農業協同組合新聞 JACOM
   

特集  全農特集・生産者と消費者を安心で結ぶ懸け橋に

座談会 その1


生産現場、担い手に目に見える全農改革をどう進めるか
「信頼」を軸に担い手育成・支援の推進を

出席者

鯨井武明氏 JA埼玉ひびきの・代表理事組合長
田中良隆氏 特定農業法人(株)グリーンちゅうず・代表取締役社長
菊池健久氏 JA全農・常務理事
小池一平氏(司会) JA全農営農総合対策部・部長
 全農改革の大きな柱が「担い手対応の強化」である。全農では「新生プラン農業担い手支援基本要領」に基づき各県域で取り組みを進めているが、課題は目に見える形での担い手支援策の実現だろう。とくに今後は担い手の経営安定のための販売事業をどう構築するかが大きなテーマとなる。ここではJAの立場からJA埼玉ひびきの鯨井武明組合長と生産法人の立場から(株)グリーンちゅうずの田中良隆社長にJA全農への期待、要望なども含め担い手対応の強化をめぐってJA全農・菊池健久常務と話し合ってもらった。

生産者が安心できる全農の販売力の発揮を

◆700ヘクタ ール規模の法人設立

鯨井武明氏
くじらい・たけあき
昭和17年生まれ。埼玉県立熊谷農業高等学校卒。昭和62年本庄酪農協理事、平成8年埼玉本庄農協理事、9年埼玉ひびきの農協理事、17年同農協代表理事組合長就任。

 小池 JA全農は昨年12月に「新生プラン」を定め担い手対応の強化に取り組んでいます。今日の座談会は「生産現場、とりわけ担い手に見える全農改革をどう進めるか」をテーマに、全農に対する期待や要望も出していただきながら議論をしていただきたいと思います。
 さて、戦後農政の大転換といわれる品目横断的経営所得安定対策が打ち出されたわけですが、最初に現場では担い手育成にどう対応をしているのかについて鯨井組合長からお聞かせいただきたいと思います。

 鯨井 品目横断的経営安定対策の実施が決まったとき、対象となるための要件をクリアできる農家はほとんどいないことが分かりました。みんな1.5ヘクタールぐらいの麦作農家ですから。そこで私は、これはもう農協で法人を立ち上げてひとつのかたまりをつくるしかないと考えた。ということで約400人、面積にして700ヘクタールありますが、この構想を組合員に説明して、法人の構成員になってほしいと話しました。結局、みなさんが理解をして全農家とJAも一部出資し、「ひびきの農産株式会社」という会社をこの春、立ち上げ、生産者に取締役になってもらい農協は事務をサポートするということにしました。
 今、70歳代が働き手の中心になっているわけですから、10年もすればもう麦作はやめたいという人が出てくるでしょう。しかし、一方ではもっと麦の作付けを増やしたい、もっと米をつくりたいという本当の意味の担い手が育ってくるでしょう。それまではとりあえず国の政策に乗らざるを得ないから、この政策に乗ろうというのが考え方です。

◆出向く体制で渉外活動を重視

田中良隆氏
たなか・よしたか
昭和29年生まれ。八幡商業高校卒。中主町農協に25年間勤務。平成3年(有)グリーンちゅうず設立。(株)グリーンちゅうず代表取締役、野洲市議会議員、(社)日本農業法人協会委員。

 小池 地域農業の担い手を育てるためにもまずは面的に農地を集約する法人を設立したということですね。地域農業全体の振興策や担い手対応策についてはどういう方針で取り組みを進めていますか。

 鯨井 ひびきの農産は麦を中心に設立した法人ですが、管内の農業としては野菜、果樹、畜産と多様で非常にバランスのとれた地域です。野菜出荷量は県内でトップですし。
 農協としてはそういう多様な作目を生産する農家も含めてどうしたら豊かになれるかを考えていかなければなりませんが、それには地域社会とどう関わるかということが大事だと考えています。
 今まで農協は組合員を対象に物事を言ってきた。しかし、そうじゃない。たとえば成人病が増え医療費の増大が問題になり、だから食育だと叫ばれているんでしょうが、やはり医食同源といいますか、地域社会の人たちが元気になってもらうその源、食の部分は農協が担おうと考えたい。組合員を対象にした営農経済事業はもちろん大事だけれども、地域社会にどれだけ役割を果たしていけるのかだと思っています。
 それから農協の改革では、支店の再編成を課題としています。今までは店舗のカウンターで組合員を待っていたわけですが、職員が組合員宅の玄関まで出向くようにする。この仕事をしない限り人はついてこない。そのために、われわれのJAでは22の支店を来年には6支店にします。そして営農、金融、共済それぞれの担当職員が自分の仕事だけやればいいというタテ割りではなく、どう幅広く対応するかを考えていく。組合員にしてみれば誰が訪ねてきてもJAの職員なわけですからね。つまり、タテ割りの関係に横糸を入れて面として整備することが課題です。
 こうした体制で渉外に力をいれていこうと考えていますが、そのときに大事なのは、実はJAは何ひとつ作っているわけではないということ。JAがやることはモノ売りではなく情報の提供だということです。いい商品をチョイスして、それについて情報提供するのがJAの役割でもあるし、全農も生産者とともに消費者に情報提供する役割が重要になると思っています。

◆耕作放棄防ぎ地域貢献

菊池健久氏
きくち・たけひさ
昭和23年生まれ。長野県農協講習所卒。平成13年全農長野県本部生産購買部長、15年同本部総合企画部長、同年副本部長、17年同本部県本部長、同年常務理事就任。

 小池 では、田中さんからはグリーンちゅうず設立の経過と現在の経営概要をお話いただけますか。

 田中 私は20数年、農協職員でした。営農課長時代の昭和の終わりぐらいから、「農業をやめたい」、「農地を誰か預かって欲しい」、という声がだんだん増えて、営農課はその相談窓口だったわけです。もちろん農地を引き受手につないでやりくりしていたわけですが、相談が増えてくるとうまくいかなくなりました。受け手の側も遠くの田んぼや条件の悪い小さな田んぼは敬遠するわけですね。そこで、農協が農地を引き受ける組織をつくれということから、私が動き法人を設立しました。
 平成3年当時は、農地法の制限がありJAが出資をすると農業生産法人には認められないという経緯があり、仕方なしに我われのポケットマネーで出資し設立しました。
 今は1000万円のうち250万円をJAから出資いただいています。
 行政の、そしてJAの優等生として、今までやってきましたし、これからもそのつもりです。
 それから15年が経ち今の経営規模は140ヘクタールほどで、今年は水稲95ヘクタール、大豆が50ヘクタール、小麦が60ヘクタール、これがベースでそのほかキャベツやブロッコリーをつくっています。17年12月期の純粋な売り上げは1億7000万円ほど。助成金を加えてざっと2億円です。社員は、私を含めて正社員が8人で臨時職員や研修生をいれて13人ほどのメンバーです。
 「ちゅうず」というのは元々は町名で、今は合併して野洲市になりました。今年の正月に高校生サッカーで日本一になった野洲高校の地元です。都市部に近く兼業率も高い地域で、今後も農業をやめる人は増え農地はまだまだ出てくると思います。実際に、すでに田んぼのことで何か困ったことがあれば、グリーンちゅうずに相談すれば何とかしてもらえるという雰囲気が地域に浸透していますね。たとえば、息子がケガをしてしまって作業ができないので面倒をみてほしい、といった依頼にも応えています。

 小池 経営上の課題にはどんなことがありますか。

 田中 これは今年の夏に、食料供給コスト縮減委員会でのヒアリングの席で話したことですが、この委員会では5年間でコストを2割下げようということですね。しかし、われわれの法人は肥料、農薬、その他部品なども含めると農協から買っているのが年間4000万円ぐらいですから、かりに1割下がっても400万円です。2億あまりの売り上げのなかに占める額としてはしれたものなんです。
 それよりも委員会で強調したのは、もっと農地の集積をしやすいようにということでした。140ヘクタールの農地を借りているといっても、農地は全部分散しているわけですから、面的なかたまりとして規模拡大できるような施策こそが大事で、それがないとコストは下がらないという実感を持っているということを申し上げたわけです。

◆多様な農業者を支えるバランスある担い手対応を

 小池 ありがとうございました。これまでのお話をふまえて菊池常務から「新生プラン」と担い手対応強化の基本的な考え方についてお願いします。

 菊池 単位JAでは今まで、「担い手対応」という言葉ではありませんが、生産資材の大口利用者というような言葉で大規模農家に特別な対応をしてきました。これは県によって営農類型や栽培規模が異なっていますから、対応の仕方も違っていました。
 今回、国は一定の要件を備えた担い手を経営所得安定対策の対象にするという政策を示されました。JAグループとしては、担い手への個別対応に力を注ぎながらも担い手と非担い手対応という二者択一ではなくて、バランス感覚に満ちたものでなければならないと思っています。
 販売金額が比較的小規模な生産農家であっても、そういうみなさんによって地域農業や農村が支えられているからです。すでに全農では「新生プラン農業担い手支援基本要領」を策定しており、このなかでは県ごとに対象とする担い手を定めていだだき、県ごとに担い手のみなさんにどういう経営支援ができるか、あるいは営農・販売支援ができるかということを盛り込んだマスター・プランが作成されています。
 また、そのプランに基づいた実践がどのくらい進んでいるのかを確認するために、担い手のみなさんをシステムに記録させていただくことや、全農の運営コストが高いという批判もありますから、要員をできるかぎり削減して、その削減から生み出されたものを財源として、19年度から5年間で240億円の担い手対応をしていきましょうと考えています。
「座談会 その2」へ続く)

(2006.11.20)


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