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21世紀の畜産事業を拓く

川下の声を聞くことから始めよう
「21世紀の畜産事業を拓く」の連載にあたって

◆牛肉自由化から始まった農畜産物の輸入拡大

 「食料・農業・農村基本法」の施行以後、JAS法の改正、農業環境3法の成立など、生産から加工、流通まで国内の農業と食品産業を取巻く環境は大きく変化してきている。なかでも国内農業生産に決定的ともいえる影響をおよぼしたのは、20世紀の最後の10年間に急速に増大した農畜産物の輸入だといえる。
 農畜産物の輸入拡大への道を拓いたのは、昭和63年の牛肉・オレンジの自由化だといえよう。その後、ガット・ウルグアイランド合意でコメ輸入が決定され、それが40%近い生産調整を行いながらも米価が回復しない大きな要因となっている。
 この間、大きな政治的な問題として取り上げられることはなかったが、野菜類の輸入は静かに拡大していた。そのためここ2年近く国内産野菜類の価格が低迷し、昨年秋から一般セーフガード(緊急輸入制限)の発動が生産者から要求され、やっと野菜の輸入が社会的な問題として取り上げられるようになった。

 数年前、訪日していた韓国の若い生産者は「ソウルへ出すより、日本へ出した方が収益が良いので、日本向け生産1本に絞ってミニトマトを生産している」と語っていたが、そのトマトは今回の政府調査からはずされた。調査対象となった生シイタケ・ネギ・イ草や調査対象からはずされたトマト・タマネギ・ピーマンだけが輸入の影響を受けているわけではない。日本の商社などが行っている開発輸入もあり、大なり小なり多くの野菜が輸入の影響を受け、地域経済に大きな打撃を与えはじめている。セーフガード発動を求める県市町村議会の意見書が900以上に達していることが、そのことを証明しているといえる。
 コメの自由化が決まったときに「コメも畜産と同じ道を歩むことになる」と指摘する声があったが、それはコメにとどまらず国内農業全般にあてはまるような状況になってきている。

◆「国際化」の競争に耐えられない者は去れ?

 「自由化」の嵐の中に真っ先に投げ出された畜産がどういう状況になったのかを概観すると、畜産生産農家戸数は、昭和60年に比べ乳用牛41.5%、肉用牛39.3%、豚14.5%、鶏卵4.0%、鶏肉45.4%へと大きく減少した(表1)が、1戸当たり飼養頭数は増えており、規模が拡大したともいえる。
 しかし、食生活の変化などで需要が拡大するなかで、鶏卵は生産量を増やしているが、牛肉はほぼ横ばい、豚肉と鶏肉は生産量を減少させている(表2の各A)。鶏卵を除けば、拡大した需要分、さらに国内生産減少分を輸入畜産物が占めるという構図になった。

 輸入畜産物の増加状況は表2のCと「輸入率」および表3の通りだが、最近の傾向として生肉ではなく、唐揚げや焼き鳥のような調整加工品の輸入が増えてきている。
 輸入畜産物が国内でのシェアを高めてきた最大の要因は、低コスト=低価格だといえる。国内の生産者や生産者団体は、輸入畜産物と対抗するために、低コスト化や効率化などさまざまな対策を行ってきたが、先に見たようにシェアが縮小し、「畜産は魅力ある産業とはいえない」状況となり後継者が育たず、生産者の高齢化が進んできている。

 例えば、肉用牛生産農家の経営主の51.8%が60歳以上であり、さらに後継者がいない農家が78.7%もある。経営規模が小さくなればなるほどこの傾向は強い(農水省「畜産統計・平成11年版」)。また農水省の「農業構造動態調査(10年1月1日)」によれば、肉用牛の販売額が収入の80%以上を占める生産農家数は、3万2380戸と肉用牛飼養農家の4分の1以下となっている。
 牛肉・オレンジからコメ、野菜へと農畜産物全般に影響が拡大している輸入の増大化を支えている論理は、「国際化(グローバル化)」と「市場原理」だ。日本農業にとって「国際化」とは、一方的な輸入農産物との競争激化を意味し、「市場原理」はその競争に耐えられないものは市場から去れということにほかならない。

◆自給率目標の実現は消費者の選択で決まる

 すべての農畜産物が輸入との競争を強いられるなかで幕をあけた21世紀は、畜産生産者に再び10数年前と同様の事態が起きる可能性が高いことを予感させている。さらに公害問題を発生させないことはもちろん、環境に優しい生産システムの構築が求められている。
 昨年3月、2010年の食料自給率目標を供給熱量(カロリー)ベースで45%にすることを盛り込んだ「食料・農業・農村基本計画」が答申された。そこでの畜産物の自給率目標は、牛乳・乳製品が70%(1998年〈平成10年〉71%)、牛肉38%(同35%)、豚肉73%(同61%)、鶏肉73%(同67%)、鶏卵98%(同96%)となっている。

 国内の畜産物の総消費量は表4のように大きな変化はなく、牛・豚・鶏肉の食肉3品がシェア争いをしているといえる。そうしたなかで、この自給率目標が実現できるかどうかは、最終的には消費者が国産畜産物と輸入物のどちらを選択するかで決まるといえる。

◆消費者・実需者の期待にどう応えるか

 最近は、輸入物の品質が良くなり、日本人の嗜好やニーズに合わせたものが増えてきている。そうした中で、生産者や供給側にできることは、価格、安全性を含んだ品質、美味しさという消費者ニーズに応えた畜産物を、環境問題などをクリアしながら生産し、国産の良さと存在感をくっきりと国民の前に示すことではないか。
 昨年開催された「第22回JA全国大会」は、「安全・安心な食料の供給等による消費者との連携」を今後の基本課題とし、「消費者に信頼される農産物の供給(フード・フロム・JA運動の展開)」を提唱。経済事業改革の重点施策事項として、(1)消費者や取引先に評価される安全・安心な農畜産物の提供、(2)売れる農畜産物づくりに向けた地域ごとの生産振興・販売企画の強化、(3)多様な販売体制の強化など、5項目を決議した。

 これを実践するためには、生協や量販店、外食や中食、さらに通販やコンビニエンスストアなどで消費者が実際に加工品を含めた畜産物を購入するときに、価格・安全性や品質、美味しさにどのような基準をもち、国産畜産物に何を期待しているのか。それは、年齢や性別、家族構成、地域で違うのか、同じなのかを知らなければならないだろう。
 また、例えば量販店では売上が低迷するなかで収益の確保と効率化のために、品目ごとの仕入ではなく、畜産物全体を一括したり、さらに野菜など他の食材と一緒に仕入れられる仕入先を求めるなどの変化が出てきている。
 さらに、インターネットを利用した仕入れをはじめた企業もある。ある外食大手企業では、インターネット利用は、当面は国内だが、ゆくゆくは海外をも視野に入れて展開する予定だという。

 こうした実需者サイドの変化にも生産者・供給サイドが対応しなければ、国産畜産物の売場そのものが確保できない時代になってきている。


 本紙では、こうした状況のなかで、日本の畜産産業が、消費者に支持され、魅力ある産業として若い後継者が参画できるようになるためには、何が必要なのかを考えるための一助としてこのシリーズを企画した。
 取材はまず、畜産物販売の現場である生協・量販店・外食産業、畜産物加工販売業者など川下の状況を明らかにすることからはじめる。そして、川下で提起された課題や期待に生産者やJA全農をはじめとするJAグループがどう応えようとしているのか。国や地方自治体に求めていくものは何かなどを探ることで、21世紀の畜産産業を拓くための課題を考えていきたいと思う。

 掲載した表データは、「いいちくさんドットコム」(http://www.e-chikusan.com)のサイトに掲載された「ののむらFC事務所」作成のデータをもとに本紙が編集した。


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