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生産者と消費者の分断、避けよ 福島の農業再生

 24年産米の作付け制限の判断が焦点となっているなか、福島の復興・再生を考えるシンポジウムが1月28日に一橋大学で開かれ、長期間にわたる放射性物質の検査・管理と消費者への情報発信の必要性などが強調された。

福島の復興・再生を考えるシンポジウム 農林中央金庫の寄付講座として同大学が開設している自然資源経済論の一環としての市民公開シンポとして開かれた。昨年秋に福島県の行政や大学、農業関係者が行ったチェルノブイリ福島調査団に参加したメンバーが現状と課題などを報告した。
 団長の清水修二福島大学副学長は県外へ15万人が避難しているが、県民人口200万のうち3%に過ぎず、「福島では97%が県内にとどまって放射能と闘っていることを知ってほしい」と最初に強調した。
 そのうえでチェルノブイリ調査をふまえ、「大事故が起きるにはそうなる社会環境がある」として日本でなぜ大事故が起きたかなど、自治体が原発を誘致してきた責任も含めて論ずるべきと指摘した。 JA新ふくしまの菅野孝志専務は復興に向けて「不耕作は何の問題処理にも貢献しない。農家の意欲を萎えさせる」と指摘し、県内の水田で作付けし、土壌汚染の実態を詳細なマップづくりで把握し対策を考えることや、非食用米としてバイオエタノール利用を図ることなどを通じた雇用創出策も復興の一環として検討するべきなどと提起した。
 ただ、放射性物質の規制値について「消費者がゼロでなければダメというのであれば調査は徒労に終わる。原因は間違いなく原発事故なのに、いつの間にか生産者と消費者が背中合わせになってしまうようなことは絶対に避けなければならない」と強調した。
 他の出席者からも県内の産地同士、若い世代と高齢世代での被害や将来見通しなどの食い違いなど「人間関係の分断に苦しめられている」(清水氏)といった報告が出て、生命や健康のリスクにとどまらず、コミュニティそのものの破壊、「ふるさと喪失の危機」(寺西俊一・一橋大教授)など被害深刻さが指摘された。
 舩橋晴俊・法政大教授は、水俣病問題との類似を挙げ、地域内の不和など、こうした被害は「社会的関係を通して増幅する」と指摘、水俣病被害が50年経っても国がしっかりした被害調査を行っていないように「加害者は被害を隠そうとする」。
 しかし、同時に「被害者も隠そうとする」として、福島の原発問題では「最初に損害補償の体系をしっかり構築したうえで、実態を調査していく必要がある」と提起した。

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