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あんしんして暮らせる里づくりを拡げよう  JAあづみ"あんしん"の輪の集い

 「住みなれた土地で誰もが安心して暮らし続けるために」という願いを叶えようとスタートしたJAあづみ(長野県)の会員制有償在宅福祉サービス「くらしの助け合いネットワーク"あんしん"」("あんしん")は9月28日、安曇野市のスイス村サンモリッツで「大きく拡げよう"あんしん"の輪の集い」を開いた。
 地域に活動を広げていこうと今回で6回目となる集会には700人以上の地域住民が集まった。

◆梅漬けづくりの手助けも

千國茂組合長 公的保険制度の開始にそなえて介護保険では足りないサービスを提供してきた“あんしん”の活動は今年で14年目を迎えた。高齢者の介護・介助サービスだけでなく、草とりや窓ふき、産前・産後の家事支援や「高齢になったので庭にある梅の木の実を取って梅漬けにしてほしい」という声にも応えるなど、利用者のニーズに対応した幅広いサービスの提供で「あんしんしてくらせる里づくり」をめざしてきた。
 千國茂組合長(写真右)は「現場で活動している協同活動を広く発信していくことが大事で、これこそ国際協同組合年(IYC)を考えることではないか。今回の総意を通じて自らの活動を自信から確信に変え、協同活動の大切さを世界に向けて発信していきましょう」とあいさつした。
 JAグループは第26回JA全国大会議案の柱のひとつとなっている「地域くらし戦略」のなかで「住み慣れた地域での『助けあい』を軸とした地域セーフティネットの構築」を掲げている。また、国も住み慣れた地域で在宅での暮らしが継続できるようにと「地域包括ケアシステム」の実現をめざしており、人々の暮らしを地域単位で考えていくことが高齢化が進む日本にとって重要な課題となっている。まさに“あんしん”はその先進的な取り組みだ。

◆学んだことは地域で実践

シンポジウムのようす。会場には700人以上の地域住民が参加した。 この地域では“あんしん”の事業とともにJA組合員らから自主的に生まれた活動も「あんしんしてくらせる里づくり」の土台となっている。
 それらの原点となっているのはJAが地域づくりの担い手を育成する場として開講した「JAあづみ生き活き塾」だ。そこでの学習を通して生まれた「菜の花プロジェクト安曇野」、「ふれあい市安曇野五づくり畑」、「学校給食に食材を供給する会」、「朗読ボランティアグループ」、「心身機能活性療法指導士の会」の代表者らが集会のシンポジウムに並んだ。
 同塾は「楽しかった」や「学びっぱなし」で終わらせず、「学んだことは地域・家庭で実践すること」がモットーだ。
 実際に「朗読ボランティアグループ」は同塾で「老い」について学び「声を出すことが嚥下障害を防ぐ」ことなどを知り生まれた。「菜の花プロジェクト」の誕生は同塾の修学旅行先で自給エネルギーについて学んだことがきっかけ。すでに帰りのバスの中ではグループ名が決定し、翌日には菜の花の種を購入していたという。
 また、「ふれあい市安曇野五づくり畑」はベニヤ板一枚で開設した農産物販売から今では地域の買い物支援として移動販売車の運営を行うまでになっている。

(写真)
シンポジウムのようす。会場には700人以上の地域住民が参加した。

◆自分たちの手でつくる安心

 同塾の前身は「女性大学」だが、「生き活き塾」になって女性だけを対象とせず、男女年齢問わず地域の誰をも対象としたことで地域により開かれた学習の場となっている。
 「新しい“あんしん”のあり方を考える会」代表の堀内ゆき子さんは「地域の中で支え合いの仕組みをつくっていくことが大事」「自らの手でニーズに添った活動をつくっていかなければいけない」と述べた。
 コーディネーターを務めたJC総研客員研究員の根岸久子氏は、JAあづみの福祉活動が花開いた理由に「自らの思いですすめてきた自立性」と「継続性」を挙げた。
 介護保険事業の担い手としてではなく「できる人ができることをできるときに」という緩やかに参加できる仕掛けと、「いずれ自分も利用者側になる、という意識で利用者の立場に立った事業を立ち上げてきたこと」がまさしく企業とは違う協同組合の力によるものと評価した。


【記念講演】
◆市場原理の対抗モデル

内橋克人氏 集会では経済評論家でIYC実行委員会代表の内橋克人氏が「協同組合の新たな役割―FEC自給圏の形成をめざして」と題して記念講演した。
 内橋氏は国連がIYCと定めた意味は、世界経済の行き詰まりをもたらした市場原理主義社会を克服し変革する対抗モデルとしての位置づけであるとして、協同組合の存在意義と役割への期待を述べた。
 過剰な市場原理主義が世界経済にもたらしたのは「世界にマネーの運動場を広めていく」という現状。そして食料も「つくるより買う方が安い」という動きに仕向けることだと指摘した。
 こういった現状に内橋氏はF(フード)、E(エネルギー)、C(ケア)を自らでまかなう「FEC自給圏」の形成をかねてから主張してきた。日本は穀物のほとんどをアメリカに依存しているが、今回アメリカで大干ばつが発生したように食料を他国に任せることは本当に安心できるのか? として、日本は人間が生きていくために必要なものの基本である食料、エネルギー、ケアをすべて他国に任せようとしていると指摘。「FEC自給圏を形成しなければ社会は深層崩壊する」と強調した。
 そのなかで自給圏を自らつくりだそうと活動しているのが協同組合であり、とくに“あんしん”の取り組みはまさしく「C(ケア)自給圏の形成モデル。日本全国に向けて示すべき活動」と評価した。

◆「天寿全う」喜べる社会に

 また、日本国民は現在、「不安社会」の中に生きていると指摘。本来であれば天寿を全うすることは喜びであるはずなのに、老老介護や老老心中、孤独死といった高齢者の置かれている現状から、多くの国民が年を取ることに不安を感じ、安心して生きていくことができないのが現在の日本社会の姿であると述べた。
 こういった背景にワーキングプアやこれまでの震災対応に見られる「公助」の概念に欠けた国の体制を挙げ、「天寿全うを喜べない社会を変えていかなければいけない」と強調し、“あんしん”の取り組みは日本全体のモデルでありIYCのモデルとして示し続けてほしいと期待した。


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