農業協同組合新聞 JACOM
   

特集  食と農を結ぶ活力あるJAづくりと女性達の役割



 昨年10月の『第24回JA全国大会』では、JAグループのビジョン実現のために地域農業振興や安心な農畜産物の提供などに取組むことが確認された。また、女性の役割の高まりを受け、女性のJA理事(または経営管理委員)および総代の選出などが大会議案に盛り込まれ、これからその実践に向けた取組みが活発になっていくものと思われる。
 JAの活性化を図り、ビジョン実現のために必要とされる女性の役割とはなにか。家庭で地域で中心となって活躍しているフレッシュミズメンバーの3名の方に、毎日の暮らしのなかで、「農」の現場から見た「食」の現状や、これからのJA女性組織などについて語りあってもらった。


家庭では子育て、農業では担い手と大活躍の女性たち

遠藤紀江さん
遠藤紀江さん

 ――今日は家庭や地域のなかで日頃みなさんが活動していて感じていること、考えていることなどを話していただき、経験を共有してこれからの活動に活かしてもらえればと考えています。まず、1人づつ自己紹介を兼ねて一言お願いします。

 遠藤 家族は父、母、夫、私、息子2人の6人家族です。肥育牛60頭を飼っています。規模を縮小したので、ハウスで母と2人イチゴ10アール、サクランボ20アールの栽培をしています。夫と父は勤めに行っているので女2人で農業を切り盛りしています。技術や経験は母の方が上なので、私は手伝っているというような状態です。長男が中学1年生で、忙しい時は手伝ってくれるようになり、とても心強く思っています。
 小林 7人家族ですが、長男は学校のために家を離れているので、今は6人で暮らしています。経営は米麦中心で米14ha、麦18haの規模です。
 私自身はサラリーマン家庭で育ち、農業とはまったく縁がありませんでした。しかし、体を動かすことが好きだったので農業を行うことに抵抗感はなく、農作業もそんなには苦労しませんでした。米麦の暇な時を利用して、ハウスでの花き栽培を始め、私が中心となって花づくりをおこなっています。
 山下 柑橘1.3ha、米0.8ha、野菜0.2haの経営です。夫は勤めにでているので、夫の両親と私の3人で農業をしています。子どもは中学1年生と小学4年生の女の子です。昔から農業が好きで、お嫁に行くなら農家の長男と決めていました。うまい具合にその通りになりました。
 結婚当初は勤めていましたが、農家の嫁として自立したいとの思いもあり、今は私が中心となって野菜を作っています。最近、ハウスを建て、何を作るか家族で話しあっています。いろいろなアイディアがあり、今は話し合うことが家族の楽しみになっています。

◆「食」に関心のある層とない層の進む2極化

小林町子さん
小林町子さん

――みなさんのお話を聞いていると、家庭や地域で中心的な役割を果たしている姿が目に浮かぶようです。今日のテーマである「食」や「農」について、今気になっていること、または気が付いたことなどを教えてください。

 小林 子どもの学校の関係でPTAの活動をしています。そこで感じているのですが、農業や食べ物について全く感心がない層と、安全性などにこだわり常に質の高い食べ物を求めているような層とにはっきり分かれ、2極化が進んでいるように思います。感心の高い層は自分が納得できる食材で食事を作りますが、一方、みそ汁も作ったことがないという親もいると聞いています。食事は生活の基本で、生きることと同じだということを、みんなの共通の理解にしなければと思っています。
 遠藤 先日、子どもの中学校で実施している『職業講話』の講師として呼ばれ、毎日行なっている農業の経験などを話してきました。自分も含め今までに飢餓感を経験したことがなく、常に食べ物を選べる状態の中で生活しています。しかし、食料自給率を表にしてみんなに配ったら、あまりの低さに先生もビックリしていました。それほど自給率の問題は忘れられています。
 私もそのことを考えて農業を始めたわけではありませんが、農業をおこなっているなかから徐々に問題が見え、私なりに整理したものを子どもたちに伝えました。私の話を聞いて子どもたちも考えてくれたようで、話して良かったと思っています。自分の考えを人に伝えることの大切さを実感しました。
 山下 私が住んでいる田舎でも、スーパーで一番良く売れるのは惣菜です。都会では包丁のない家庭もあるという話を聞いたことがありますが、田舎も都会を笑えなくなっています。
 地域の伝統食などは、私たちが次の世代に食べ物の大切さを伝えていかなければ、祭りなど地域に残る伝統や習慣と同じように廃れてしまうという危機感から、仲間と一緒に伝統の味を伝えていこうという取組みを始めました。そのような危機感は、JA女性部にいて普段から「食」や「農」について考える機会を与えられていたからこそ感じることができたと思います。
 小林 中学校の父母会に行くと、親同士が私語を交わし先生の話を聞いていないなど、親の子どもに対する無関心を感じます。子どもに無関心であれば、食事に手をかけなくなるし、親から子へと伝えていく家庭の味なども途絶えてしまう可能性があると思います。
 また、料理を作ろうとしても、自分も親から教えてもらっておらず、なにから始めて良いか分からないというような人が多くいます。そのような時にこそ、地域の農産物を使った料理などを教えることができ、「食」と「農」に係わっているJAの力が発揮できると思います。学校、PTA、JAが連携して「食」とそれにつながる「農」について子どもたちや親に教えることは、JAの活動を地域の人に知ってもらうのに役立ち、その存在が認めてもらえる良い機会だと思います。PTA、学校との連携は、子育て中のフレミズだから可能だと思います。

◆子どもよりも親への「食育」が必要

山下由美さん
山下由美さん

――JAも進めている「食農教育」についてですが、どのようなことが気になりますか。

 山下 今私が気になっているのは、学校給食をめぐる動きです。給食費を払わない親が増えていることも問題ですが、お金を払っているのに『いただきます』とはなんだと、学校に文句をいう親がいると聞いてあきれました。『いただきます』とは、お米やその他命あるものをいただくという、感謝の気持ちだと思うのですが…。
 小林 そのようなことをいう人は、その親もおそらく同じような考え方をしていると思います。「食育」は子どもにもですが、親にも必要ではないでしょうか。
 遠藤 今のところ、山下さんが言われたような例はまだ少数かもしれません。しかし、どこかでそのような考え方を断ち切らなければ、社会から他人を思いやるような“やさしさ”が失われるような気がします。
 山下 学校は子どもを教育するところですが、『いただきます』に注文をつける親がいたら、その言葉が表す心のありようを説明して理解してもらうことが大切だと思います。

◆「命をいただいて生きている」意味を教える重要さ

福田都美子さん
福田都美子さん

 ――自然との関わりが薄くなっている生活のなかで、命を育てる「農」が見えにくくなっているようです。周りの人に農業を理解してもらうため、どのようなことで苦労されていますか。

 小林 わが家ではアイガモ農法をおこなっており、最終的にはカモを食べます。アイガモ農法の体験学習をしている小学校の先生が、「カモを食べることは生徒に話せません。命の尊さを教える一方で、命を奪うようなことは教えることはできない」と言う。これは一面的な見方だと思います。私たちはカモなど生きものを食べることによって生きている、生かされているということを、子どもたちに理解させることが、本当に命の大切さを教えることではないでしょうか。
 遠藤 私も同じような経験をしました。小学生が見学に来ていたときでした。牛が出荷されるとき「あの牛はどこに行くの」と聞かれたので、「お肉になるんだよ」と答えたら、泣き出す子どもがいて大変だったのを覚えています。先生までも目に涙を溜めて動揺した様子でした。肉になるという結果だけを捉えて牛に同情するのではなく、それによって私たちが生かされているのだということを、きちんと生徒に教えてほしいと思います。
 小林 生きものは人間が生きるために犠牲になる。このことをきちんと考えることが、生きものに愛情を注ぎ、食べ物を大切に扱い、しっかり食べようという態度を養うのではないでしょうか。
 山下 何年か前の女性協の大会で、ある県の代表が「私たちは命をいただいて生きている」と発言した意味を、もう一度思いだすことが必要です。

◆PTAなどの場でJAの役割をアピール

 ――女性部の活動では、他組織とも連携できる取組みが多くおこなわれています。「食」と「農」については、連携できることであればJAにこだわらず一緒におこなうことも必要ですが、その点に関していかがですか。

 山下 たとえば、PTA活動のなかでJAができることをアピールするのも自分の大切な役割だと考えています。また、「料理教室」などJA女性部が行っている「食」と「農」を結びつける活動についても、組合員だけが対象ではもったいないし、活動も活性化しないのではと思います。
 小林 JAの組織だからといってJAの活動だけでなく、組合員以外の地域の人に向かってJAからのメッセージを発信するような活動も求められていると思います。地域のなかでJAここにありというような、JAだからこそできるような活動が必要です。
 JAでは日本の農業を考える集会を開いたり、「食」の現状がどうなっているかを話し合っていますが、世間ではあまり関心を持たれていないようです。とても大切なことなので、その内容をぜひ外に発信してほしいと思いますが、まだまだ取組みが不十分だと考えています。
 農業の現場では常識だと思われていること、例えば玄米と白米の違いということさえ、きちんと消費者は理解しているのか。JAからの情報量は少ないし、ルートも余りないのが現状ではないでしょうか。(「フレッシュミズ座談会 その2」へ続く)

(2007.1.26)


社団法人 農協協会
 
〒103-0013 東京都中央区日本橋人形町3-1-15 藤野ビル Tel. 03-3639-1121 Fax. 03-3639-1120 info@jacom.or.jp
Copyright ( C ) 2000-2004 Nokyokyokai All Rights Reserved. 当サイト上のすべてのコンテンツの無断転載を禁じます。