農業協同組合新聞 JACOM
   

紙面審議会

「農業協同組合新聞」05年度紙面審議会(上)
日本の農業と農協の発展に寄与するために

出席者 審議委員 (五十音順)

◇安高 澄夫
 福岡県・JAおんが組合長
◇阿部 長壽
 宮城県・JAみやぎ登米組合長
◇石田 正人
 長野県・JA北信州みゆき前組合長
◇今村奈良臣
 東京大学名誉教授
◇上山 信一
 農林中央金庫元副理事長
◇太田原高昭
 北海学園大学教授
◇北岡 修身
 高知県・JA高知春野組合長
◇小島 正興
 農林中央金庫監事

◇野澤 万代
 茨城県・生産者
◇日和佐信子
 雪印乳業(株)取締役
◇前田 千尋
 JA共済連前理事長
◇松下  久
 静岡県・JAとぴあ浜松前組合長
◇三嶋 章生
 島根県・JA雲南会長
◇山地  進
 内外食料経済研究会代表

◇座 長
梶井 功
東京農工大学名誉教授


◆旬刊紙としての強みを活かした編集を

 梶井 昨年の第1回目の審議会ではいろいろ有益な御意見をいただきました。そのときに出された意見を改めて要約してみますと、大方の意見は、この新聞の特徴でもある“雑誌的な編集・紙面づくり”については、続けていいというご意見でした。今後、取り上げるべき課題・要望としていくつかご指摘がありました。とくに、農協改革が焦点になっていることを反映して、農協のあり方、農協改革の方向性を示唆する問題を取り上げよという意見が多かったと思います。
 あれから1年経過しましたが、ご指摘いただいたことが実行されたのかどうかについて審議をしていただきたいと思いますが、山地さん、恐縮ですが今回も最初にお願いできますか。

 山地 日本のジャーナリズムが非常に大きな転換点にあるといえます。今年の前半から、代表格であるNHKと朝日新聞に大きな問題が起こって社会的な問題になりました。
 今年は、戦後60年ですが、この60年を戦後民主主義という波に乗りながら、いろいろな形でリードしてきたのが放送界のNHKと新聞界の朝日新聞だったといえます。そのNHKと朝日新聞が非常に大きな問題を抱えているということが露呈をしました。虚偽メモによる報道を朝日新聞がするなどということは誰しも予想だにしないことでした。しかもそれに対する対応が非常に問題になっています。
 私は、ジャーナリズムが謙虚な気持ちをもって、キチンとした報道をしていくための大きな忠告としてこの問題を受け止めるべきだと思います。これは農業界あるいは協同組合という分野であっても必要だと思います。
 現に、戦後のエンターテイメント分野を支配をしてきた大相撲やプロ野球がその内部に腐敗的な要素を抱えて、見直しを迫られているということも考えなければいけませんし、社会全体も大きな世直しの時期にあるというそこにどう関わりあっていくのかという点で、ジャーナリズムが非常に注目されています。
 ましてディリーではなく旬刊という本紙の重みはますます大きくなってくるのではないかと私は考えます。ディリーであるために許されることが、旬刊であるために許されないということがあるにも関わらず、その強みを活かそうとしないならば、それは大変な怠慢であり、怠りであり、その罪は非常に大きいものになっていくと思います。

 梶井 この新聞では、大きな問題がある程度まとまってきたときに「検証・焦点」として取り上げてきています。これは旬刊という特質を活かしたこの新聞の一つの特徴ではないかと思いますが…。

 大田原 この新聞は、協同組合の原点をいつも押さえていてくれるところが、大変良い点だと思っています。
 “新聞でありながら雑誌的な編集”といわれていますが、昨年はいい意味でもう少し“週刊誌的”でもいいのではといいました。つまり、そのときそのときの重点課題についてきちんとした論説が載るというのがこの新聞の一番の魅力ですが、やや“月刊誌的”な論説になっていると思います。旬刊ならばもう少し取材した記事が欲しいですね。掘り下げて取材した記事が論説と相俟って強くアピールしていくことが、雑誌にはできない新聞の良いところではないかと思います。新聞というスタイルを活かすにはそういう点がもう少し欲しいなと思いますね。
 私はいろいろな農業関係表彰の審査委員をしていますが、全国の農協には優れた人材がいますし、その時々の状況に合わせた努力がなされています。そうした現場の努力や人材をもう少し紙面にだすと、農協マンを励ますことになるのではないでしょうか。昨年も同じようなことをいいましたが、そのせいか、現地ルポは増えてきていますが、ルポからさらに突っ込んで、そういう人を掘り当てて欲しいと思います。

梶井 功氏   山地 進氏   太田原 高昭氏
梶井 功氏 山地 進氏 太田原 高昭氏

優れた現場の事例をどう一般化するか

 梶井 昨年は今村さんもそういう注文をつけていましたね。

 今村 私はボトムアップ方式が農協改革の基本路線だと考えています。これまで私は、農水省や全中などの委員会の座長などを依頼され、トップダウン方式・中央指令型の農政改革とか農協改革にずいぶん知恵を出し、いろいろなことをやってきましたが、残念ながら“笛吹けど踊らず”というところがあります。ですから、ボトムアップ方式つまり地域提案型創造的な改革路線を現場で取材して、その中からこれから5年先10年先を見通した基本路線を見出すことが必要ではないかと考えています。
 ただし、新聞がそういうことを掲載しても、これは重要な問題提起だと思って改革を進めようとする農協の組合長はじめ役職員はやはり少ないと思います。いま872農協がありますが、その中で優れたところは200農協かなと思いますし、その中でも立派な農協は100くらいではないでしょうか。そして下の方の300農協は感度もないし何をやっているのかなという感じがします。改革への取り組みの意欲や実践力には上・中・下がありますから、農協改革一般ではなく、872農協のなかで下のグループをせめて中にする、中を上にするという路線が、現場をみていると必要だと思います。
 私は本紙に月に1回「今村奈良臣の地域農業活性化塾」を書いていますが、抽象論は一切書きません。現場の実態をきちんと踏まえて、その実践の考察の中からどうすべきかという問題提起をしています。また、「どっこい生きてるニッポンの農人」というシリーズでは新潟県のJAささかみ(10月15日号掲載)や高知県のJA馬路村(8月15日号掲載)へも行きました。こうした各地の優れた事例をどう一般化し、どういう改革路線を組み立てていくかを本紙に期待したいですね。

今村 奈良臣氏   小島 正興氏   石田 正人氏
今村 奈良臣氏 小島 正興氏 石田 正人氏

反対意見を取り上げ、提起した問題のフォローアップを

 梶井 前回、小島さんから幅広く厳しいご意見をいただきましたが、1年経っていかがでしょうか。

 小島 前回出された基本的な問題についてはあまり改善されていないと思いますし、これからやるべきことはたくさんあると感じています。
 例えば、インタビューとか対談で意見を掲載する場合、反対意見が当然あるわけですから、それを取り上げなければいけないのではないかと思います。そして取り上げた問題についてのフォローアップが足りないという感じがします。
 もう少し農協関係以外の政界、財界、学界人たちの農協や農業に対する意見を積極的にインタビューしたりしていくことが必要でなないかと思います。また、担い手問題では、政府での討議を載せるのはいいのですが、それについて農業内部でどう考えているのかがもう少し欲しいと思います。
 それから、1〜2面にわたって対談が続いているのは詳細に伝えるという意味ではいいのですが、スペースの配分としては考えなければいけないのではないかと思います。
 具体的に紙面に即していうと3月30日号で全中の富士部長が「新たな基本計画とJAグループの課題」について解説していますが、ここで提起されたいくつかの問題について、その後、具体的な取り組みが現場でどうなされているのかというフォローアップが必ずしもされていないと思います。また、担い手の要件についていろいろいわれていますが、もう少しこの新聞らしい取り上げ方が必要ではないかと思います。
 7月25日号では生産法人の調査結果を掲載していますが、これは昨年末に調査されたものです。せっかくの調査ですからもっと早くまとめられなかったのかなと思います。そしてせっかくこういう調査をするなら、設問項目など内容をもう少し考えれば、生産法人の実態が明らかになるような調査になったのではないかという感じがしました。
 9月20日号では、今回の衆議院選挙結果について、岩本純明東大教授が書いておられますが、これは一般紙になかった分析で非常に面白かったです。しかし、新聞として岩本教授の分析を裏付けるような農林議員や各選挙区の動静などについてフォローアップする記事があればもっと読ませるものになったのではないでしょうか。

 大田原 先ほど論説とタイアップした取材といった意味は、小島さんがいまいわれたことと同じです。

安 澄夫氏   阿部 長壽氏   日和佐 信子氏
安高 澄夫氏 阿部 長壽氏 日和佐 信子氏

新聞の使命を自覚し、自らも変革を

 梶井 フォローアップが足りないという指摘ですが、その点について石田さん、現場ではどう感じていますか。

 石田 私たちは現場に足を踏ん張ってやっているわけですが、この新聞は指針として役立っています。新聞創刊以来ここまで農政も農協も大きく変わってきていますが、それを紙面に残していくのがこの新聞の使命だと考えています。いま農協は大きく変わろうとしていますし、変わっています。この改革をする大事なときに果たすこの新聞の使命は大きいと私は思います。
 現地ルポをシッカリというご指摘がありましたが、農協が大きく変わっていく様をシッカリととらえることが大事です。改革に失敗してしまうと、農業も農協も終わってしまうという時代ですので、この新聞を通して実践をともない私たちが踏ん張り得る指針を先生方には示していただきたいと思います。

 安高 少し過激な表現をすると、いま農業、農協は危機的な状況にあると思います。農業以上に農協の方が危機だと思います。それは食管法がなくなり、農協の政策補完的な役割がなくなったからです。いままでは良い悪いは別にしてそこに存在価値がありました。そしてその存在価値のもとに組織と組織を構成する人間の意識ができあがっていますから、簡単に変えられない状況にあるわけです。
 私はいまの農協の危機を「明治維新3年前の藩幕体制」ととらえています。5年後に侍はいません。つまり農民と農家がいないということです。なにが居るかといえば農業経営者と農業従事者です。農協は農家と農民を基礎にして成り立っていますが、農業に従事しているパートさんは農村に住んでいるわけではありません。町の5階建てのアパートに住み、農業に従事しているわけです。そういう意味で、5年後に農業は存在しても農民と農家はいないということです。
 この時期にこの新聞も含めて農業関係の報道は、私には「大本営発表」に見えます。大手町や霞ヶ関が気づいていないことをきちんと報道する必要がある。彼らに言いにくいこと、現場の現実をきちんと言う必要がある。それがないと私は思います。いま農協は革命的な変革を求められています。しかし、オピニオンリーダーである農業関係新聞や雑誌自身の組織や意識の革命的変革がなされていない。自ら変革しないものが他に変革は求められないと思います。

野澤 万代氏   三嶋 章生氏   松下 久氏
野澤 万代氏 三嶋 章生氏 松下 久氏

農業と農民を発展させる立場で指針を

 阿部 安高さんが「農民と農家」がなくなると言われましたが私もそう思っています。
 今、食料・農業・農村基本計画の具体化について担い手の不足や高齢化、耕作放棄地の増加等の課題対策に対して担い手に関する要件論が議論されていますが、その論点は、これまでの農業政策はバラマキ予算が批判され、その支出先の透明性を求められているので農家の選別による担い手の「選択と集中」を進めるということにあると言われています。
 これまでの農業政策はバラマキ予算悪だったのでしょうか。東京から東北新幹線で30分も乗ると水田と農村地域が広がっていますが、この農村地域の存在こそが透明性の証明でありバラマキ予算効果ではないでしょうか。世界的にみて都市と農村の所得格差が少ない国と言われています。都市と農村の両立が日本の今日的繁栄をもたらした結果ではないでしょうか。市場経済論だけで割り切れない農業・農村の存在と位置づけの議論が不足しているように思います。担い手の選別政策の本質とねらい、「農業予算の透明性」について本紙の紙面討論と検証に期待するものです。

 北岡 本紙は日刊紙ではないので、研究者の方の執筆も多いので指針的なものが欲しいなと思います。もう一つは、組合員でも若い人には協同組合思想とか協同組合運動ということが通用しない時代に入ってきています。生産資材は安ければいいとかという感覚になっているので、運動的なことをこの新聞では取り上げて欲しいですね。

 梶井 日和佐さんはどうですか。

 日和佐 私は紙面が変わってレイアウトがきれいになって見た感じが締まってきたと思います。だらだらと続いて次のページの変な所につながっていったようなのは、無くなっています。でも、やっぱり対談で見開き4ページもあるときがあって、読む気がしなくなります。対談はどうしても散漫になりますから、何が議論されているのか印象が薄くなるのです。どんなに長くても1ページだと思います。もちろん内容が重要ですが、読みたくなる紙面構成があるもので、せっかくの記事も読む気がしなくては何もならないのですから、これからも躍動感のあるレイアウトに挑戦してください。
 紙面の内容ですが、農業に関連するトピックスがあると農協新聞ならどんな取り上げ方をしているのだろうかと、期待して読んでいます。消費者としての私の読み方はそんな場合が多いですが生産者と消費者を結ぶ記事が多く目に付くようになりました。生産の現場と消費が乖離してしまっていることに大きな問題があります。今後もこのような記事に期待します。

 野澤 常に農業と農民を発展させるという立場で指針を示すという基本を揺るがせないで欲しいと思います。基本とはなにかということが一番問題ですが、私は食料と農業を大切にするという視点をもつことだと考えています。

 三嶋 最近の日本の新聞は、論点の出発点が一緒なのでどの新聞を読んでも同じですね。この新聞が良いのは、タイムリーではないけれど、一呼吸おいて読むには非常にいいということですね。全農改革についてももう少し違う視点をもって考えなければいけなかったかなということもあって、視点としてはいいと思います。
 全農や農協の存在あるいは農業や食の問題などそれぞれの価値観が多様化しているなかでの報道ですから、どういう視点でとらえるかは難しいですね。

 松下 名称の通り農業協同組合を基本において、問題点を解説し、反対意見も入れて丁寧に報道してもらうことだと思います。インタビューや対談ではその人の立場が出てきますからいいと思います。
 現地ルポをというご意見が出ていましたが、経費もかかり簡単にはいかないと思うので、どういう仕組みをつくるかと考えてみたらどうかと思います。

前田 千尋氏   上山 信一氏   北岡 修身氏
前田 千尋氏 上山 信一氏 北岡 修身氏

協同組合運動の大事さを紙面を通じて伝える

 梶井 前田さんいかがですか。

 前田 一つは世の中の変化への対応です。例えば、食料・農業・農村基本法の見直しとか農協法改正あるいはWTO農業交渉の進展状況など世の中の動きや大きな流れをまとめ、こういう課題があることを有識者などの意見を入れながら、読者である農協関係者に啓蒙したり示唆する役目が新聞にはあると思います。
 もう一つは、農協の第一線で働いている人や生産者にどういう課題や問題意識があるのかを掘り下げて、それをどう解決していくかを研究者や有識者の意見も聞いて紙面に反映することです。
 そして三つ目に、農家組合員は農産物を生産して消費者に提供しているわけですから、農家組合員が意欲をもって農業に従事できるよう、消費者が何を望んでいるのかを伝えることも大事だと思います。現場の課題を掘り下げることによって、現場がどういう方向で取り組もうかと悩んでいるときに、優良事例を含めてこういう方向もあるということを多く報道してもらいたいと思います。
 それから運動論的なことになりますが、世の中が自分さえよければいいとか、効率主義一辺倒に走っていますが、互いに助け合っていこうという協同組合運動的な意識をもつことの大事さを紙面を通じて出して欲しいと思います。

 梶井 上山さん、前回、運動体としての農協それ自体が危機にある、それをどう立て直すかが課題だとご指摘されていましたが、いままでの話を聞かれてどうですか。

 上山 私たちの世代は、経済事業が赤字になって、それを立て直す再建整備促進を経験して、いまの農協をつくり上げるという過程にいましたから、農協に対する思いは非常に強くあります。その農協がいまガタガタになってきている。あのときにつくり上げてきた経済事業の仕組みがガタガタに壊れてきています。この間に世の中がどう変わったか、制度・仕組みがどう変わったかということをもう一度よく考えてみると、例えば米の共販にしても組織として改革なくして現在に至っていることに問題があるのではないかと思います。農協を巡る環境がどう変わって、それにどう対応しなければならないかということをもう少し紙面で議論できればという思いがいつもありますね。
 私の現役のころから、この新聞は全国連の機関紙的な新聞ではなくて、わりあい自由な論評があったと思います。しかし最近はそうしたピリッとしたところがなくなってきたのではないかと思いますね。もう少し自由な批判が必要だと思います。全国連の情報をきちんと伝えることはもちろん必要ですが、地元の農協をみていると、文字通り「生き死にをかけた戦いのときだ」という実感を強く持っていますので、現地ルポなどで悩んでいる農協や農民の声を紙面で取り上げて、どうしたらいいかを考えていくことも大事だと思いますね。(次回へつづく

(2005.11.7)

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