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FOEAS(フォアス)地下水位制御システム

作物ごとに最適な地下水位を実現
水田農業を活性化する技術だと注目

 水田農業における経営安定化には、稲・麦・大豆や野菜を組み合わせた水田輪作の導入が有効だといわれている。しかし、現実には、重粘土地帯や、湧水で湿地化して耕作放棄地が発生している谷地田地帯など、転換が困難な水田も少なくない。
 そうした水田の湿害や干ばつに対応し、作物に最適な地下水位を維持できる地下水位制御システム「FOEAS」が開発されいま注目されている。

◆基盤整備はできたが進まぬ水田輪作


 稲・麦・大豆を核とした水田農業の経営を安定化させるためには、それぞれの作物の品質を高め安定的に収穫できることや規模拡大、農作業時間の短縮や低コスト化などが考えられる。そしてそれを実現するためには、栽培技術の確立や品種改良とともに、ほ場の整備が必要だ。
 ほ場整備は1963年から進められ、標準区画化、農道整備などによって農作業の機械化の促進、用・排水路の分離など農業の近代化のために大きな役割を果たしてきた。
 そして生産調整が進められるなかで、水田輪作を可能とするために排水路を深くし湛水被害を防止したり、透排水性の悪いほ場には暗渠が施行されるなどの方法がとられてきた。
 それにもかかわらず水田が有効に活用されているとはいえない。耕作放棄地の問題もあるが、冬場に何も作付されない水田が全体の90%もあるという。

FOEASの仕組み

(図1)FOEASの仕組み

◆湿害と干ばつ対策が最大の課題

 

 その原因の一つに、麦・大豆は本来、畑作であるため、水田で栽培するときの最大の課題は湿害対策だといえる。しかし、湿害を避けるために地下水位を下げすぎると干ばつが発生する可能性がある。
 大豆の場合、7、8月の開花・子実肥大期には水を供給する必要がある。実際に多収を実現している生産者は畦間灌漑によって品質と収量の安定化をはかっている。しかし、大豆や麦などの転換畑では灌漑用水を利用するという観念がなく、現実にローテーションにともなう畑作ブロックには送水しないという地域も多いという。そこでは干ばつの危険性がある。
 作物によって望ましい地下水位は異なるので、それぞれ作物に適した地下水位に調節することで、高い品質の作物を多く収量することが可能になる。
 従来から実施されてきた暗渠排水施設を利用した地下水制御は、水閘(すいこう、流れを遮断して構築した水門)の開放か閉鎖のどちらか、単純化していえばゼロか100で、それぞれの作物が生育期別に必要とする地下水位を設定することは困難だといえる。

FOEASと一般的な地下灌漑の構造差異・用水浸透状況の比較

(図2)FOEASと一般的な地下灌漑の構造差異・用水浸透状況の比較

◆雨が降れば排水、日照が続けば灌漑


 そこで開発されたのが、暗渠排水機能の強化と地下水位制御、さらに水稲栽培時の水管理も容易に行え、低コストで整備することができる地下水位制御システム「FOEAS」(Farm-Oriented Enhancing Aquatic-System)だ。
 (独)農研機構農村工学研究所と(株)パディ研究所の共同開発で特許を取得している。農水省は、早急に現場に普及を推進する重要な技術として「農業新技術2008」に選定した。またJA全農は、「農研機構が有する研究成果を、JAグループの組織力を活用して農業現場に普及し、実用化を図る連携協力協定」に基づき、以前に紹介した「鉄コーティング水稲直播技術」と同様にFOEASの普及を担っている。
 FOEASの仕組みは図1のようになっているが、優れている点は、
それぞれの作物栽培に最適な地下水位の制御を実現した
ほ場全体に地下水を均一に保持できるようになった(一般的な灌漑では給水パイプの周辺しか水が供給されない)(図2)
埋設した幹線・支線パイプ内の洗浄が可能となった
独自工法で低コスト化を実現した(図3)
ことだといえる。
 そのことで、
田畑輪換が可能となり、水田畑作の連作障害を回避することができる
地耐力をコントロールでき、機械操作が容易になる
播種期や栽培方法などの選択肢が広がる
雨が降れば排水し、日照が続けば地下灌漑を行い、干ばつ湿害を避けることができる(図4)
日常の水管理が容易に行えるので、大幅な省力化に結びつく
ことを実現した。

FOEASと一般暗渠の10a当たりの施工価格

(図3)FOEASと一般暗渠の10a当たりの施工価格

◆増収効果を試験研究機関でも実証


 このシステムは2003年(平成15)に開発されて以来、国や県などの試験研究機関36カ所で試験導入されたが、その増収効果は
水稲(13ほ場)平均1.12倍、最大1.30倍
大豆(22ほ場)平均1.40倍、最大2.28倍
麦(11ほ場)平均1.42倍、最大2.43倍
という実績だった。
 これを見ても、高品位安定多収を実現するためには、品種改良や栽培技術の向上はもちろんだが、その前提として栽培管理が適切にできるほ場をつくることが重要だということが分かる。
 現実のほ場では、先にもふれたが、基盤整備後のメンテナンスが悪く、均平度の低下や漏水、湿害・干ばつ、雑草繁茂などが発生するなど課題をもつほ場が多い。それが、水田輪作の促進を阻んでいる大きな要素だ。
 JA全農では「水位を自在に調節することで、水が豊富な日本の特性を活かすことができる。一部の漏水の激しい地域を除き、水稲・大豆・麦そして野菜で最大の農業生産と省力栽培が実現でき、農家の経営と地域農業の活性化に大きく貢献できる新技術」(大西茂志全農営農総合対策部長)と高く評価し、これの活用に力を入れていく考えだ。
 またJAかとり(千葉県)管内で、湿田のために10年以上耕作放棄地となっていた水田にFOEASを設置し、FOEAS導入効果が最大に発揮される作物・品種の明確化や最適な労働力配分などほ場運営モデルの検証を行っている。
 10月末現在の事業採択面積は38地区2618ha、すでに施行済みは1187haとなっている。
 水田の有効活用による水田農業の活性化は、地域農業の振興にとって重要な意味をもっており、FOEASがそのことに大きく貢献することが期待されている。今後の普及を見守っていきたい。

水位管理器と水位制御器による水位制御の仕組み

(図4)水位管理器と水位制御器による水位制御の仕組み

(2009.11.24)