農業協同組合新聞 JACOM
   
特集 JA全農畜産事業 安全・安心な畜産物の生産基盤拡大と販売事業の強化

地域の有機物を活かした循環型農業の確立を

畜産総合対策部

 JA全農は「生産者と消費者を安心で結ぶ懸け橋」となる「新生プラン」を策定し、その実現ために各事業で具体的な取組みが行われている。畜産事業においても「安心・安全な畜産物を消費者へ提供するための取り組み強化」「生産基盤拡大対策の取り組み強化」「飼料・畜産資材の取り扱い強化」「販売事業の機能強化」「会社化による事業競争力の強化」「畜産環境対策の取り組み」などに取り組んでいる。
 そこで本紙では、畜産事業各部門が現在取組んでいる重点課題について取材し紹介することにした。なお、畜産販売事業については、中畜センターを会社化し全農ミートと合併し、9月1日から本格的に始動したので、岩佐肇三社長に同社のこれからのあり方などについて聞いた。(記事参照

◆JA堆肥センターの機能強化

 平成11年7月に、農業環境3法が公布された。これによって、家畜の糞尿処理・利用の適正化とあわせて、畜産堆肥など未利用有機資源を積極的に利活用する循環型農業の確立の方向が定められた。とくに、5年間の猶予期間を経て16年11月から完全施行された「家畜排せつ物法」に対応して堆肥舎などの施設の整備が進み、畜産堆肥の生産量が増加していることから、「耕畜連携」の拡大・畜産堆肥の流通促進が求められている。
 これに対応するために、JA全農では独自事業として「環境保全型・畜産有機堆肥利用促進モデル事業」を実施し、JAなどの堆肥センターの活性化による畜産堆肥の利用促進とJAグループ畜産生産基盤の維持・拡大をはかっている。
 JAの堆肥センターは、その管内で発生する家畜の排せつ物を適正に堆肥化し、生産された堆肥を円滑に耕地に還元するという資源循環における重要な役割を担っている。また、耕種農家の「低コストで高品質」「運搬・散布サービスの実施」などの要望に応えて耕畜連携を進めていくために、堆肥センターの機能強化が求められている。

◆耕畜連携による地域農業の持続的発展

 そこで、管内に6か所の堆肥センターがあるJAみやぎ登米にその実情を取材した。
 JAみやぎ登米は、水田面積1万5000ha(転作分を除くと1万1000ha)という県内でも有数の稲作地域だ。とくに近年は、▽良質堆肥や有機質肥料の施用により化学肥料(チッソ成分)の施用量を慣行の1/2以下にする▽農薬成分数を8成分以下にする▽統一栽培基準にもとづき栽培し、栽培計画書・栽培履歴を記帳する(トレーサビリティーの完全実施)など、「有機物等の地域資源を生かした米づくりの実践による安全・安心な商品づくり」である「環境保全米」に積極的に取組み、作付面積は約8000haにおよんでいる。その基礎となる土づくりを支えているのが、管内6か所の有機センター(堆肥センターを同JAではこう呼ぶ)で生産される堆肥だ。
 JA管内は「仙台牛」として知られる肉牛や養豚など畜産も盛んで、2万7000頭強の肉牛と乳牛を合わせて約3万頭の牛と5万頭強の豚が飼育されており、その総排せつ物(糞)発生量は、年間約27万トンになる。そのうちの2割弱程度を6か所の有機センターで処理しており、そこから生産される堆肥は、年間1万5000トンとなる。この堆肥を活用して、「環境保全米」づくりがなされており、文字通り「有機センターを拠点施設とした耕畜連携による地域農業の持続的発展」がはかられているわけだ。

◆家庭菜園をする人も買いに来る良質な堆肥

家庭菜園でも好評な「登米パワーゆうき」
家庭菜園でも好評な
「登米パワーゆうき」

 6つの有機センターうち米山町有機センターはJAが設置したが、あとの5か所は、合併して登米市となる前の迫町・豊里町・石越町・南方町・中田町が設置した公的施設だが、管理運営はJAが行っている。
 このうち米山町はもっとも早く平成11年に設置されたが、唯一、し尿処理を行う水処理施設を併設している。排せつ物を搬入する利用者は養豚農家が多いが、生産される堆肥は「質が良い」と評判で、センター管内の水稲や露地野菜、花、転作作物農家が利用するだけではなく、家庭菜園をしている仙台市や岩手県の人が買いに来るという。同じような話は南方のセンターでも聞いた。特別、PRしているわけではないが、米山町ではバラ出荷だけではなく、家庭菜園でも使いやすいように袋詰めして「登米パワーゆうき」のブランドで販売していることもあって、口コミで伝わっているのではないかという。
 豊里町では、大豆のローテーション栽培が計画的に行われており、センター周辺に団地化された大豆畑が広がっていた。センターで生産される堆肥は、秋と春に分けてすべてこれらの大豆団地で施用されている。

(右)米山町有機センター全景・(左)豊里有機センター
(右)米山町有機センター全景・(左)豊里有機センター

◆土壌マップによる利用促進とJAの助成

 有機センターの課題とその解決策ついて、佐々木謙畜産課長は次のように語った。
 一つは、堆肥散布作業にかかわる労力の問題だ。とくに生産者が高齢者や女性の場合こうした問題がどこでも起こりやすい。これについては、利用する畜産農家によるコントラクター(散布組合組織)を育成し、JAが散布作業機械導入助成をしている。ただし、米山町の場合は、センターが高速堆肥運搬散布車をもっており、この依頼があれば散布車で散布している。
 二つ目は、利用の促進だ。そのために、県などの関係機関と一体となって、土壌マップによる土づくりなど利用啓蒙を行い施用率の向上推進を行っている。そして、JAが堆肥の利用助成(500円/トン)を実施している。さらに、各センターの堆肥特性にに合った施用方法の指導と安定した堆肥の製造技術の習得に努めている。

◆収支改善には行政の支援も

 三つ目は、センター運営の収支改善だ。この地域は畜産が盛んなため、稲わらと畜産農家が自家生産した堆肥を物々交換してきたので、耕種農家に堆肥は買うものではないという意識があるため、普及には買いやすい単価設定が必要だった。また、実質的にすべてのセンターをJAが運営していることもあって、施設ごとの製造原価は異なるが堆肥の販売価格は1トン3000円と一律にした。排せつ物を搬入する利用料金も一律600円/トンに設定した。
 しかし、この価格で収支を均衡させることは難しい。JAでは指定管理者としての経営努力をするとともに、公的施設でもあるので行政の支援を求めているという。
 登米市では20年本格稼動の予定で新たな有機センターを設置することにしている。それは「環境保全米」という有機物等の地域資源を生かした米づくりを徹底し、その米をJAが全量「売り切る」。つまり土づくりから販売まで、JAの一貫した姿勢が生産者にも理解され、堆肥が確実に施用されているからだといえる。

 

(2006.9.28)



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