、中四国は「改革までの準備期間が長い」(79.7%、45.9%、27.3%)、近畿「生産構造の改革」(22%)、九州「関係者の創意工夫」(34%)。

「米政策改革」についてよいと評価できる点

Q 米政策改革で懸念されることは?
  今度の「米政策改革」について懸念される点
  過剰米処理、適正配分を懸念

 米政策改革で懸念される点を聞いた。複数回答でもっとも高くなった項目は「過剰米の処理」で79.6%となった。ブロック別にみると、関東(94.1%)、東海(72.9%)、九州(88.3%)でトップ項目となった。ついで「生産目標数量の適正配分」が74.9%。近畿(76.5%)、中四国(83.1%)でトップ項目になっている。
 そのほか、地域別のトップ項目は、「米価の下落」が北海道(84.9%)と東北(95.8%)。北陸は「実際の生産量の確認」(70.4%)がもっとも高かった。

今後の「米政策改革」について懸念される点

Q 今後の政策で政府に望むことは?
  今後の米政策について政府への要望する主な項目
  米価の下落対策、政府の責任の明確化を

 今後の米政策について政府への要望を聞いた。全国集計でもっとも高かったのは「米価の下落対策」で87.1%。ついで「政府の責任の明確化」が86.9%、「過剰米の処理」も80%と高かった。
 「米価の下落対策」についてブロック別にみると61%から95%までと回答率にばらつきがみられた。ただ、北海道、関東、近畿、九州ではトップの項目になっている。
 その他のブロックのトップ項目はいずれも「政府の責任の明確化」で、東北98.2%、北陸86.2%、東海73.7%、中四国93.3%となった。

今後の米政策について政府に要望する主な項目
政府に要望すること―「米価の下落対策」のブロック別集計結果

<生産現場の声> (自由回答から)

Q 農政上の問題(米政策、WTO交渉、食料自給率、食品の安全問題など)について ご意見をお聞かせ下さい。

【北海道】
●食品の安全性について、栽培履歴の記帳など農家には大変な作業となっている。道の防除基準また地域普及センターとの連携のなかで今まで取り組んできており、以前から安全な生産をしていることを消費者に伝えていくよう取り組んでほしい。
●諸問題が山積みする今日、高齢化後継者不足から農地流動化が阻害され一番心配している。有休農地とならないような政策がなく残念。
●米政策については、行政との連携が必要であり、JAの合併など現場において生産者を含めた進め方が重要。
●WTO交渉でモダリティ案が示されたが北海道の大規模畑作地帯にも影響が大きく出ると思われる。食の安全・トレーサビリティーの実施が不可避である現在、とても受け入れられるものではない。政府の毅然とした対応を望む。

【青森】
●今回の米政策改革の内容は、JA担当者は理解できるが生産農家は理解できないと思う。

【岩手】
●性急な生産構造改革は、集落営農に問題が出る。農産物物価が下落しており、農業に魅力がなく担い手だけでの生産で自給率の向上がはかれるのか。WTO交渉は、農業のもつ多面的機能を前面に出してガンバレ。

【宮城】
●食料自給率向上目標を明確にし、政策上の責任を果たすよう要望する。

【山形】
●生産調整参加率の低下により計画外流通米のシェアの急上昇が懸念される。最低価格支持の明示と担い手対象の所得補償の措置を講じてほしい。
●今回の米政策でも不公平性が解消されていない。集落営農に取り組む体制作りにはかなりの時間を要する。

【福島】
●WTO交渉において日本提案が受け入れられなければ、どう決断するのか明確に説明してほしい。

【茨城】
●米政策大綱について農家に理解できるような説明が不足している。

【栃木】
●国のつくった「食料・農業・農村基本法」を実行すべきだ。米は国民の主食であることから食管法により国が管理してきた。過剰米が発生すると30年余におよび莫大な予算をもって減反政策を行い、万策尽きた現在、農業団体にその責任を丸投げしようとしている。米の消費量の落ち込みは少子高齢化の進展のなか容易に予測はできた。減反政策についても罰則の適用もないあいまいな制度で単年度クリアできればというまさに役人的な政策に終始した結果である。国は農業政策の失敗を認めるべき。

【群馬】
●今回の米政策は中山間地に対する対策がなされていない。主食である米は政府が責任をもって守るべきだ。MA米の削減を。

【千葉】
●最近の食品をめぐる情勢は、輸入野菜の残留農薬問題や民間会社の産地偽装問題など、消費者から食品の安全、安心に対して非常に厳しい目が向けられている。改めて農薬の適正使用の周知徹底を。
●農薬問題等、食品の安全性について、すべて農家がリスクをもっていると思う。

【神奈川】
●市場原理に基づく需要に応じた米づくり、輸入米、万一の場合に備える危機管理としての備蓄、これら相容れない事柄を実務に即した自主的な取り組みで、どの様に実現できるか、具体性に欠けていて、実効は望めない。
●食料自給率の向上、日本の農業を守れ。
●色々な面で農家への負担が多すぎる!!

【新潟】
●ミニマム・アクセス米の廃止を

【富山】
●全国の農家、全国のJAの要望が何一つ米政策改革大綱に反映されていない!
●改革後の詳細な説明などを早期に示してほしい。

【石川】
●アメリカ、オーストラリアなど米輸出国に対し、強硬な姿勢で対応し国内の米生産の維持に努めてもらいたい。

【福井】
●事務処理を完結にできるよう望む。
●輸入米の数量の削減。稲作経営安定対策の廃止など朝令暮改的対応はやめてほしい。

【滋賀】
●WTO農業交渉の結果が米価に大きく影響し、「米政策改革」自体がダメになる可能性があると思う。WTO交渉がカギ。
●米政策改革は、小規模農家を切り捨てる方向に向かっていくように思われる。

【岐阜】
●政策として農業を維持する上で、地域農業(集落)という点を考慮しないと、総崩れになりはしないか、日本独自の営農を考えていかなければ、海外に侵略されてしまう。

【静岡】
●このアンケートへの回答を農政対策に反映してください。

【愛知】
●米に関わる事務処理的な部分が少しでも簡単・明瞭になることを切望する。

【三重】
●米政策、WTO農業交渉すべてにおいて経済界の圧力が見え隠れしているが、国の立場が明確に見えない。責任逃れの感は否めない。

【奈良】
●分りやすくしてほしい。
●米政策改革大網は米産地の政策であって、奈良県のような都市近郊圏消費県には合わない。

【和歌山】
●食糧生産だけでない農業の果たす役割機能につき、国策としての国民合意形成に向けた取り組みを望む。
●食品の安全対策がより強化される中で、ますます自給率は低下するように思われる。

【鳥取】
●MA米で一方で米を輸入しておきながら、今までの生産調整が上手くいかなくなった今、生産者、農業団体に「米政策」を丸投げしたような形は気に入らない。

【岡山】
●栽培管理日誌の徹底をしなければならない。

【徳島】
●日本の米が余り転作しなければならないのに、どうして輸入するのか? 米の偽装で農家、消費者を裏切る業者が多い。

【香川】
●売れる米を作ることが大事。
●米政策改革大綱よりもWTO交渉の結果次第では、水田農業の崩壊になりかねないから、WTO交渉に全力をあげてほしい。

【愛媛】
●日本の食料・農業を見直し、その価値を再認識してほしい。●市町村(行政)の支援が明確にされてない。

【高知】
●小規模農家切捨て政策になっているのでは……。米は日本の主食であることを国はあまり重要視していないのではないか。

【福岡】
●コスト低減により、外国産米との価格差を埋めるため、担い手育成の支援が行われているが、水利確保等の作業は集落(兼業含む)で実施されており、特定の担い手だけで対応できるのか問題である。
●米政策・WTO交渉など、将来にわたるビジョンを明確に示してほしい。

【佐賀】
●国内の米政策改革・WTO農業交渉の決着結果を踏まえて、早急に国・JA一体となった生産・販売対応を決定して頂きたい。

【熊本】
●米政策について、中核農家の育成が重要ではあるが、零細農家が何十万戸あることを忘れないでほしい。WTO交渉では、自動車・電気・パソコンなど工業製品による黒字拡大の貿易不均衡を農林漁業製品の輸入拡大による解消策とならぬよう断固拒否してほしい。
●WTO交渉における日本提案の限りない実現を。

【宮崎】
●過剰米の価格次第では、生産者は直接消費者へ販売し、在庫の減少にならない面もある。また現在の生産調整は事務量が多く、現地確認など少しでも作業を減らす施策を考えてもらわないと現場は手が回らない状況です。

【鹿児島】
●新しい米政策においては、さらに計画外流通米が増え、需給バランスがさらに崩れるおそれがある。

<調査方法>

1)調査対象は全国47都道府県のJAとした。
2)調査対象のJAの抽出方法は次の通りとした。
 イ・JA数が4以下の県は全JA
 ロ・JA数が5〜24の県は1/5のJA
 ハ・JA数が25以上の県は1/10のJA
 ニ・1JAとなった奈良、香川、沖縄については、合併前のJA数で抽出した。
3)調査対象は169になった。
4)各地域は次の通りに分けた。
 イ・北海道(北海道)
 ロ・東北(青森、岩手、宮城、秋田、山形)
 ハ・関東(福島、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、東京、神奈川、山梨)
 ニ・北陸(長野、新潟、富山、石川、福井、滋賀)
 ホ・東海(岐阜、静岡、愛知、三重)
 ヘ・近畿(京都、大阪、兵庫、奈良、和歌山)
 ト・中四国(鳥取、島根、岡山、広島、山口、徳島、香川、愛媛、高知)
 チ・九州(福岡、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島、沖縄)
5)回収数は156で、回収率は92.3%だった。

<調査項目>

1.貴JA管内の状況についてお聞かせ下さい。

問1. 106万haに拡大された今年の生産調整について、該当するものを1つだけ選び、○をつけて下さい。
(1)混乱する、(2)やや混乱する、(3)昨年と変わらない、(4)ほとんど混乱しない、(5)混乱しない

問2.今度の「米政策改革」について、該当するものを1つだけ選び、○をつけて下さい。
(1)十分理解されている、(2)理解されている、(3)どちらでもない、(4)理解されていない、(5)全く理解されていない

問3.15年産の作柄が昨年と同じになると仮定したとき、貴JAの集荷量は昨年と比べてどうなるとお考えですか。該当するものを1つだけ選び、数字をご記入下さい。
(1)○○%程度増えるだろう、(2)ほとんど変わらないだろう、(3)○○%程度減るだろう

問4.上記の問3で「(1)○○%増えるだろう」または「(3)○○%減るだろう」を選んだ方にお聞きします。その理由は何ですか。

問5.貴JAは15年に向けて、次のうちのどの取り組みを強化していますか。該当するものすべてを選び、○をつけて下さい。
(1)庭先集荷、(2)早期精算、(3)JA直売、(4)売れる米づくり、(5)計画外米の取り組み、(6)大規模農家・生産法人などへの取り組み、(7)安全性の確保、(8)施設集荷の拡充、(9)農家個別訪問、(10)栽培履歴記帳の推進、(11)その他

2.今度の「米政策改革」について、お聞かせ下さい。

問6.良いと評価できる点はどの点ですか。該当するものをすべて選び、○をつけて下さい。
(1)メッセージが明確でわかりやすい、(2)効率的で無駄がない政策だ、(3)透明性のある政策だ、(4)関係者の創意工夫が生かされる、(5)消費者の信頼が得られる、(6)食料危機への管理体制が整備される、(7)生産構造の改革が期待できる、(8)改革までの準備期間を長くとっている、(9)その他

問7.懸念される点はどの点ですか。該当するものすべてを選び、○をつけて下さい。
(1)市町村別目標と県目標のマッチング、(2)全体の需給見通しと生産目標数量の決定、(3)生産目標数量の適正配分、(4)実際の生産量の確認、(5)実際の生産量が生産目標数量以上に増える、(6)JAの集荷量の確保、(7)米価の下落、(8)輸入米の処理、(9)過剰米の処理、(10)担い手の確保、(11)核となる生産者の確保、(12)生産組織の存続、(13)その他

3.今後の米政策について、政府に対する要望をお聞かせ下さい。

問8.政府に要望する主な項目について、該当するものをすべて選び、○をつけて下さい。
(1)政府の責任の明確化、(2)輸入米の処理、(3)過剰米の処理、(4)備蓄米の棚上げ処理、(5)JA米への支援、(6)米価の下落対策、(7)担い手への支援、(8)生産組織への支援、(9)協同組合運動への支援、(10)食料の自給率向上運動、(11)食品の安全対策、(12)消費拡大の取り組み、(13)その他

問9.農政上の問題(米政策、WTO交渉、食料自給率、食品の安全問題など)についてご意見をお聞かせ下さい。 (2003.4.21)

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