農業協同組合新聞 JACOM
   

検証・時の話題

卸売市場
生き残りをかけ経営基盤確立が焦眉の課題

 21年4月施行される卸売市場の「手数料の弾力化」に大きな関心が集まっている。だがこれは「卸売市場制度の見直し」のための象徴的な施策だといえる。いま卸売市場に求められ迫られているのは、国民へ食料を供給する流通部門として本当に耐えられる体質になるかどうかということではないだろうか。改めて「卸売市場の見直し」を考えてみた。
太田市場


生産者・実需者が安心して利用できる市場へ

◆三つの大きな課題解決のために

 日本の生鮮食品流通の太宗を担っている卸売市場は、平成11年、16年の卸売市場法改正によって大きく変わろうとしている。一般的には、21年4月から施行される「卸売手数料の弾力化」がどうなるか、それが今後の卸売市場流通にどのような影響を与えるかが大きな関心事となっている。
 「卸売手数料の弾力化」は「手数料の自由化」と表現されることが多いが、農水省では、「開設者が手数料を一律に規程で規定しているために、卸売業者の機能・サービスと手数料の関係が硬直化していたのを、機能・サービスに見合った手数料を徴収できるように“弾力化”した」もので、開設者の一定の関与があるため、卸売業者が自由に手数料を設定できる「自由化」ではないという。
 また、卸売市場制度の見直しは、手数料問題だけではなく、生産者や実需者サイドも「安心して利用できる市場」にするために多くの課題について取組んでいることを強調する。
 そこで改めてこの間の卸売市場制度見直しの内容を振り返ってみる。対応すべき課題として国があげたのは大きく次の3点だ。
 一つは「安全・安心への対応」。二つ目が「旧態依然とした規制の弾力化」であり、三つ目が「市場機能の強化」だ。

◆安全・安心への対応
 温度管理など品質管理の徹底を

  「安全・安心への対応」とは、産地から消費地まで一貫したコールドチェーンの構築や衛生面まで含めた品質管理について、従来は規定がなかったが、「卸売市場整備基本方針」などで、品質管理の高度化のための措置を規定して、品質管理を推進する。また、開設者が業務規定で品質管理方法を策定することになった。
 各市場ごとにそれぞれ工夫をしてきてはいるが、予冷庫を備え保冷車で市場まで配送する産地や温度管理された売場で販売する実需者からみると従来の市場は、温度管理による鮮度保持が不十分だという不満があった。このままでは市場外流通との競合で勝ち残れないという危機感をもった市場関係者は多い。
 実際に、卸売市場の一部を自費で密閉定温化したことで、青果物の物流拠点としての価値が高まり、それまで複数の物流センターを利用していた大手量販店が、青果物の一括集中配送センターとして利用するようになった(流通システム研究センター「卸売市場における先進的な取組事例」より)。このように、量販店や外食など実需者にとって必須ともいえる鮮度管理・温度管理を充実させることは、卸市場にとって生き残りの条件だといえる。

◆旧態依然とした規制の弾力化
 ネット販売の商物分離や買付販売・直荷引きを緩和

 二つ目の「旧態依然とした規制の弾力化」として規制が緩和されたのは、インターネットなどを活用した電子商取引における商流と物流の分離がまずあげられる。従来は、IT取引をしても、卸売市場への集荷・市場内での販売・分荷が基本であったために、量販店など購入先が決まっていても、いったん市場に現物を入れなければならず、物流効率化の効果が発揮できなかった。この商・物分離によって、市場に現物を搬入せずに卸売を行うことができるようになったわけだ。
 そして「卸売業者の販売については、委託販売を原則」としていたのを「委託集荷、買付集荷のいずれも可能とする」という規制緩和と、卸売業者の市場内仲卸業者以外への販売(第三者販売)や、仲卸業者の産地からの直接購入(直荷引き)は原則禁止されていたが、この規制が緩和された(省令対応)ことがあげられる。
 このことによって、外食や加工、小売業者のニーズに合わせた開発・販売や買付集荷による機動的な集荷が可能となった。また、地方の卸売市場がネットワークを組み、複数市場で共同集荷したり相互に融通しあうなど、中小卸売市場の集荷力向上などによる活性化によって地域流通の効率化が可能となったといえる。

◆リスクを負って「攻め」の姿勢に転換

 これは従来の「待ち」の姿勢から「攻め」への転換を可能にはしたが、買付集荷にしろ直荷引きにしろ、自らがリスクを負った取引きを行うことになるのだ。「日本農業新聞」が行った調査によると「利益率が低い買付集荷品が増える」なか、調査対象会社の「約5割が売上高を伸ばしながら利益の確保に苦戦」(8月7日付)というが、自ら背負うリスクに耐えられる経営基盤が確立できるかどうかが大きな課題だといえよう。

◆市場機能の強化
 進む中央卸売市場の再編計画

 大きな三つ目の柱である「市場機能の強化」としては、「卸売市場の再編の促進」がまず第一に掲げられている。
 具体的には、第8次中央卸売市場整備基本方針」で取扱数量が開設区域内の需要量未満取扱数量が一定規模未満取扱数量が直近で3年連続減少し、かつ過去3年間で著しく減少、また市場特別会計に対する一般会計からの繰出金が3年連続して総務省の基準を超過か、主たる卸売業者が3年連続して経営改善命令の基準に該当のいずれかに該当、という4つの卸売市場再編基準を設定。4指標のうち3指標以上に該当する市場の再編措置をすることにした。
 これに沿ってすでに、釧路市と大分市の中央卸売市場が18年4月に、川崎市中央卸売市場南部市場、藤沢市、三重県(水産部)、尼崎市の中央卸売市場が19年4月に地方市場に転換された。さらに福岡市中央卸売市場東部市場が26年度末までに他市場と統合、呉市、下関市の中央卸市場、佐世保市中央卸売市場干尽市場(花き部)が20年4月に、松山市中央卸売市場の中央市場(花き部)と同水産市場が22年度末までに地方市場へ転換することが決まっている。
 このほか、兼業等の届出制の廃止や市場外での販売に対する規制緩和など「業務内容の多角化」や「仲卸業者に対する財務基準の明確化」、より透明性の高い市場取引を確保する観点から公表内容を充実させること。そして「手数料の弾力化」が「市場機能の強化」として見直された。

◆なぜ制度の見直しが必要だったのか
 優越的地位を活用して市場を利用する量販店

 なぜこうした制度の見直しが必要だったのか。それは図1にもあるように全体としての流通総量には大きな変化がないのに、市場経由率が低下していることがある。そのため卸売業者の経営状況が悪化したこと。大型量販店のシェアが拡大し、大型量販店の仕入先が広域中核卸売市場に集中し、市場間格差が拡大したことなどが考えられる。
 市場経由率低下の大きな要因として藤島廣二東京農大教授は「加工品の増加」とくに「輸入の加工品の増加」を指摘する。また相対販売、買付集荷が増えたことについては「小売店の大型化」によって、量販店は安定価格で供給することを販売戦略を実現するために「日々の価格変動が激しい競り取引よりも相対取引を推進しなければならない」し、そうしたニーズに応えるためと「産地の意向にも対応するために買付集荷を増やさざるをえない」(記事参照)と分析する。
 図2はやや古いデータだが、量販店の野菜の仕入先の45%は中央卸売市場であり、地方市場を合わせると約7割が市場からの仕入ということになる。専門家によれば「量販店は優越的な地位を活用しながら利用」しているという。それが藤島教授が指摘する相対取引・買付集荷の増大へとつながっているといえるだろう。

図1、2

◆多角化などさまざまな方策を模索

 だが、中央卸売市場の卸売業者(青果)の経営実態をみると、 96社中1000億円以上売上げているのは1社(1545億円)だけで、平均で211億円、500億円未満が約9割を占め、その営業利益率はわずか0.23%にすぎないという(「卸売市場データ集 18年版」農水省)。
 それでも市場関係者は、生き残りをかけてさまざな取組みを行っている。今年2月には神戸市中央卸売市場の「神果神戸青果」と明石市公設地方卸売市場の明石明果が合併し、規模拡大で効率化を進めている。中央市場の卸売業者と地方市場の合併は全国初だが、こうした動きが加速化されていく可能性はある。また、仲卸や量販店・外食など大口利用者向けに保冷倉庫を建設したり、農業生産法人を設立して野菜栽培を始めたり、新規参入農業者の研修とか、観光農園の経営など多角化に取組む卸売業者もいる。
 「手数料弾力化(自由化)」では各市場が東京都の出方を見守っているというのが実態だろう。その東京都は、来年6月の都議会にこの問題を審議にかける予定で検討している。
 来春早々からさまざまな動きが出てくると予想されるが、どのような方向がだされようと、21年4月施行に向けてリスクを背負っても攻めていける経営基盤が確立される、あるいはその方策に目処をたてることが市場関係者にとっては焦眉の課題ではないだろうか。

(2007.9.25)


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