農業協同組合新聞 JACOM
   

検証・時の話題

バイオマス ニッポン戦略

サトウキビを核に磐石な農業基盤をつくる

バイオマスアイランドをめざす 沖縄県伊江島

 「このままでは、いずれ島の農業はダメになる」。沖縄をはじめ南西諸島で生産され、かつては伊江島(村)でも基幹作物だったサトウキビ(沖縄では「ウージ」とか「キビ」と呼ばれる)生産が急激に減少していくのを見て村もJAも危機感をもった。そこで国の「バイオマス・ニッポン総合戦略」による「バイオマス・タウン構想」にそった「伊江島バイオマスアイランド構想」を村が打ち出した。いまバイオマス・タウン構想として認められているのは全国に62件ある。その多くは家畜ふん尿や製材木屑、余剰農産物、食物廃棄物などを材料とするものだ。だが、伊江島のそれは生産が年々減少するサトウキビを核として、アサヒビールのバイオエタノール実証試験とも提携しながら「磐石な農業基盤を構築」するという将来の地域農業を見据えた構想となっている。
 本紙は今年7月に、米を原料にバイオエタノールを製造し地域で利用する循環モデルを実現しようとするJAにいがた南蒲とJA全農の取組みを紹介したが(記事参照)、同じように地域農業振興に主体的に取り組もうとしているこの伊江島の農業の現状とそこから考え出された「構想」について取材した。

サトウキビ畑の向こうに島のシンボル・タッチュ−が見える
サトウキビ畑の向こうに島のシンボル・タッチュ−が見える
◆県内有数の農業地帯

 沖縄本島北部の本部港からフェリーで30分、タッチューと島人に親しまれている烏帽子型の城山を中心に麦藁帽子を伏せたような伊江島が青い海に浮かんでいる。1島1村(伊江村)で、東西8.4km、南北3km、周囲22.4km。総面積2275haのうち35%が米軍用地で、44%が農用地だ。人口は約5300人。農業就業者は約1100人(総農家戸588戸)と全就業者の44%を占め、その生産額は40億円を超える。農家1戸当たり粗生産額は沖縄県平均の1.6倍ある県内有数の農業地帯だ。
 島全体は城山(海抜172m)付近を除いて比較的平坦で畑作としての耕作条件には恵まれているが、土壌は琉球珊瑚石灰岩土壌(島尻マージ)。弱アルカリ性で有機物が乏しく肥沃度が低く保水性に乏しい。しかも河川がなく安定した水資源の確保が難しいため島内には多数のため池がつくられている。そのため平成25年完成を目途に、国の事業として地下ダム建設が進められている。

◆葉タバコ・花卉へシフトし減少するサトウキビ

島の農業生産額はグラフ1のように昭和55年の16億8500万円から平成6年以降13年を除いて毎年40億円を超える。しかし昭和55年に農業生産額の5割強を占め8億5000万円あった基幹作物のサトウキビは、58年をピークに年々減少し平成16年には55年のほぼ10分の1、8700万円にまで減少した。現在、島の農業の中心は葉タバコ(11億8700万円、29.1%)、電照キクを中心にした花卉(15億6100万円、38.2%)、肉用牛(8億9000万円、21.7%)でこの3つで全体の89%を占め、サトウキビはわずか2.1%に過ぎない(16年)。
 このため島内最大の製造業であったJAおきなわが経営していた製糖工場(1日600トン規模、最盛期年間5万3000トン生産)が、年間生産量が1万トンを割り(稼動20日程度)採算がとれず16年3月に閉鎖された。
 サトウキビから葉タバコや花卉にシフトした最大の要因は収益性にあったといえる。サトウキビの10アール当たり生産額は10万円強だが、葉タバコは36万円、切花184万円という数字を見るだけで納得できるだろう。
 それでも、製糖工場が閉鎖される前の15〜16年期(15年に作付けし16年1〜3月に収穫し製糖工場へ出荷)には、まだ農家の半数を超える311戸の農家がサトウキビを作付けしその面積は農産物作付面積の4分の1を占めていた。しかし、工場が閉鎖されサトウキビが海上輸送され沖縄本島の工場に運ばれることになり作付けは半減する(グラフ2)。


バイオマス資源の循環で地力を維持

 

◆高収益作物は「地力収奪型」 キビは優れたバイオマス資源

高バイオマス量サトウキビ 2〜3年後に品種登録の予定で試験栽培されている
高バイオマス量サトウキビ
2〜3年後に品種登録の予定で試験栽培されている

 この状況を見て、村やJAは危機感をもった。葉タバコや花は確かに収入にはなるが「地力収奪型」作物で、島尻マージという有機物の乏しい土地でこうした作物だけを作っていけば、いずれ島の地力が落ち、花も葉タバコも作れなくなってしまうからだ。
 その点サトウキビは「地力維持型」の作物なので葉タバコなどとの輪作体系が確立されれば、葉タバコの連作障害を防止することができる。さらにサトウキビは茎は砂糖原料となるが、搾ったあとのバガスは燃料や畜産敷料として使い、堆肥の材料となる。キビ頭部(梢頭部)の葉は飼料として牛が好んで食べるなど「葉の先から根っこまで捨てるところがない」優れたバイオマス資源でもある。
 だが、島内から製糖工場がなくなったいまバガスを島内で活用することはできない。また、いまは収穫したサトウキビを畑の脇に置いておけばそこから先の運賃は工場が負担し、赤字になれば国から補助されているが、いまの農政の流れからすれば海上30分、陸路1時間半の運賃がいつ農家負担になるか分からない。さらに、効率的に輸送するために葉や根を落とし輸送しやすい長さにカットするなど、島内製糖時代にはなかった作業が必要になる。そうしたことが急激な作付け減少につながったといえる。
 また、砂糖原料としては収穫後すぐの新鮮なものほどよい。収穫してカット処理をし海上・陸路を輸送すれば工場に入るには数日を要するという問題もある。

◆発酵・醸造技術を活かしてエタノール開発へ アサヒビール

 村は、サトウキビのバイオマス資源をすべて島内で活かすためには、製糖工場を新たにつくることだと考えた。1日50トンで100日稼動(年間5000トン)と閉鎖されたJA工場より規模は小さいが、生産される砂糖は四国の和三盆のように高付加価値・高品質のものにしたいと考えた。そうしたときにアサヒビールから、高バイオマス量サトウキビを原料にしたエタノール製造と燃料用用途利用の実証試験の話がくる。
 アサヒビールは、企業として今後も成長していくためには、酒類や飲料分野だけではなく、食と健康や環境領域に事業を広げていこうということで、平成13年に研究部門の組織改革を行い研究テーマを社内公募した。そのなかに、バイオマスエネルギーであるエタノールの開発があった。これならば同社が長年にわたって培ってきた発酵・醸造技術を使って社会貢献できる、と採用になる。
 同社は九州沖縄農業研究センターと提携し、同センターが育種開発していた通常のサトウキビよりもバイオマス収量が大きい高バイオマス量サトウキビを原料として、単位面積あたりの通常の糖生産量は確保し、そのうえで、残存分からエタノールを高効率で製造するという、国産サトウキビを使って経済性を満たすバイオマスエタノール製造プロセスの開発研究を進めてきた。
 研究段階を終えた同社は次のステップとして、サトウキビ栽培から最終的なE3ガソリン(エタノール3%含有ガソリン)の利用までを一貫して実地に行う実証試験先として伊江島に白羽の矢を立て、18年1月31日にスタートした。

◆化石燃料使わずに砂糖とエタノールを製造

砂糖とエタノールの同時製造試験が行われているパイロット・プラント
砂糖とエタノールの同時製造試験が行われているパイロット・プラント
こうしてのような「伊江島バイオマスアイスランド構想」ができ、同年3月30日にバイオマスタウン第2回公表で公表された。
 この構想が優れているのは、搾汁するまでの工程は砂糖もエタノールも共存できることだ。いまは飼料や農薬の展着剤として使われている粗糖や液糖・粉糖を製造する過程で出る「糖蜜」をエタノールの原料とするからだ。
 そして砂糖は従来と変わらない量が生産できるが、高バイオマス量サトウキビなので、糖蜜、バガスは従来のサトウキビよりも、土壌や気象条件で変化するものの3倍前後は出てくると予測されている。つまりエタノールの生産量が従来よりも増加するということだ。
 バガスは砂糖やエタノールの製造工程での発電燃料エネルギーとして使われるから、化石燃料を必要としない。しかも高バイオマス量なので、これらのエネルギーに使用しても余剰バガスがでるのでこれを畜産の敷料として活用できる。
 敷料として使われたバガスや葉がらなどの廃敷料、飼料として牛に食べられふん尿となった梢頭部と、村の食品廃棄物や風倒木などとともに堆肥化させ、葉タバコや電照キクなど地力収奪型作物の農地へ還元していくことができる。

◆製糖工場と堆肥センターが構想実現の核

JAのSS内に設置されたE3の給油機
JAのSS内に設置されたE3の給油機

 現在、この構想を実現するための実証試験として、高バイオマス量サトウキビのほ場試験をJAおきなわ伊江支店が受託して行っている(50アール)ほか、パイロットプラントでは、砂糖・エタノール同時製造試験が行われている。
 プラントの規模は、稼動日数年間50日、原料サトウキビ処理量年間30トン。砂糖製造量年間2トン。エタノール製造量年間1.1キロリットル。E3ガソリンについては、JAのSSに専用スタンドを設置し、村の公用車3台(いずれ63台に)が走行試験を行っている。
 アサヒビールは、平成22年まで伊江島で実証試験を行い、そこで蓄積されたノウハウやデータ、国の施策などを勘案してどのように事業化するかを考えるという。試験終了後も伊江島でエタノールを製造するかどうかは分からない。
 しかし、たとえこの部分が切り離されても、これからの伊江島の農業には構想を実現し「磐石な農業基盤をつくる」(浦崎悟伊江村農林水産課主事)ことは不可欠なことだ。
 その核となるのが製糖工場と堆肥センターだ。最近は葉タバコ農家でもサトウキビを作付けする人も出てきており「工場を早く建ててくれという感じ」だという。一気にすべてを実現することはできないが、一つひとつ着実に進めていきたいと村では考えている。
 最近は「バイオマス」という言葉を聞かない日はない。地域の農業の現状、土壌や気象の特性などをみきわめ、将来どういう農業をめざしていくのか。そのためにバイオマスをどう活用すればいいのかと、地域農業の立場から主体性をもって考え、歩み始めている伊江島やJAにいがた南蒲などの取り組みにこれからも注目していきたい。

(2006.12.13)


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