コラム

「正義派の農政論」

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【森島 賢】
食糧自給率を50%にする農業構造

 先週の末、政府は食料・農業・農村基本計画の素案を発表した。その中で、10年後の食糧自給率を50%にするとし、そのために、いまの農業構造を180度転換して、兼業農家や高齢農家などの小規模農家で組織する集落営農を柱に据えた構造に改革する、という展望を示した。
 10年後の集落営農の数を、現在の1万3000から2万3000に増やし、その耕地面積を、現在の49万haから83万haに増やして、全国の農地の2割を集落営農で耕作するという。まことに意欲的な展望で、おおいに期待したい。

 これまで、集落営農は非効率だ、といわれてきた。悪しき社会主義だとか、中国で失敗した人民公社をまねたものだとか、いわれなき批判にさらされてきた。そして、その底流にある協同の精神が冷ややかにみられてきた。
 この素案は、全ての農家を農政の対象にする、という協同の精神に基づく、新しい農政を具体化した将来像といえよう。

 新しい農政は構造政策がないとか、構造政策に逆行するものだとか、ばらまきだ、などと、さまざまに批判されてきた。政府の素案は、こうした批判に力強く答えて、構造展望を示したものだろう。それは、これまでのように、大規模個人経営が太宗を占める構造ではなく、集落営農を今後の構造の柱に据える、というものである。
 新しい農政には、構造政策がないのではなく、これまでの古い構造政策を捨てて、清新な構造政策を打ち立てたのである。逆行というが、古い構造政策を180度転換したので、古い目でみると逆行にみえるのだろう。まさに、この逆行こそが、新しい農政の本領であり、多くの国民の支持を得て政権を交替させたのである。

 また、ばらまきといわれるが、そうではなく、農政の目的を代えたのである。これまでの古い農政は、国際競争力の強化が最重要な目的だった。古い構造政策は、この目的に沿うものだった。この目的に耐えられると想定した大規模個人農家だけを選別して、農政が支援する対象にしてきた。
 その結果、農家は選別された農家と、選別されなかった農家とに分断され、農村社会に陰湿な混乱をもたらして、農村の支持を失った。
 それだけではない。日本農業を縮小させ、食糧自給率を低下させ、食糧安保を危うくして、国民の支持を失った。

 これに対して、新しい農政は自給率の向上を最重要な目的に掲げ、この目的の達成に貢献する農家、つまり、食糧を生産する全ての農家、したがて、兼業農家や高齢農家などの小規模農家を含む全ての農家、を支援の対象にしたのである。そうして、大多数の農業者だけでなく、多くの国民の支持を得た。
この目的に添って、目的の達成に貢献する度合いにしたがって支援するのだから、決してばらまきではない。また、こんどの構造展望も、この目的にしたがって作られたのだろう。

 なぜ集落営農なのか。それは新しい農政は、非効率な小規模農家を温存する、という批判に答えたものだろう。小規模農家が、個々に農業機械を持って農業を行うとき、その不効率は批判されるまでもなく明らかである。この点を克服するために組織されたのが集落営農なのである。
 集落営農を組織すれば、それを構成する兼業農家や、高齢農家などの小規模農家も効率的になる。だから、余暇のある兼業者や、働きたいという高齢者が、農政の最重要目的である食糧安保に貢献することを排除する理由は、どこにもない。
 こんど政府が示した構造展望が、こうした的外れな批判にたじろぐことなく、集落営農への手厚い支援策で裏づけられることを期待したい。


(前回 米の棚上げ備蓄を具体化せよ

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(2010.03.23)