コラム

「正義派の農政論」

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【森島 賢】
減反政策の歴史的展望を示せ

 収穫の秋を迎えている。今年は低温や日照不足が心配されたが、その後の回復で作柄はやや不作という程度になりそうだ。
 不作だが、農業者の顔は新政府に対する大きな期待と、少しの不安で複雑に見える。新政府は、いまの行き詰まった農政を抜本的に変えてくれるのではないか。

 新政府は順調に滑り出し、内閣支持率は久しぶりに7割を超えた。各大臣はそれぞれ得意の分野で、野党時代に温めていた政策を実現しようとし、休日を返上して張りきっている。そうした様子が熱気をもって伝わってくる。連日報じられているダムの建設中止などは、まさに日本の治水政策の歴史的転換である。
 政権が代わるのだから、多少の摩擦が生まれるのは止むを得ない。充分な移行対策を講じながらも、断固として実行しなければ、政権を交代させた国民の期待を裏切ることになる。

 赤松新農水大臣も早々と所得補償政策の来年の試行に向けて検討を始めるようだ。また貿易交渉では、農業・農村の振興を損なうことはしないと言明し、農業者の不安を払拭しようとしている。
 新政府になって、農政も新しくなるのだが、しかしまだその輪郭しか見えてこない。多くの部分は、いままでの自民党農政とあまり変わらないように見えるが、そうだろうか。
 新農政の目玉は、何といっても所得補償制度の創設である。いままでとの大きな違いは、補償基準額を生産費にすることである。いままでは市場価格を基準にしていたので、市場価格が下がれば、それにつれて基準価格もずるずると下がった。
 こんどは市場価格に関わりなく生産費を基準価格にする。岩盤ができる。この点は大いに評価できる。しかし、まだ詰め切っていない問題点がいくつもある。今後注目していきたい。

 最大の注目点は補償対象農家の範囲である。当初は全ての農家といってきたが、そうではなく国が設定した生産目標に従って生産する販売農業者になるようだ。つまり、減反農家と非減反農家に分けて、減反農家だけを対象にしようというのだ。
 このまえ農水省が行った意向調査によれば、大規模農家は減反政策の維持や強化を望んでいるが、しかし、小規模農家は望んでいない。実際に減反非参加者の88%は1ha未満の小規模農家とみられている。こうした中で減反農家だけを対象にした所得補償政策が農村社会に受け入れられるだろうか。それでは当初、全ての農家を補償の対象にする、という志から大きく外れることになるのではないか。
 このように、新しい所得補償制度を減反と関係づければ、減反を続けるかぎり、減反派と非減反派の分断は解消しないだろう。

 赤松農政が農政の歴史的転換をはかると考えているのなら、その中心的課題である減反政策の歴史的な展望を大胆に示すべきだろう。いったい、いつまで減反を続けるつもりか。歴史的展望の片鱗を、来年度の予算編成の中で見せてほしいものだ。
 それは、減反政策から米粉米や飼料米の需要拡大に対する強力かつ集中的な政治的支援への転換だろう。そうすれば、40年の長きに亘る減反政策に終止符を打つ歴史的な転換になるに違いない。減反政策から増産政策への大転換だ。食料自給率はめざましく上がる。農村は再び和気あいあいとして活気を取り戻すだろう。
 来年は新しい農政を試行するという。農家は刈り入れが終われば、急いで来年の営農計画を立てることになる。政府は早急に試行計画を作って、農家に示さねばならない。


(前回 赤松農政の課題

(2009.09.28)