コラム

「正義派の農政論」

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【森島 賢】
TPPと原発再開の安全性を無視した「経済優先」

 野田佳彦首相(衆、千葉4)はTPP交渉参加の表明を、当面のあいだ見送るようだ。
 当初、今日と明日に開かれるG20の会議で表明することが危惧されていたが、それはなくなったようだ。だからといって、首相はTPP加盟をあきらめたわけではない。アメリカの国内事情によるところも大きく、先延ばしにしただけで、最終的に断念したわけではない。
 TPPに加盟すれば、農業壊滅による食糧安全保障や、食品の安全性や、さらに医療崩壊による生命の安全が危機にさらされる。
 一方、福井県にある関西電力の大飯原発の再開が決まった。生活と産業の安定のためだという。生活の安定とは、地元の原発関連の雇用の復活を意味するし、産業の安定とは、関西地域にある産業への電力供給の安定だという。電力料金の高騰を避ける意味もあるという。つまり、経済優先の考えに貫かれている。
 ここには、民主党が当初となえていた脱原発の考えはない。原発は地元の経済を含めて、経済の全体に深く組み込まれているが、この危険な事態から脱出しよう、という考えはない。
 原発から出る放射能を持った廃棄物の最終処理の技術が、世界中のどの国でも開発されていない中で、政府は原発の安全性を唱え、国民を放射能の危険に曝している。そうして、国民の中から盛り上がっている脱原発のための節電や、新エネルギー普及の熱気に冷や水をかけている。その結果、クリーンな新エネルギー産業の展開による、経済再生への道を閉ざしてしまった。
 TPPも原発再開も、安全性を軽視した「経済優先」の考えである。経済優先になるかどうかも、実は怪しい。

 TPPに加盟しないと、アジアの経済発展の成果を取り入れることができなくなって、日本はアジアの経済発展から取り残されるという。企業がアジアに逃げ出して、雇用がますます余ってしまうし、賃金も下がってしまう。だからTPPに加盟しようという。
 だが、中国やインドなど、アジアの主要な国には、TPPに加盟しようという考えはない。むしろアセアンを強化しようとしている。そのためにはTPPは邪魔とさえ考えている。
 こうした状況のなかで、日本がTPPに参加すれば、アジアの孤児になって、企業がアジアに進出することは、むしろ困難になるだろう。

 百歩ゆずって、企業がアジアに進出できると仮定しよう。企業がアジアで儲ければ、そのカネを日本国内に投資するから、雇用も増えるという。だから賃金も上がるという。
 だが、いままでの実績をみると、企業は儲けても国内に投資もしないし、雇用も増やさなかった。それどころか、雇用を不安定にし、減らし、賃金を下げてきた。
 このことを、多くの国民は身にしみて実感している。だからTPP加盟に反対している。

 その上、TPPは日本の安全を脅かす。ゼロ関税で日本農業の存続を危ぶませて、食糧安保を危機に陥れる。食品の安全基準をアメリカ基準に変えて、食品の安全を脅かす。さらに、医療を営利の手段にして、生命の安全をないがしろにする。
 つまり、出来もしない経済優先の考えのもとで、安全を犠牲にしようとするのがTPPである。この点で、TPPも原発再開も共通した危険な考えに基づいている。

 もう1つの共通点は、ともに経団連が唯一の、しかし強力な圧力団体になっている点である。原発は、とうとうその圧力に屈した。しかし、TPPはそうなってはならない。
 政府は、政権交代のときの初心にもどって、「国民の生活が第一」の旗を誠意をもって掲げ続けねばならない。経団連に主権はない。主権は国民にある。

 

(前回 TPP問題で経団連に忠誠を誓った首相

(前々回 「カザン宣言」批判

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(2012.06.18)