農政・農協ニュース

農政・農協ニュース

一覧に戻る

次世代につなぐ地域づくりを考える 第7回現地研究会inJAいわて花巻

 農業協同組合研究会(会長:梶井功東京農工大学名誉教授)は8月31日〜9月1日、第7回現地研究会を岩手県のJAいわて花巻管内で開いた。
 テーマは「次世代につなぐ協同の絆 支店を中核とした地域振興戦略〜協同の精神による地域づくり〜」。これまでJAの基礎組織でもある農家組合の再編を軸に集落営農の振興を図ってきたJAいわて花巻の高橋専太郎組合長と藤館政義常務が報告したほか、地域でのビジョンづくりの実践について笹間地区再生協議会の大和章利事務局長が報告し、10月に開かれる第26回JA全国大会議案と共通した今回のテーマについて考えを深めた。
 また、生産組合から法人化した農事組合法人「遊新」を訪問したほか、1日目には東日本大震災で甚大な津波被害を受けた同JA管内の釜石市、大槌町を視察した。

第7回現地研究会「次世代につなぐ協同の絆 支店を中核とした地域振興戦略〜協同の精神による地域づくり〜」 第26回JA全国大会議案には「支店を拠点」とした活動の展開が強調されている。JAいわて花巻は以前から地域農業の振興を図るうえで「農家組合」を重視し、支店を中心に農家組合の再編と、そこでの「集落営農ビジョン」の策定に取り組んできた。研究会ではこの先進的な取り組みを中心に高橋専太郎組合長と藤館政義常務がそれぞれ報告した。

◆農家組合こそJA組織の基盤

高橋専太郎組合長 JAいわて花巻は組合員所得の向上を目的に1993年に農家組合の再編をスタートした。1農家組合あたり20〜30戸の少数単位では将来の営農ビジョンを描きにくいことや、JAがすすめる集落組織活動の展開は難しいとして、合併前の花巻市農協当時、133あった農家組合を77に再編。その後集落営農の振興を目的にすべての農家組合で現在の「集落営農ビジョン」の原型となる「集落営農振興計画」の策定をすすめてきた。
藤館政義常務 農家組合について高橋組合長は「組合員の営農・生活の自主的な組織活動と位置づけている」として、農家組合長をJAの集落委員(集落リーダー)としても委嘱し、「集落の自主的組織活動としてだけでなく、JAの事業、組織、経営のもっとも強い基盤であることを認識してもらっている」。
 こういった関係づくりによってすべての集落リーダーとJAとの間に絆が生まれ、東日本大震災後、JAが行った「白米一升運動」でも集落リーダーが白米の収集に大きな力を発揮したという。
 また、農家組合には後継者育成や作目生産などを行う「営農部」と健康福祉活動や地産地消活動などを女性部とともに行っている「生活部」があり、それぞれの部長を中心に活動展開することで「JAの活動と一体化した組織になっている」(藤館常務)として、地域の農業振興だけでなくJAの組織基盤強化にも重要な存在となっていると強調した。

(写真)上:高橋組合長、下:藤館常務

 

◆職員全員が集落の担当者

 農家組合を主体に策定・実践している「集落営農ビジョン」は支店の強力な支援体制のもとすすめられている。同JAでは全職員を各集落の担当として配置。「もちろん新人職員でも先輩職員に付いて1集落の担当として支援しています」(藤館常務)。
 また、平成18年からはJAのOBなど地域に精通した人を「集落営農アドバイザー」として、各集落の相談・支援を担っている。現在管内には13人のアドバイザーがおり、さらに担い手のニーズをくみあげる「TAC」の役割をも兼ね備えているといい、組合員にとって身近な存在となっている。
 平成20年の再合併によって現在、管内には576の農家組合がある。広域合併以前から管内である花巻地域の再編はほぼ終わったが、今後は広域合併した北上、西和賀地域での農家組合の再編を課題とする。
 同JAは農家組合の再編と集落営農ビジョンの策定に取り組む一方、ファーマーズマーケット「母ちゃんハウスだぁすこ」の出荷者数が約350人と1997年の開設当時から増えていないという課題も。高橋組合長は「農家組合の半数が65歳以上という高齢化の中で、地域農業の確立が重要になる」として、支店長が中心となって集落の再編とビジョンの策定をすすめていくことが今後さらに重要性を増すと強調した。

JAいわて花巻のエリア

【現場の報告】


JAいわて花巻笹間支店を中核とした地域のビジョンづくり
笹間地区再生協議会事務局長(JAいわて花巻営農担当理事)・大和章利氏

大和章利氏 笹間地区再生協議会は、平成22年産米の概算金の大幅な下落を機に、「水田農業再生ビジョン」の作成を目的に発足した。
 そこでまず打ち出した構想は「水田面積30haで担い手2名が生活できる経営体の育成」。年間所得を1200万円とし、その半分の600万円を担い手2名の給与として毎月支払い、地権者には10aあたり2万円の地代や草刈り代を支払うというこの構想は、構成員8戸、水田面積32.2haで当期利益約1300万円という大和氏が組合長を務める鳥喰生産協業の平成23年の経営実績をモデルにした。
 「将来、各農家で後継者を確保することは難しく、専業の担い手を雇うスタイルでなければ永続性ある農業は成り立たない」との考えから、月別の労働時間の差に関係なく月給制とするのがビジョンのポイントだが、会場とのやりとりで大和氏は「農業の担い手としてだけでなく、農閑期は宅地内の除雪や高齢者の買い物代行といった“生活の担い手”にもなってもらいたい」と話し、地域農業の振興だけでなく、地域の暮らしに貢献する役割としての期待も見据えているという。
 笹間地区は平成17年からの5年間で、増えている農業従事者が50代後半から60代前半のみであることから、「この5年間が地域農業の生産性を向上する最後のチャンス」と大和氏は話す。現在、集落営農組織は8組織で、水田面積1500haに占める集積率は55.9%。これを5年後は80%にすることを目標としている。
 また、3年間で地域の大半を経営規模30ha以上の担い手にするため、認定農業者74人には一戸あたり8.5haの平均面積を2戸で30ha以上に規模拡大することや、集落営農組織は法人化に向けた取り組みや園芸の導入などによる経営強化をめざしている。
 こういったビジョンづくりや各経営体の調整、研修や農地の利用集積などはJA支店が中心となって支援している。
 また、集落営農を行ううえで課題となる経理だが、同JAでは記帳代行業務を行い、さらに年間経費6万円のうち5万円を助成している。そのため実質負担は1万円。鳥喰生産協業も平成19年から導入し「非常にありがたい」と評価、こういった制度も集落営農組織の支援になっていることを紹介した。

【現場視察】


農事組合法人 遊新

農事組合法人 遊新 「遊新」の名前は遊子地区と新屋地区、この2集落からとった。前身はその集落の転作の実践組織だった西第一農業生産組合。平成15年の集落水田農業ビジョン策定を機に法人化への移行を検討し、平成17年に設立した。
 出資している組合員は68人。なかには非農家や地区外の人もいる。
 集落内の農地面積118haのうち経営規模は90haで集積率は76.8%。うち転作率は水稲、小麦、飼料米を中心に54.8%となっている。
 作業を行っているのは6人のオペレーター。農繁期には組合員が軽作業に出てくることもあり、その際は時給800円を支払っている。
 また、7人いる役員のなかから、▽経理、▽小麦・大豆、▽野菜、▽水稲の作業別に担当理事1人を配置した体制を取っている。
 これまで収益性の高い作物を模索しながら大豆や加工トマトなどに取り組んできたほか、苗作りにかなりの人件費がかかる水稲には直播栽培や鉄コーティングを取り入れコスト削減を図ってきた。しかし収量にばらつきが出てしまうとして、「今後はほぼ機械化されている麦を主力にしていきたい」と高橋新悦組合長(写真)は話す。
 また集落内にある一戸一法人との農地の利用調整やブロックローテーションも今後の課題としている。

【被災地視察】

現場の声「復興は進んでいない」

まだ多くの瓦礫の山が残っている沿岸地域 JAいわて花巻管内は秋田県境から三陸沖まで県内を横断しており、東日本大震災の津波でとくに沿岸部の釜石市や大槌町に甚大な被害があった。沿岸部の3支店と営農センター1カ所が浸水。組合員19名、職員7名が犠牲となった。
 浸水した3支店のうち、現在2支店は復旧したが、1階部分がすべて浸水した釜石支店は現在も津波に飲まれた後のままで、いまだ手がつけられていない状態だった。
 同JA遠野統括部の川野政光部長が被災地に向かうバスの中で「復興は進んでいないのが現実」と語ったとおりの現状が沿岸地域に広がっていた。3月に取材で行った現場を今回再び訪れることになったが、半年たっても悲惨な状況は変わらず、瓦礫の山もいっこうに減っていなかった。ただ雑草が青々と一帯に生い茂り、悲惨さを覆い隠してしまっているかのようだった。
 残された建物の時計の針は大津波が押し寄せた「15時20分」近くを指していた。時計と同じく辺りの復興も止まったままだ。
 建築業者の不足も復興が進まない原因だという。震災以降、町の人口は減少しているというが、こういった現状のなかでも「JAとしてこれからも地域の復興に全力を尽くしていきます」と語った川野部長が言葉が印象的だった。

釜石市と大槌町の被災状況

(写真)まだ多くの瓦礫の山が残っている沿岸地域

 


(関連記事)
第3回 10年後の地域農業と暮らしをどう描くか?  地域営農ビジョン実践交流研究会より (2012.08.16)

地域」を基点につながり深めよう 今こそ教育文化活動の展開を  家の光文化賞JAトップフォーラム (2012.08.14)

【特集 立ち上がる被災地「JAらしさ」で支える】現地ルポ・JAいわて花巻(岩手県) (2012.03.27)

(2012.09.05)