農業協同組合新聞 JACOM
   
解説記事

中身の分からぬ「米政策改革」
立正大学教授 森島 賢


 JAの米事業担当者に定期的に行っている本紙恒例の「米政策アンケート」は、今回、昨年末に決まった「米政策改革大綱」への評価をテーマに行った。アンケートは3月中旬に実施。米主産地の159JAからの回答を集計してみると、改革の中身が「理解されている」は13%と低く、一方で「理解されていない」が69%と極めて高く、現場への浸透がまだまだ不十分であることが浮き彫りになった。同時に今年の生産調整への取り組みも混乱を懸念する声が過半を占めた。アンケート調査結果の概要を紹介するとともに、森島賢立正大学教授に分析、評価をお願いした。

 「米政策改革」なるものが進行している。そのさなかに行われた本紙恒例の「米政策アンケート」の集計結果が発表された。
 この調査は全国の992のJAの中から、綿密な設計にもとづいて、169のJAを調査対象として選定し、集計したものである。調査に回答したJA数は156で、回収率は実に92%だった。
 したがって、この調査結果は全国のJAの意志を忠実に反映したものと考えてよい。


◆あいまいな「改革」

 調査結果をみると、現在進行中の「米政策改革」の中身は理解できない、と多数(74%)のJAが回答している。
 こんどの「改革」は「メッセージが明瞭で分かりやすい」ことが第一の「理念」だと言っているが、多くの農業者にとっては全くその逆で、なにを言っているのか、さっぱり分からない、というものである。
 なぜ分からないのだろうか。もっと時間をかけて、じっくりと説明を聞けば分かるのだろうか。そうではない。中身そのものが曖昧模糊としているのである。

◆農業者は主役ではない

 「改革」では、今後の減反は、農業者が主役になるというのだが、まずこの点が分からない。
 それでは、いったい今までは誰が減反していたというのだろうか。今まで農業者はワキ役だったというのだろうか。そのとき主役は誰だったのか。脚本家は誰で、誰が演出家だったのか。そもそも農業者は舞台の上で、虚構を演じるようにして減反をしていたのだろうか。
 そうではない。農業者は観客などいないところで、整然と減反を実行してきた。減反の失敗、つまり米価が回復しないどころか、下落しつづけることに強烈な不満を抱きながら、しかし減反しなければ、もっとひどいことになるので、やむをえず身を切るようにして、主体的に減反を行ってきたのである。
 だから、今後は農業者が主役になる、といわれても、何のことやら分からないで、とまどうだけである。米政策を、しかも、その中核になる減反制度を、どのように改革するのか理解できないのは、むしろ当然のことである。

◆政府の責任を明確に

 「改革」で言いたいことは、次のことではないか。つまり、今後の減反は農業者の責任で行い、政府は新しい減反制度がもたらす結果について、全く責任を負わない、ということではないのか。
 だから「主役」などとわけの分からぬことを言うのではなく、「政府はいっさい責任を負わない」と言うべきだったのである。
 しかし、そうなると減反制度は改革どころか、制度じたいが崩壊するだろう。その結果、わが国の稲作は壊滅し、輸入米に蹂躙されてしまうだろう。このことは、すでに本紙(02・9・5日号)で述べた。
 それゆえ、あからさまに「政府は責任を負わない」と言ってしまうと、農業者からだけでなく、国民からも激しい反発を受けるだろう。アンケート調査でも大多数(87%)のJAが政府の責任の明確化を求めている。
 そのことを予想して、だから「主役」などという曖昧な言い方をしたのだろう。「改革」の中身が「分からない」というのは、言うまでもないことだが、「反対だ」ということを、やさしい心づかいで、婉曲に表現したものなのである。

◆売れないのは農業者の責任ではない

 「売れる米づくり」というのも、わけの分からぬ言い方である。これも「改革」の中心的な考えで、これからは売れる米づくりをするのだという。では、今まで売れる米づくりをしていなかったのだろうか。
 自給自足の時代はともかく、商品生産として米づくりをしてきた数百年の間、農業者は売れる米づくりを続けてきたのである。いったい「改革」は何を言いたいのだろうか。
 すぐに思いつくことは、いま、売れない米、つまり在庫米が大量に売れ残っていることである。その原因は減反の失敗と輸入である。国内生産で需要を十分に満たしているのに、大量の米を輸入しているからである。
 それなのに「改革」では、輸入米を全く無視している。輸入という言葉さえ、どこにもない。
 この輸入米に目をつむって、売れ残るのは売れる米づくりをしていないからだ、と言いたいのだろう。そして、その責任を農業者に押しつけようとしている。在庫圧力で米価が下がるのも、農業者が売れる米づくりをしないからだ、と言いたいのだろう。
 そうではなくて、売れ残るのは、また、その結果、在庫圧力で米価が下がるのは、米政策の、ことに輸入米と減反政策の失敗が原因なのである。

◆選別政策をやめよ

 「米づくりの本来あるべき姿」というのも、分からない。
 小規模な兼業者や高齢者にとっての「あるべき姿」と大規模な専業者にとっての「あるべき姿」は全く違ったものだろう。この両者が集落ごとに話し合って「あるべき姿」を作るというのである。
 政府は中立的な立場のようにみえるが、しかし、そうではない。「改革」では、大規模専業者だけを対象にして、米価下落時の対策を用意している。つまり、小規模農業者を切り捨てて、大規模農業者だけの米づくりを「あるべき姿」と考えている。
 これでは話し合いは成り立つはずがない。その結果、共同体としての集落は崩壊してしまうだろう。

◆減反制度の真の改革を

 このように、わけの分からぬことを数え上げればきりがない。しかも、根本的なところで訳が分からない。だから、すべてが曖昧になるのである。
 このことは、今後この政策を具体化するなかで、換骨奪胎する余地があることを意味している。
 では、どうすればいいか。それは輸入米のゼロをめざした削減と、減反制度の真の改革によって、米価を再生産が可能な水準に回復し、維持することである。
 このアンケート調査でみられるように大多数のJAは、輸入と減反政策の失敗によって積み上がった、過剰米の処理を要求しているし(80%)、米価の下落対策を要求している(87%)。
 この根本のところをないがしろにした「改革」は、米政策の混迷を深めるだけに終わるだろう。
 米政策の改革のまえに、まず改革すべきは、政策立案者の頭脳ではないのだろうか。(2003.4.21)


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