農業協同組合新聞 JACOM
   

特集 食と農を結ぶ活力あるJAづくりのために2007


JAの現場から「JAのビジョン」づくりに向けた戦略を考える

「JAのビジョン」づくり―全国20JAの挑戦 その1

JAふらの・JA相馬村・JA新いわて・JA新ふくしま・JA東西しらかわ


 本紙では「現場から『JAのビジョン』づくりに向けた戦略を考える」をテーマに、今年7月から8月にかけて北海道から九州まで全国の20JAを訪ねJAトップ層に担い手育成・支援策、経済事業改革、組合員対応、地域貢献などさまざまな課題への取り組みと今後の事業・運動づくりに向けた方針などを取材した。
 農業、農村とJAを取り巻く環境は農産物価格の下落、高齢化と地域人口の減少などかつてない厳しい状況にあるが、JAはそれぞれの地域特性を活かし新たなJAを築こうと努力し「JAのビジョン」づくりへの着実な取り組みがあった。次号から各JAの特徴など研究者らによるレポートを順次掲載していくが、ここでは編集部でレポートをもとに概要版をとりまとめ全20JAを紹介する。

20JAレポート執筆者
梶井功東京農工大学名誉教授(JA相馬村、JA大潟村、JA新ふくしま、JA富里市)
北出俊昭元明治大学教授(JA新いわて、JA東西しらかわ、JAみっかび、JAあいち知多)
村田武愛媛大学教授(JAえひめ南)
白石正彦東京農業大学教授(JAふらの、JA横浜、JA三浦市)
田代洋一横浜国立大学大学院教授(JAはが野、JAえちご上越、JA三次、JAいずも)
藤島廣二東京農業大学教授(JAちばみどり)
武孝充JA福岡中央会前水田農業対策部長(JA福岡市、JAくるめ、JAさが)
(文末の略字)=(正)正組合員数(准)=准組合員数(販)=販売品取り扱い高(購)=購買品取り扱い高(貯)=貯金残高(貸)=貸出金残高(共)=長期共済保有高。



地域特性を生かした事業・運動の創出へ


多様な生産と加工事業でニーズに即応した産地めざす
JAふらの(北海道)

奥野岩雄組合長
奥野岩雄組合長

 管内は上富良野町、中富良野町、富良野市、南富良野市、占冠村(しむかっぷ)の1市3町1村。実質販売農家は1622戸で作付け面積は2万2700haである。管内の粗生産額は312億円となっている。
 JAは今年度から新中期経営計画(平成19年度〜21年度)に着手した。
 基本方針として(1)担い手づくり・支援を軸に地域農業の振興、(2)ニーズに即応した安全・安心な農産物の提供、(3)機構改革による事業体制のスリム化、(4)変化に即応できる柔軟で強靱な経営体質の構築などを掲げている。
 販売高は総額284億円でそのうち、玉ねぎ76.1億円、にんじん20.2億円、そのほか馬鈴薯、西瓜、メロン、アスパラ、スイートコーンなど青果全体で162.6億円と58.1%を占めている。米、麦類・雑穀など米穀は61億円、畜産が21.1億円などとなっている。
 営農と販売を支える拠点施設として、玉葱、人参、馬鈴薯それぞれの選果場やその他の野菜施設、CA冷蔵貯蔵施設、有機物供給施設のほか、加工施設(ソテーオニオン工場、にんじんジュース工場、調味液工場、氷温漬物工場)も整備した。
 水稲から野菜作へ200haの転換や米の減農薬栽培の全生産者実践、冬季作目の導入、債権管理強化による経営の健全化(クミカン見直し)などの改革にも取り組んでいる。
(正)2556人(准)5820人(販)284億1300万円(購)148億3900万円(貯)759億6900万円(貸)254億2300万円(共)3508億500万円

9割を超すリンゴの共販率 組合員密着の地域づくり
JA相馬村(青森県)

宮川正道組合長
宮川正道組合長

 市町村合併で相馬村という村はなくなったがJA相馬村はJA合併もせず小規模ながら地域に密着した事業を展開している。主力農産物のリンゴは9割がJAに集荷され「飛馬」印ブランドとして全国に出荷される。
 同JAで特異な点は「JA施設を利用する准組合員」120名がいてリンゴをJAに出荷しているが、それは地区外の他JA組合員だということ。リンゴ共販率は最初から高かったわけではなく、1970年代以降の10万箱収容リンゴ冷蔵庫建設、CA貯蔵庫建設など共販施設推進が実を結び90年代に入るころには80%近くまで高めた。そして決定的だったのは91年台風19号被害対策でのJAの対応だ。落果したリンゴを品種別に区分して集荷しJA独自で販売、またジュースにして販売した。マスコミからも大きな注目を集めたがこれが一層結集力を高めた。
 リンゴ販売での強味は収穫2〜3ヶ月前からどういう規格のリンゴが、何時、どれくらいJAに出荷されるかを把握していること。そのため規格別数量別に卸や量販店と予約販売できる。しかも販売の決定権を職員に持たせていることも注目される。
 また、直売所「林檎の森」を開設しているが、直売所出荷で高齢者が元気になり医療費が大幅に減ったことを弘前大の神田教授がレポートしている。
(正)585人(准)359人(販)32億9800万円(購)14億9300万円(貯)83億300万円(貸)31億4000万円(共)470億5600万円(17年度)

「一歩ずつ、真っすぐに」を基本理念に事業改革
JA新いわて(岩手県)

福田 稔専務
福田 稔専務

 管内は盛岡市玉山区を含む2市3町1村からなり、都市近郊、純農村、山間地が混在しているが、JAは地域特性を活かし米、園芸、畜産・酪農の3分野でバランスのとれた販売事業をめざしている。
 管内に南部、西部、東部の3つの営農経済センターを設置し地域課題に応える体制をとる。地域の特徴を活かしながらたとえば米は標高差を活かした品種選択、野菜は収穫時期と用途などで他産地と差別化を重視している。
 「農家の手取額の増加」の観点から大手量販店、生協、牛乳ではメーカーなどとの提携など、マーケティングを重視しているのも特徴だ。安心・安全の確保に向けて生産履歴記帳にも徹底して取り組む。こうした努力の結果、農産物価格が低迷するなかでもJAの農産物販売額は270億円水準を維持。キャベツ、ホウレン草、リンドウの主力3品は単品で10億円を上回る。
 現在、「一歩ずつ、真っすぐに」を基本理念とした「第四次3カ年計画」に取り組んでいるが、「営農経済部門の活性化」、「すべての事業の収支改善と財務の健全化」、「経営の合理化・効率化」などを通じ、「組合員ならびに地域社会への貢献」が強調されている。また、現在24ある支所・出張所を20年度には14に削減する方針になっているが、廃止する支所・出張所の再活用について地域貢献の視点も含めて地域で根気よく協議する方針だ。
(正)1万1492人(准)4780人(以上、18年2月末)(販)279億6200万円(購)92億7100万円(貯)930億万円(貸)270億9200万円(共)6931億20万円(18年度)

役職員全員で目標を確認 直売所活動で地域貢献も
JA新ふくしま(福島県)

吾妻雄二経営管理委員会会長
吾妻雄二経営
管理委員会会長

 94年に福島市内の8JAが合併。今年2月JA川俣飯野と合併して新たなスタートを切った。06年から経営管理委員会制度を導入した。経営管理委員は50名いる。新たなスタートにあたって役職員が事態を正確に認識しこれからの目標をしっかり確認するため「JA新ふくしま農業振興役職員大会」を6月に開催した。
 大会では3年後の販売額100億円を目標とした。
 米は系統出荷重点を改め、4割は自主販売を目指す。直売所での販売、生協、地区米卸への直接販売などだ。学校給食ではすでに100%地元産米を供給している。
 一番高い伸びが期待されているのは花卉で中心は小菊。花卉販売額の74%を占める。花卉センターが中心になっての“栽培募集説明会の定期的な実施”、“小菊・草花・枝物を組み合わせた周年出荷体制の栽培指導”などを推進する。主力の果樹の増産の期待はおうとうとぶどう。生産部会を通じての営農指導を重視している。
 また、直売所の販売増も期待しているが、そこには
中山間部のJA川俣飯野との合併で山菜などが店頭に並び好評だという背景がある。直売所ではポイント制度を導入するが、ポイントの一部を還元してもらい食農や環境保全活動に拠出、消費者の参加意識を高めることも計画している。
(正)1万2059人(准)1万1562人(販)78億2100万円(購)39億1800万円(貯)1692億8300万円(貸)419億円(共)1兆18億5400万円(19年1月末)

農家の利益最大化を最優先 大胆に事業方式を転換
JA東西しらかわ(福島県)

鈴木昭雄組合長
鈴木昭雄組合長

 少子高齢化と農産物価格低迷という厳しい情勢のなか鈴木昭雄組合長は「従来の発想の転換が必要」だとして事業改革に取り組んでいる。
 注目されるのは販売高の42%を占める米を組合員からの買い取り制に転換し合わせて独自販売を強化したこと。事業方式転換の理由は、委託販売制では独自の事業展開ができずそれが競争を不利にし農家のJA利用率を低下させていたからだという。同JAは「高く買取り安く売って販売量を伸ばす」ことを目指し03年産から本格的に実施。品質向上によるブランド化も進めている。06年度では受託販売は750万円とわずかで買い取り販売が15億円とほとんどを占めている。
 「農家の利益最優先」を徹底させるため販売事業では特徴ある栽培方法によるブランド化を重視。米をはじめ主要野菜について栽培方法の徹底、オリジナル肥料の開発と土づくり、有機資源活用にも着目した「みりょく満点ブランド確立運動」を展開している。また、生産資材の引き下げのため一部で入札方式を導入した。
 組合員の経済的メリットとともに、地域の発展に貢献するため地域住民を対象とした文化活動にも積極的。廃止した出張所を活用し、「ふれあい店舗」としてOBを配置し人材の有効活用を図るとともに、組合員、非組合員にかかわらず必要な時は自由に利用できるようにしている。「選ばれるJA」になることを目標に掲げている。
(正)7106人(准)2759人(販)43億2600万円(購)31億400万円(貯)417億4100万円(貸)140億4200万円(共)4335億800万円(18年度)
「JAのビジョン」づくり―全国20JAの挑戦 その2へ

(2007.10.22)

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