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農業と他産業との「新結合」で成長をめざす  6次産業化促進に向け産業連携ネットワークも発足

 農林水産業と農産漁村の6次産業化を促進するため幅広い分野と知識を結集しようと12月1日、農林水産省が事務局となって民間団体で構成する「産業連携ネットワーク」の設立総会が東京都内で開かれた。農業団体のほか、食品製造・流通業、金融、観光、化学、建設業などの企業など約430団体・企業が参加した。農業や食料産業を核にバイオマスなど地域資源をも活用した新ビジネスを生み出し農山漁村から日本を元気にしていくための活動を始める。
 ここではこの産業連携ネットワークをはじめ、6次産業化の促進がどう進められようとしているのかを改めて整理してみた。

◆地域資源の活用で成長産業を創出

「6次産業化」で所得向上を 民主党農政が柱のひとつとしてきたのが、戸別所得補償制度の創設とともに農山漁村の6次産業化である。
 6次産業化という考え方自体は15年以上前に今村奈良臣東大名誉教授が提唱したもので、いわゆる「1次×2次×3次」=6次という発想であり、農業者も自ら生産した農産物を加工・販売して価値を高め所得向上と地域活性化につなげていこうというものだ。本紙でも「シリーズ・JAは地域の生命線」などで現場の6次化の具体的な取り組みをレポートしてきている。
 この「かけ算」の発想は、農業など1次産業がゼロになってしまっては答えはゼロになってしまうというのが要。農業があってこその6次産業化である、ということが強調されてきた。
 民主党政権はこの考えに基づき政権交代後、国会に法案を提出し成立、今年3月から「6次産業化法」(地域資源を活用した農林漁業者等による新事業の創出等及び地域の農林水産物の利用促進に関する法律)が施行されている。


◆農相による計画認定

 同法にもとづき今年度から国による支援措置が動き始めている。 6次産業化をめざす農林漁業者の事業計画を農林水産大臣が認定する総合化事業計画もそのひとつで、今年度は約400の農林漁業者や計画促進に協力する民間事業者が認定を受けている。
 23年度は計画づくりから認定を受けるまでをサポートする6次産業化プランナーを各地に設置した。各県に4〜5名、合計300名を任命している。中小企業診断士や経営コンサルタント、デザイナーなどで、認定を受けた農林漁業者は販路開拓やブランド化などのさまざまな課題解決について、このプランナーによる支援が受けられる。


◆計画認定のメリット

 総合化計画の認定を受けると、そのほか資金援助のメリットもある。
 農林漁業者への無利子融資資金の償還期限の延長(10年→12年)、据置期間の延長(3年→5年)や促進事業者への無利子融資資金の貸付のほか、▽産地リレーによる契約取引の交付金対象産地の拡大、▽直売所などを建築する際の農地転用手続きの簡素化、▽食品の加工・販売に関する資金を債務保証の対象に追加などの支援がある。また、6次産業化をにらんだ新品種の開発など研究開発への支援策もある。
 認定事業の例としては▽米沢牛の未利用内蔵を使った肉まん、肉団子などの開発・販売、▽規格外の鶏卵と鶏肉を加工したマヨネーズや味付け肉などの新商品開発、▽九条ネギを使った食用オイルやプチカットネギの商品化などがある。全体の傾向をみると、6次化に取り組もうとする対象農産物は野菜34%、果樹23%、米13%、畜産物12%など。具体的な事業内容は「加工・直売」45.1%、「加工」43.0%と、今のところこの2つの取り組みがほとんどを占める。


◆ファンド創設で経営支援

 農林水産省によると「6次産業」の規模は現在、1兆円。それを5年間で3兆円に拡大する目標を掲げている。 そのために24年度予算で要求しているのが農林漁業成長産業化ファンドの創設だ。
 6次産業化には加工・販売施設整備などの資金需要が大きくなるとともに、対外的な信用力の確保も必要になる。
 しかし、農林漁業者の自己資本比率は9.8%で全産業34.5%にくらべて大幅に低い。逆に借入金依存度は全産業では36.6%だが、農林漁業者は62.3%に達する(農水省資料)。
 そこで農水省は官民共同でファンドを設立し、6次産業化に取り組む農業者などの起業に出資して経営支援を行うというのがこの構想だ。24年度予算では国が200億円を拠出する予算を要求しており、これに食品企業や商社などから20億円程度の拠出を依頼してファンドを創設する。
 このファンドから全国20の地域ファンドに出資し、地域ファンドが6次産業化に取り組む農林漁業者に資本を提供するという支援が考えられている。農水省は地域ファンドには地方自治体や地元企業に加え、JAからの出資も想定している。
 地域ファンドの出資を受けて設立する企業体は、農林漁業者が主たる経営者となりパートナー企業とともにつくる合弁会社のイメージだ。
 出資比率は農林漁業者が50%以上とする方針で24年度予算の成立後にこのファンド事業に関する法律も制定する予定にしている。JAがここに出資して地域の6次産業化を担う企業体をパートナー企業とともにファンドを活用して設立することも当然考えられる。
 農水省は補助金による支援と異なり出資金であれば現場が柔軟に資金を活用できることに着目した。同時に販路開拓や経営診断など6次産業化プランナーによる経営支援(ハンズオン支援)も行い収益を上げて出資者に配当されることもめざす。


◆7割が所得向上を実感

 1日に設立総会を開いた産業連携ネットワークは農林漁業を核に、まずはさまざまな企業・団体が人的なつながりをつくることも目的。今後は参加団体等にアンケート調査でどんな6次産業化をめざすのかニーズを拾い上げ具体化のための部会を設置する。
 農水省で6次産業化推進を担当しているのは、9月の組織再編で発足した食料産業局。針原局長は農林漁業と他産業との「新結合」によって10兆円の第1次産業も伸ばし、さらに関連事業も含めれば100兆円規模になるこの産業を飛躍させ「日本全体を元気にすることが6次産業化」だと強調している。
 日本政策金融公庫農林水産事業が実施した6次産業化に取り組む農業法人など165経営を対象に実施した調査結果によると、メリットとして74.5%が「所得向上」をあげ、ついで「生産の拡大」50.3%、「企業的経営の確立」34.5%、「社員のやりがい向上」28.5%などとなっている(2日公表)。
 6次産業化の形態は加工(80.6%)と直接販売(68.5%)と圧倒的に多く、販売面では価格決定の主導権を握ることが可能になった結果、利益率が上昇したとの回答が目立ったという。
 この調査で回答した経営体によると6次産業化に取り組んだ年数は平均13.5年。黒字化までには平均4.1年かかったという結果だ。軌道に乗せるには「粘り強い取り組みが必要」との回答が多かったという。政策にも柔軟で粘り強い支援策が求められる。

「6次産業化」で所得向上を
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