農業協同組合新聞 JACOM
   

検証・時の話題

大規模JAが抱える課題が浮き彫りに
(社)農協協会「JA総合事業にかかわる意識調査」を見て
梶井功 東京農工大学名誉教授

 経済事業だけではなくJAの事業環境は、年々厳しくなってきているといえる。そうしたなかで、総合事業を展開する全国のJAは何を課題と考えそれをどう克服して各事業を展開していこうと考えているのか。(社)農協協会は昨年秋に、各都道府県で組合員数が上位7位までのJA356を対象に「JA総合事業にかかわる意識調査」を実施し、このほどその調査結果をまとめた。そこで梶井功東京農工大名誉教授にこの調査結果からJAがかかえる課題を分析していただいた。また主な結果は別掲(調査結果その1調査結果その2)。

◆全国平均規模以上を対象とした調査

 以下考察するJA「意識」調査は、農協協会が“各県で組合員数が上位7位までのJA”に、“上記以外のJAで特色ある取り組みや実績のあるJA”若干をプラスするというかたちで選んだ356JAに調査票を配布、回答のあった226JAについて集計したものである。対象選定方法からも容易に推定できるように、対象JAは大型JAに偏っており、たとえば平均組合員数は1万7400人になっている図1。03年総合農協統計表によれば全国1JAあたり組合員数は9610人だから、ほぼ倍近い。集計は組合員数2万人以上の65JAを大規模JA、1万2000人以上2万人未満の79JAを中規模JA、1万2000人未満82JAを小規模JAとして行われているが、全国JAの規模別分布からするなら、小規模JAとしたそれが全国平均規模、中規模JAとしたJAが大規模JA、大規模JAとしたJAを巨大JAと読み替えてみてもらったほうがいいかもしれない。
 なお、都市部、都市部以外という分類を基本分類にしているが、都市部JAとしているのは、東京、神奈川、埼玉、千葉、愛知、大阪、兵庫、福岡の都府県JAであることを注記しておかなければならない。そういう分けかたでいいか、議論のあるところだろう。という注釈をつけた上で、集計を見ての感想を一、二述べる。

厳しい経営環境、明るくない収益予測

◆共済・購買事業で厳しい見通し

 JAを取りまく近年の状況が厳しいことは、改めていうまでもないところだが、大型JAといえども例外ではなく、JA諸事業が伸び悩んでいることが本調査でも明瞭に示されている。調査JA全体の03年にくらべての04年の各事業実績増減状況(△はマイナス)をみると、貯金+1.9%、貸付△0.8%、長期共済△2.3%、短期共済+2.7%、購買△2.2%、販売△0.4%になっている(図2)。長期共済と購買両事業の落ち込みの大きさに注目すべきだろう。
 この実績を踏まえて、“今後3〜5年程度の収益環境”をどう予測しているかを問うているが、信用事業については60%のJAが、共済及び購買事業については76%のJAが、“低下する見込、または低下する懸念をもっている”と答えている(図3)。この答以外の選択肢は収益が“(1)増加または堅調に推移すると見込む”“(2)現在とほとんど変わらないと思われる”“(4)何ともいえない”だが、(1)と答えたJAは、信用事業で10.6%、共済事業で4.5%、購買事業で3.6%でしかない。
 諸事業について厳しい見通しを持っていることが示されているが、これを都市部と都市部以外に、またJA規模別にわけて“低下する見込、または低下する懸念をもっている”割合を事業ごとに示すと第1表のようになる。
 都市部JAにくらべ都市部以外のJAが、信用・共済・購買いずれの事業でも厳しい収益予測をしていること、特に共済・購買事業について80%が、“低下”或いは“低下懸念”を示していることに事態の深刻さが示されているとすべきだろう。
 規模別では中規模JA(全国的には大規模とみていい規模)で信用事業も含めて厳しい見通しに立っていることが注目を要する点だろう。

今後3〜5年程度の収益環境について“低下する見込、または低下する懸念をもっている”と答えたJAの割合(%)

◆“渉外活動”に多くの課題

 JA経営の二大支柱になっている信用・共済両事業の収益増強施策として各JAが何を重視しているかをみると、信用事業では“住宅ローンをはじめとする各種ローンの増強”をあげるJAがダントツに多く(図4)、調査JAの77%を占めている。共済事業の“契約増進対策”として“最も重視していること”では、既存顧客については65%のJAが“日常活動を通じた信頼の獲得、顔つなぎ”をあげ(図5)、新規共済契約獲得策としては50%のJAが“世帯内未契約者への推進”をあげている(図6)。
 ローン契約にしても共済契約にしても、日常的な組合員との接触“顔つなぎ”が重視されているのであるが、その活動を具体的に担う渉外活動について多くの課題があることを、アンケート結果は示している。第2表を示しておこう(設問は表頭にあげた課題の1つを選択することを求めている)。
 都市部、そして大規模JAで“農家次世代や員外への推進が消極的”の比率が高く、小規模JAでこの比率が低いのは、都市化するほど、そしてJAの合併がすすみ、規模が大きくなるほど、“むら”社会での“いえ”ぐるみのつきあいが薄くなることの反映でもあろう。が、JAにはその克服が求められているとすべきなのではないか。
 なお、小規模JAの“その他”には“渉外担当者を配置していない”という回答が含まれていたことをつけ加えておくべきだろう。小規模JAの“推進活動が消極的”には、“渉外担当者が足らない”あるいは“配置していない”ため、渉外に当たる職員が“集金等に終始”せざるを得ないケースも含まれていると思われる。

渉外活動に関する課題(%)

◆システム経費削減は最優先課題

 信用事業の収益増強策で私が注意を引かれたことに、%は住宅ローンよりかなり低く10%だが、“JAのコスト削減”が住宅ローンのつぎにあげられていたことである(図4)。
 削減を要するコストにはいろいろある。が、それらのなかで信用事業の“現在のシステム経費は適正ですか”という設問に“適正”としているJAは僅かに18%にとどまることを指摘しておかなければならない(図7)。都市、非都市別、規模別に示すと第3表のようになる。
 信用事業にかかわるITシステムコストを80%を超えるJAが負担が重いと感じており、35%ものJAがこのコスト削減を“最優先課題”としていることは、JAバンクとして大問題だろう。しかも表に見るようにこの問題については都市部、非都市部、規模の大小を問わず、問題認識は一致しているといっていい。早急に検討を要する課題とすべきだろう。

信用事業システム経費は適正か(%)

◆量販店直接取り引きと配送方法

 販売事業で“今後の販路拡大に向けて有効と思われるもの”として、最も多くのJAがあげているのは“生協・量販店との直接取り引き”であり、65%のJAがあげている。ついで“地産地消の取り組み”54%、“直売所”52%になるが(図8)、都市部では“直売所”がトップ(74%)、都市部以外では“生協・量販店との取り引き”(69%)がトップという地域差があり(図9)、JA規模別では、大規模JAは“直売所”“生協・量販店との直接取り引き”“地産地消の取り組み”が65〜69%でならんでいるが、中規模JA、小規模JAでは“生協・量販店との直接取り引き”に期待する割合が高くなっている(図10)。統一仕入れでバイイング・パワーを強めている量販店との“直接取り引き”で成果をあげるためには、強い販売力をJAが持つ必要があるが、その強化策はどうなっているか、気になる点である。
 購買事業コスト削減のための具体策として最も多くのJAがあげているのは“配送方法の見直し”であり、61%のJAが課題としている。ついで多いのは“人員再配置”47%、“仕入方法の見直し”45%、“事業の統廃合”37%である(図11)。人員再配置が事業統廃合とからむことはいうまでもないとして、配送方法、仕入方法の見通しは連合会ともかかわる問題である。系統全体の問題として各JAとも把握しているということであろう。


(2006.2.6)

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