農業協同組合新聞 JACOM
   
特集:JA共済でゆたかで安心な地域社会を

インタビュー
JAの総合力発揮で永続的な発展めざす
「答申」の具体化で21世紀の共済事業を拓く

JA共済連 前田千尋理事長に聞く
インタビュアー 白石正彦  東京農大教授


 JA共済連会長の諮問機関、農協共済審議会は2月からの審議をまとめた「JA共済事業の今日的な事業展開方向とこれを実現するためのJA・連合会の一体的な事業実施体制のあり方」を4月24日、新井昌一経営管理委員会会長に答申した。
JA共済連は、答申を受け今後、平成16年度からの次期3か年計画策定など新たなJA共済事業の具体化を本格化させる。今回は具体化の方向について前田千尋JA共済連理事長に聞いた。聞き手は白石正彦東京農業大学教授。

◆年末に次期3か年計画案を策定

前田千尋氏
前田千尋氏

 白石 農協共済審議会の答申書は、(1)JA共済事業の進むべき方向、(2)盤石な事業基盤の構築と今日的な事業実施要件の確保、(3)JA・連合会を通じた事業実施体制の再構築、(4)答申の具体化に向けた最重点課題、の4つの柱で構成されています。(骨子は別掲
 今日は、JA共済事業を取り巻く環境変化などについてのご認識とこの答申に盛り込まれた内容をこれからどう具体化していくのか理事長にお聞かせいただければと思います。まず最初に、答申を受けて、今後、どのようなプロセスで進むのかをお話しいただけますか。

 前田 今回、審議会にJA共済事業の展開方向などの審議をお願いしたのは、平成16年度からの次期3か年計画策定に向けた大きな流れを作っていくという目的もありました。
 そこで、答申については理事会で説明したのち、5月21日の経営管理委員会に報告をしましたが、経営管理委員会からは答申内容をふまえて次期3か年計画の具体的な策定作業に入るようわれわれ執行部に指示されたところです。
 今後のプロセスですが、3か年計画の“骨子”については、内部検討を7月中旬ごろまでに終える予定で、その骨子(案)をもとに経営管理委員会、あるいは県本部長とも一体となって議論したうえで、9月上旬に“原案”としてまとめたいと考えています。
 さらに12月中に「次期3か年計画案」を策定し、来年3月の臨時総代会に付議して正式決定するという手順になります。

◆農家組合員あってのJA共済を原点に

 白石 さて、今回の答申で私がいちばん評価したいのは、JA共済事業の使命を明確にしたことです。画期的な点です。この点を中心に答申の第一の柱(1)についてどう受け止めておられるのかお聞かせください。

 前田 JA共済事業は、半世紀にわたる農家組合員のご理解と系統役職員のご尽力により大きく発展することができましたが、最近は、金融も含めて生・損保業界は合併、合従連衡など生き残りをかけた熾烈な競争が展開されています。また、一方では、われわれの対象である農村市場では農業従事者が減少し高齢化しているという現実もあります。
 こういう環境変化の激しいなかで共済事業を永続的により発展させるためには、どう見直したらいいのか、また具備すべき条件は何かということを識者の方の知恵もお借りして議論をしたいという狙いがあったわけですね。
 そこで「JA共済事業の進むべき基本方向」として「常に組合員・利用者を最優先し…最良の『安心』と『満足』を提供し続けるものであること」など5点が打ち出されたわけですが、この点については、各委員の方から現場で農家組合員と日頃接する中で実感していることを盛り込んでいただいており非常にありがたいと思っています。
 さらに先生がご指摘されたJA共済事業の「使命」(別掲)ですが、これはわれわれ事業を預かっている役職員が日頃、どういう気持ちで取り組んでいくべきかを3つにまとめていただいたと思っています。役職員一人ひとりが持つべき共通認識ということですが、これは今回の答申の大きな特徴であり、目玉だと思っています。使命という言葉になっていますが、事業への取り組み姿勢、あるいは心構えを整理してもらったと思っています。
 私としては、この使命とは、“農家組合員、あるいは利用者あってのJA共済である”ということを端的に集約していただいたのだと受け止めています。

 白石 抽象的な理念ではなく、事業の使命、ミッションが明確です。第1は「安心」と「満足」の提供ですが、これは心に触れる事業、ということだと思います。2番めは具体的な事業を通じての生活づくりという使命、3番めは地域社会づくりへの貢献ですが、社会的役割を明確にしたものですね。

 前田 組合員・利用者の立場に立って考える、という原点をわれわれが常に頭のなかに持ち続けることが非常に大事だろうと思います。そしてそういう使命を認識した職員が営々とこの仕事にあたっていく。そのことによってよりよい伝統が生まれて来るという期待感も持っています。

JA共済事業の使命

◎JA共済は、農業協同組合が理念とする「相互扶助」を事業活動の原点とし、常に組合員・利用者の信頼と期待に応え、「安心」と「満足」を提供します。
◎JA共済は、最良の保障・価格・サービスによる「ひと・いえ・くるまの綜合保障」の提供を通じて、組合員・利用者の豊かな生活づくりに努めます。
◎JA共済は、事業活動の積極的な取組みを通じて、豊かで安心して暮らすことのできる地域社会づくりに貢献します。

◆JAの総合事業で地域で仲間を増やそう

白石正彦氏
白石正彦氏

 白石 そうですね。
 では、2番目の柱(2)のひとつ「盤石な事業基盤の構築」について聞かせてください。

 前田 この点は、大きく2点に集約されます。ひとつは何と言ってもこれまでJA共済を利用していただいている方とのつながりの強化です。これは「絆の強化」と言っています。
 それからもうひとつは、新たな加入者、契約者づくり。これは新たな「仲間づくり」と言っています。これにJAと連合会が一体となって取り組んでいこうということですね。
 とくに次世代対策が課題だと思います。その際、「盤石な事業基盤の構築」といっても、これはJA共済だけでできるものではないことを改めて考える必要があると思います。私たちはJAの総合事業の一環として共済事業を展開しているわけですから、総合事業の持つさまざまな機能を生かし、その有機的連携のなかで事業を推進していくということだと思います。
 たとえば、いろいろなイベントなどに地域の方が積極的に参加していただくような文化・教育面での展開も積極的に進めることによって、仲間づくりをしていく。つまり、共済だけではなくJAの事業を利用してよかった、と思ってくれる人を全国のJAを拠点にして増やしていく。そのような取り組みが必要ではないかと思いますね。つまり、JAの持つ総合力を発揮しないと、事業基盤はなかなか構築していくことはできないだろうと考えています。盤石な事業基盤を構築することが今後の競争要件の重要な鍵になると思っています。

 白石 次世代対策は確かに大きな課題ですね。
 協同組合というのは組織づくりです。農業者の場合は、集落組織など既存の組織がありますから、これをどうするかという視点で考えればいいかもしれませんが、次世代には新しい感覚や多様なニーズ、生活スタイルがあるでしょうから、そういうなかでたとえばあるテーマ別に組織をつくるといった仲間づくりは非常に大事なことだろうと思います。

 前田 そうですね。単に共済への加入者を増やすということではなく、地域での人間的なつながりをつくり、その上で共済も利用していただくという考え方が大切になるということだと思います。

◆協同組合らしさの追求で優位性の発揮を

 白石 協同組合が一般企業と違うのは、今言われた仲間づくり、すなわち、横糸ががっちりあることによって、それをベースに縦軸としての事業が成り立っていることだと思います。ですから、盤石な事業基盤というと縦軸のイメージがありますが、大事なのは横軸なんですね。これがあって初めて協同組合らしさが発揮されるわけですから、その点を次期3か年計画でどう具体化していくかが課題ではないでしょうか。

 前田 そうです。今年のJA全国大会議案とも関係しますが、単に共済事業の3か年計画というだけではなくて、やはり各事業体との協調、そこをどう計画を立てて行動していくかを考えなくてはいけないと思っています。
 それからふたつめの「今日的な事業実施要件の確保」という点では、競争力、信頼性の確保も大事ですが、私はとくに健全性を確保することによって契約者の信頼が得られ、そのことが競争力につながるものと思っています。
 というのは、共済事業というのは長期間の契約ですから、共済約款で約束したものは確実にお支払いするという状態にしておくということは基本中の基本です。

◆三者契約方式も具体的検討へ

 白石 もうひとつ指摘されているのが、JA共済事業法制の整備ですね。

 前田 これはJA共済事業が健全性を確保し、契約者の方に安心して利用していただけるよう法制度の整備をしてもらおうということです。しかも、第三者・国民からみても公平なルールのうえで事業を展開しているという姿にしなければいけないと考えています。
 今の事業実施方式は、JA元受・連合会再共済方式となっているわけですが、今後は、一層の契約者保護をはかる観点から、契約者・JA・連合会の三者によって契約を締結する方式の導入を検討することとしています。JAと連合会について、それぞれの機能が十分発揮できるよう、いくつかの課題について議論をしながら、今後の事業展開にとってよりよいサポーター役となるような法整備を行政に要請していこうと思っています。

◆県域と全国域の機能分担で統合メリットを発揮

前田千尋氏

 白石 第三の柱(3)のJAと連合会の事業実施体制の再構築については、どのように捉えておられますか。

 前田 これは従来からの課題でありました。
 JAではそれぞれ共済部門の確立についてご努力いただいていますが、さらに体制整備プラス人材育成に力をいれてほしいと思っております。現在、LA(ライフアドバイザー)は全国で約2万人ほど導入していただいていますが、これからは事務処理面においても契約者サービスの充実が必要であるので、幅広く議論をしていきたいと思っています。
 ただ、この議論は、連合会の立場からだけでなく、やはりJAの意見を十分聞いて対応しないと実効性があがりません。そのため7月にJAの代表者・実務者による研究会を持つことにしています。われわれが考えた今後の事業実施体制について現場から率直に意見を言ってもらうということです。やはり、JA共済が強くなっていくには、元受であるJAの体制整備、機能発揮が重要ですからね。
 そして、そういうJAの体制、機能を連合会としてどう支援をしていくかということも重要な課題になります。連合会として専門性の発揮とJA支援機能をどう高めていくか、また、県本部と全国本部の機能分担のあり方も含めて検討し、統合のメリットを目に見えるかたちで発揮しなければなりません。また、この4月から子会社となった共栄火災等を含めたJA共済グループとして経営資源を効果的に活用する視点も含め、検討を進めていきたいと考えています。

◆効率化、コスト低減とサービスの維持が競争要件

 白石 低コスト体質の実現に向けては、連合会内の重複機能の排除、機能の集約化が指摘されていますね。

 前田 連合会の事業実施体制の再構築については、JAの支援機能や仕組開発等の専門的な機能を高度化するとともに、効率化を追求する視点から検討するということです。
 共済・保険事業の状況は運用利回りが契約者に約束した予定利率を下回る「逆ざや」状況が続いていますし、また、予定危険率(事故率)は将来の予測に基づいて算定されているため、任意に変更できないものですので、競争に勝つということは、事業コストをいかに引き下げるか、この一点に尽きるんですね。
 しかし、ただ単にコストを下げればいいかといえばそうではない。効率性を追求しながらもサービスは低下させないという条件を満たす必要があります。このことは事業体として常に追求する課題だと考えています。
 われわれは、原点である協同組合理念を踏まえながら、この答申の具体化に取り組み、事業の前進をはかる必要があります。

 白石 この答申をJA共済事業が21世紀にもう一歩脱皮していく契機になればと私も思います。JA共済事業が農協らしい事業として展開されることを期待したいと思います。どうもありがとうございました。 (2003.5.22)


農協共済審議会「答申書」の骨子

1.JA共済事業の進むべき方向

 激変する事業環境下でJA共済が選択され続けていくためには、今日的な事業展開方向とこれを実現するための必要条件を明確にした上で、その着実な実践をはかる必要がある。また、この実践に向けては、協同組合理念等を踏まえ、JA共済事業の使命を明らかにし、全役職員に徹底することが不可欠とし、「JA共済事業の使命」を明文化。

2.磐石な事業基盤の構築と今日的な事業実施要件の確保

 1)磐石な事業基盤の構築
 提案型推進を強化するとともに既契約者へのフォロー活動の徹底、新規利用者の拡大をJA・連合会が一丸となって進める必要がある。とくに、次世代層へのより積極的な取組みを進める必要がある。
 2)今日的な事業実施要件の確保
 磐石な事業基盤の構築に向け、(1)競争力の確保(2)健全性の確保(3)信頼性の確保をあげ、これらの確保をはかるため(4)JA共済事業法制の整備に向け主体的に取り組むことが不可欠とした。

3.JA・連合会を通じた事業実施体制の再構築

 JAおよび連合会による一体的事業実施方式(共栄火災を含む)の確立と事業機能の高度化(組合員・利用者サービスの向上等)と低コスト体質の実現の2点を踏まえた実施体制の再構築をはかることが不可欠であるとし、JAにおける取組方向と連合会における取組方向を明示。

4.答申の具体化に向けた最重点課題

 事業体制の再構築について早急に検討体制を立ち上げる必要があることと、JA共済事業法制の整備について検討を進めるとともに、行政庁への要請をはかり、次期農協法改正に反映させる必要がある。

 

インタビューを終えて

 インタビューで前田理事長は、『答申書』に明記された(1)組合員・利用者を最優先する3項目にわたる「JA共済事業の使命」の理解を広げ、JA共済運動の体質転換の契機にしたいこと、(2)事業基盤の構築と事業実施要件の中で、JAの総合事業力と連携した共済の専門的事業力の高度化(共済事業革新)によって組合員に選ばれる魅力ある仕組みとサービスの提供ならびに生涯に亘る生活保障・財産形成に貢献できる「健全性の確保」の重要性、さらに契約者・JA・連合会の三者契約方式が可能な事業法制の整備の重要性、(3)JA・連合会さらに共栄火災も包含した事業機能の高度化とコストダウンを可能とする事業実施体制の再構築の重要性を強調された。
 JA共済事業を取り巻く事業競争の環境と組織基盤は激変しつつあり、協同組合らしいボトムアップ型の仕組み開発(販売代金回収リスク対応型損害共済、女性起業活動支援共済など)や共済担当の人材養成(高齢層・世代交代層・中堅層・低保障層やJA共済未利用者層のニーズに的確に対応できるLAの養成)、全共連・共栄火災の事業連携の成果づくりが大きな戦略的課題であり、『答申書』をふまえてこれらへの挑戦を期待したい。 (白石)


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