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JAグループ 海外農業団体と連携強化  食料安保と家族農業を守れ!

・貿易拡大のみは時代錯誤
・アイルランドの経験生かせ
・ラウンドそのものを変えよう!
・食と農の将来像こそ重要

 WTO(世界貿易機関)交渉は11月30日から3日間の予定で定例の閣僚会合が開かれる。閣僚会合には赤松農林水産大臣も出席し日本の立場を主張する方針だが、今回の閣僚会合そのものは現在のドーハラウンドに関わる交渉は行わないことになっている。
 ただし、9月に開催されたG20金融サミットでも2010年中の妥結が決意されたことから、閣僚会合を機に来年中の合意に向けた動きが強まっていく可能性は高い。
 こうしたなか多様な農業の共存による各国の食料安全保障が確保されるなど公正で公平な貿易ルールが必要だとする主張を広めようと、このほどJAグループは茂木守JA全中会長をはじめとした代表団が訪欧し農業団体と意見交換、家族農業の重要性を訴える声明を共同で発表するなど運動を展開した。

◆貿易拡大のみは時代錯誤

家族農業と食料安保の重要性で一致。茂木JA全中会長の左がCOPAのウォルシュ会長 JAグループの代表団は11月15日から19日にかけてダブリン、ジュネーブを訪れ農業団体首脳らと意見交換した。
 現在のCOPA(EU農業団体連合会)の会長はアイルランド農業者連盟(IFA)のパドレイグ・ウォルシュ会長。
 茂木JA全中会長は会談で、食料安保や地球環境問題、生物多様性の維持などの課題が国際的に検討されているなかで「WTOが貿易拡大のみを目的とした交渉をいつまでも継続するのは時代錯誤。新たな価値に基づき多様な農業の共存を可能とする貿易ルールの策定が必要だ」とウォルシュ会長に強調した。 現在の交渉が食料安保や環境保護など非貿易的関心事項をまったく無視した交渉になっていることや、開発途上国の小規模農業者への配慮がまったくなされていないこと、さらに具体的な問題として重要品目数の極端な制限と懲罰的な取り扱いなどの問題点を挙げ「貿易を拡大すれば世界の人々は豊かになれるという考えは間違い。豊かになれるのは多国籍企業であり農業者ではない。食料は人間の生命に欠かせないという真実に立ち返り農産物貿易ルールを議論すべき」と話した。
 ウォルシュ会長も「食料安全保障はもっとも重要な問題。食料貿易は他の貿易ルールと異なるものにすべきだ」と話し、茂木会長の指摘にはすべて同意するとして共同で声明を発表することを提案、前号で既報のようにJA全中とIFAとで「WTO農業交渉において家族農業者と食料安全保障が守られなければならない」とするプレスリリースを日本時間11月17日に公表した。

(写真)家族農業と食料安保の重要性で一致。茂木JA全中会長の左がCOPAのウォルシュ会長


◆アイルランドの経験生かせ


 アイルランドは家族農業が主体で、IFAも家族農業者を代表した組織だ。牛乳、乳製品の輸出国であり、総輸出額の1割を占め農業が外貨の獲得源になっている。
 しかし、1800年代には英国に穀物や肉を輸出し過ぎて国内が飢饉になったという経験を持つという。こうした経験からもアイルランドは自由化一辺倒ではなく国内農業の重要性を主張している。ウォルシュ会長は会談のなかで「現在のWTOルールのもとでは同じような飢饉が世界で起こりかねない」と強調した。
 ただ、EU加盟国のなかには農業の自由化を進めるべきとの考えの国もある。同会長は「アイルランドの主張がEUの代表的な考えとはいえないが、この状況でCOPA会長に就任したことに意味がある」と話し、「各国の主張に目配りしながらもアイルランドの立場を意識的に主張していきたい」と話したという。
 JA全中の代表団はアイルランド農業省のモラン事務次官とも意見交換したが、同次官は農業の多面的機能、家族農業の維持などで日本と共通しこれまでも歩調を合わせてきたと話し、EU加盟国のなかでも農業と多分野のバランス、農業の主要課題ごとのバランスを強硬に主張している、と政府の立場を説明した。
 そのうえでWTO交渉について、世界的な食料不足や価格高騰をに直面していることを指摘、「現在はドーハランドが立ち上がって以降、もっとも重要な局面にある。こうしたなかで合意を急げば悪い合意となることは間違いない」と強調した。
 茂木会長らは、交渉の結果で直接影響を受けるのは農業者であり農業者の声を聞いて交渉に臨むべきことをアイルランド政府からEU本部に伝えてほしいとも要請した。

 

◆ラウンドそのものを変えよう!


インド協同組合中央会のアミン会長(左から2人め)。右から茂木JA全中会長、佐藤JA全国女性協会長、田代JA全中副会長 G10農業団体との会合では、事態が動き出すと雪崩を打ったように最終合意に向かっていくことも想定されるとして、JAグループはG10各国の農業者は「目標や戦略を共有しながら結束を強化していくことが重要」と強調し、世界の食料・農業のあるべき将来像を提言するような内容にG10の主張を発展させていくことで、議長案が食と農の将来像を誤って捉えていることを明確にする取り組みが求められているなどと話した。
 スイスの農業団体は、「G10の共通の主張を出発点にして世界の農業団体に連携を拡大し、ラウンドそのものを変えていかなくてはならない。新たな枠組みでの貿易ルール構築を求めていくべき」と話した。
 また、ノルウェーの農業団体からは、さまざまな課題を有機的に関連づける作業を検討していき、「新たなマンデート(宣言内容)を検討するよう求めることも課題になるのでは」との指摘もあった。
 韓国の農業団体からも地球温暖化や生物多様性など新たな課題を、各国の農業維持が大事であることの論拠とする運動展開が必要であとの意見が出たという。

(写真)インド協同組合中央会のアミン会長(左から2人め)。右から茂木JA全中会長、佐藤JA全国女性協会長、田代JA全中副会長

 

◆食と農の将来像こそ重要


 そのほか、代表団はジュネーブで開かれたICA総会でインド協同組合中央会のアミン会長とも会談した。
 昨年夏の交渉では途上国の農業を守ると主張し米国と対立したインド。アミン会長は「インドにとって農業分野は重要課題」と改めて強調した。
 そのうえで国内情勢について説明した。インドでは昨夏に米国に強硬に主張したナート大臣から内閣改造で交渉担当大臣が、シャルマ大臣に代わった。シャルマ氏は交渉合意に意欲的と伝えられインドの交渉姿勢が注目されていたが、国内メディアや農業者から猛烈な反対にあって、次第に交渉の問題点を理解するようになり、最近では発言は慎重になったという。アミン会長は「ナート大臣と同じようなスタンスをとるようになっている」と紹介した。農業者による国民的な運動展開が政府の交渉姿勢に影響を与える例といえるだろう。
 今後、交渉がどう動き出すかは予断は許さないが、「世界の食料・農業の将来像」をしっかり見据えて交渉の問題点を伝えていく運動がJAグループに一層求められている。(写真と取材協力:JA全中)

(2009.11.30)