農業協同組合新聞 JACOM
   

シリーズ JAの生命線 営農指導と販売事業
第2回 農産物の生産・販売はJAがあってこそ (下)
今村奈良臣 東京大学名誉教授 (JA総合研究所長)

 前回(農産物の生産・販売はJAがあってこそ(上))はP―six理論の右辺である「市場的条件」の中のProduction、Place、Priceの3つをどのような視点から捉え、JAの営農指導や販売事業をどのように改革し実践していくべきかについて述べた。
 今回は六角形の左辺である「主体的条件」について述べよう。(図1参照)

営農指導と販売戦略の展開−P―six理論−

4.Promotion―「地域ブランド」づくりも課題

 いろいろな方法で販売促進に取り組み、生産者、組合員にやる気を起こさせる、ということである。販売促進のためには、消費者や実需者に対して、いかなる生産、栽培方法や、技術でもって、安全、安心な多様な農畜産物を生産しているか、あるいはまた環境保全や資源の保全・管理、さらには景観の創造に取り組んでいるか、あるいはいかに都市・農村交流に取り組んでいるかなど外部に対する情報発信や多面的な広報の努力は欠かすことができない。
 さらに全力をあげて取り組んでもらいたい課題は06年4月から新たに制定された、地域を代表するブランドの新しい登録制度「地域団体商標」である。地域産業の振興やニセブランドの排除、地域農産物の競争力の向上などには欠かせない。地域ブランドとは、地域の名前と商品(またはサービス)を組み合わせた商標であり、商標を取得できるのは、農協や漁協など法律にもとづいて設立された団体に限られ、団体が産地であることを保証することになり、消費者のためになるものである。
 さて、他方で、地域内の消費者はもちろん生産者に至るまで、いかなる新たな体制で地域の農業を中心として地域振興に取り組むべきか、そのためにやる気をかき立てるための路線の策定や情報発信を行わなければならない。具体的には地産地消をねらいとした直売所の立ち上げや学校給食、地域の病院や養護施設などへの農産物供給システムの確立などである。これらの点についても後で具体的に述べることとしよう。

5.Positioning―立地条件をいかに生かすか

 立地を生かし誇れる産地を作る、ということである。わが国のどこの農村も、またJA管内も、それぞれ特有の立地特性に恵まれている。大きくは北海道から沖縄、南西諸島に至るまで、また都市近郊から中山間地域に至るまで、さらには平坦水田地帯から山間棚田地帯に至るまで、多様な立地特性に富んでいる。前述の「地域ブランド」を、これほど作りやすい国はないのではないかと思うほどである。これらの立地条件をいかに生かし、多様な個性に富んだ農畜産物の生産と販売をいかに行うか。そのことが、いま、ますます問われているだけでなく、これからの時代に力強く生かしていかなければならないと思う。
 例えば、水田農業ビジョンの策定にあたって、もっぱら米や麦や大豆にばかり関心を払うのではなく、米よりももうかる作物はそれぞれの地域で数多く存在する。さらに加工を加えればさらにもうかる作物はいくらでもある。中山間地域にあっても、その条件不利を嘆くのではなく、標高差を生かして、多種多様な野菜やきのこの周年供給体制を作り上げている地域やJAもある。「立地を生かし誇れる産地を作ろう」ということを合い言葉に、活路を見出してもらいたい。

6.Personality―総合力ある人材をふやす

 人材をふやし、マネージャー、リーダーを生かす、ということである。
 地域の農業生産者にいかに人材をふやすか、またJAの役員、職員にいかに人材をふやすか、ということが、地域農業活性化の基本課題である。人材とは何か。企画力、情報力、技術力、管理力、組織力という5つの基本的要素の総合力を身につけているのが人材であると考えているが、この点については後に改めて述べることにしよう。また、人材をふやす、という課題は、ともすればそれも中堅や青年へ目が行きそうであるが、女性や高齢者あるいは定年帰農者や新規参入者なども重要である。私はかねてより「高齢者」とは言わずに「高齢技能者」と呼んできた。生まれてから高齢に至るまで、さまざまな智恵や技能、技術を五体に刻み込んできているからである。いまこそ、「高齢技能者」を生かさなければならないと考えている。

7.小括―六角形の採点を―

 以上述べてきたP―six理論の六角形の図を前にして、それぞれの地域なかんずくJAの達成度は、何点であるか採点してもらいたい。それぞれの頂点を10点満点として、現状は何点であるか、JAの役職員はもちろん各部門の担当者の立場で採点してもらいたい。8点以上であるならば合格点、つまり、かなり成果をあげていることになるが、8点未満ならば、どういう分野をさらに改革していかなければならないか、その改革への努力と方向が明らかになると思う。
 もちろん、役職員や各分野の担当者個人の立場で採点し、それを持ち帰り、それぞれの担当部署で総括的な評価を行い、新路線の方向性を明確にして、各頂点が10点満点になることを目指して頑張ってもらいたい。それがJA改革にもつながり、地域農業振興にもつながっていくものと確信する。是非とも取り組んでいただきたい。

(2006.5.25)


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