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カゴメのトマトジュース  真っ赤なトマトで「自然を、おいしく、楽しく。」

・多彩な食品加工品に姿を変える野菜
・日本の食用トマトの歴史は111年
・露地で無支柱栽培される加工用
・国内の「プログラム」を海外でも適用
・国産原料ジュースを増やしたい

 最近はいろいろな意味で「健康」ブームだといえる。そして健康維持のためには、食生活で「栄養バランスの良い食事」を摂ることが大事であり、そのためには野菜とくに緑黄色野菜が不可欠とされている。その緑黄色野菜を手軽に摂取できる「野菜ジュース」が数多く商品化されている。その野菜ジュースの代表的なものが「トマトジュース」だといえる。
 日本で最初に食用トマトを手がけ111年の歴史をもち現在も日本のトップメーカーであるカゴメ(株)に加工用トマトについて取材した。

良い原料を作る「畑が第一の工場」


◆多彩な食品加工品に姿を変える野菜

 

太陽の光をいっぱいに浴び、茎が地を這うように伸びる加工用トマト 健康ブームで野菜とくに緑黄色野菜を摂取することが必要といわれても、毎日毎食生で野菜を摂取することは難しい。それを手軽に摂取できるのが、ジュースなどの加工品だといえる。
 とくに、ガンになるリスクを減らしたり、悪玉コレステロールの酸化を防ぐ効果があるリコピンを多く含むトマトは、飲料用だけではなくトマトケチャップやトマトソース、そしてトマトピューレーやピューレーを濃縮したトマトペースト、丸のまま缶詰や瓶詰めにされたホールトマトなど、これほど多彩な加工品に姿を変える野菜はほかにはあまりないのではないだろうか。
 南米のペルーが原産地というトマトが食べられるようになったのは、欧米では16世紀から17世紀ころだという。それまでは毒草と思われ食用としては見向きもされず、観賞用として栽培されていたという。日本にも17世紀半ばには伝えられていたようだが、ヨーロッパ同様観賞用として珍重され狩野探幽が「唐なすび」として写生したりしている。

(写真)太陽の光をいっぱいに浴び、茎が地を這うように伸びる加工用トマト

 

◆日本の食用トマトの歴史は111年


国産加工用トマトの5割・2万tがこのジュースに そんなトマトを食用として最初に栽培したのが、カゴメ(株)の創始者・蟹江一太郎氏で、いまから111年前の1899年(明治32年)のことだった。その4年後の1903年に国産トマトソース(現在のピューレー)の製造に着手する。これが日本のトマト加工業の始まりだ。
 その後、1908年にトマトケチャップとウスターソースの製造を開始。さらに1933年(昭和8年)にトマトジュースが開発され発売される。
 今年で喜寿(77歳)を迎えたカゴメのトマトジュースの代表が、写真の缶入「カゴメトマトジュース(国産)」だ。
 このジュースの原料となるトマトはすべて国産で、ジュースに加工する那須工場に利便性のよい、栃木・福島・茨城・新潟・長野・秋田・山形県の866戸の農家で、各地のJAを通して契約栽培されている。
 現在、国内で生産されている加工用トマトは約4万tで、その5割・2万t前後がカゴメのジュース用トマトだという。


(写真)国産加工用トマトの5割・2万tがこのジュースに

 

◆露地で無支柱栽培される加工用

 

 カゴメの契約農家が栽培するジュース専用トマト「凛々子」(りりこ)は、同社の総合研究所が所有する約7500種のトマトの種(世界ではおよそ1万種のトマトがあるという)を交配して、飲料用に適した味と病害への耐性をもったものに品種改良を重ねてきたもので、生産者はカゴメから種子または苗を供給され栽培する。
カゴメのジュース専用トマト「凛々子」 加工用トマトは生食用のように支柱を立てて栽培しない。右の写真のように、露地栽培でしかも茎が地を這うように伸びるため、支柱なしで栽培できる。
 収穫できるのも7月中旬から9月中旬の炎天下の夏で、太陽の光をいっぱいに浴びて完熟したものを収穫する。トマトの栄養成分は完熟時にピークに達するので、完熟前に収穫する生食用トマトより、リコピンもB―カロテンやビタミンCも数倍多く含まれている。
 もう一つ生食用と異なるのは、生食用は新鮮さをアピールするために“へた”をつけて収穫し出荷するが、加工用では“へた”は不要なので、収穫するときに果実だけがもぎ取れる品種になっていることだ。

 

◆国内の「プログラム」を海外でも適用


 カゴメでは、「畑は第一の工場」と考えており、種子の段階から定植・栽培・収穫まで、農薬の適正使用を含めて、品質や安全性を確認するプログラムがあり、カゴメの担当者は、定植時期などポイントとなる時期にすべての畑に行き確認作業を行っている。
 また、カゴメには長年にわたってトマトの生産に携わってきたノウハウが蓄積されているので、担当者が直接農家を指導したり、病虫害対策のアドバイスをするなど、高品質なトマトをできるだけ多く収穫できるようなフォローアップも行っている。
 収量が増えても契約価格で全量を買い取られるので、生産者にとっても嬉しい話だといえる。
 缶入の国産トマトジュース以外にも、他の野菜と組み合わせてトマトを使用したジュースは「野菜生活」など多くのアイテムがあるが、それらに使われるトマトの産地は世界各国にまたがっている。同じ種子で栽培しても気候や土壌などが異なるので、国よって「味も収量も違う」と同社の生産調達本部副本部長の佐藤邦彦執行役員はいう。
 そのトマトの味とニンジンなどの野菜を組み合わせて「毎日飲んでも飽きのこない美味しい味」をつくっているという。
 海外で生産されるトマトも、国内の基準に準拠した品質・栽培管理のプログラムに基づいているという。それは「日本国内で実行しているノウハウがあるからできるんです」と長年国内のトマト生産で培ってきたものがあるからだと佐藤副本部長はいう。

(写真)カゴメのジュース専用トマト「凛々子」

 


◆国産原料ジュースを増やしたい

 

 カゴメでは、国産原料100%の「カゴメトマトジュース」を増やしていきたいと考えている。一方では生産者の高齢化も進み、収穫した20kg近いトマトを入れた籠などを運ぶのが大変なので、機械化することも研究して、生産者を支援しようとしている。
 その一方で、佐藤副本部長は、前に見たように長年培ってきたノウハウで栽培指導をするし、契約栽培で収入も確保できるので、若い人にも参加してもらい真っ赤なトマトを作って「自然を、おいしく、楽しく。」をともに実践して欲しいと希望している。

(2010.08.18)