特集

第57回JA全国女性大会 創立60周年記念特集
出席者
内橋克人氏・経済評論家
村上光雄氏・JA全中副会長、JA広島中央会会長
菅野孝志氏・JA新ふくしま専務
司会
鈴木利徳氏・農中総研常務

一覧に戻る

【震災からの復興と協同組合の役割】
【座談会】「震災復興と協同組合」 内橋克人氏・村上光雄氏・菅野孝志氏・鈴木利徳氏(後編)

・本気で争う姿勢を
・許せぬ火事場泥棒
・小水力発電の経験
・“自給圏”の形成を
・「始まっている未来」
・「汚染地図」つくる
・“競争”から“共生”へ
・「社会転換」へ第一歩
・誇りと自信持って

 「震災復興と協同組合」を主題に、中国山地の小水力発電など環境に優しい電力の今後なども話し合った座談会の後編。

政府動かす協同組合の役割に期待
農協は「共生」の先頭に立ってほしい


献身的な協同組合活動に敬意払う風土づくりを

可能性いっぱい地域資源 
クリーンエネルギーの活用図れ


◆本気で争う姿勢を


内橋克人氏 内橋 福島復興を進めるにはまず“復興”とは何なのかを明快に示すことがたいせつです。復興というよりは、生まれ変わった福島のあり方を示すことです。
 放射性物質の本当の怖さは“スローデス”にあります。20、30年かけてゆっくりとやってくる晩発性の死です。そのとき、だれが責任をとるのでしょうか。こうした苦難を視野に入れながら、復興の未来図を一日も早く示す。フクシマの人びとに救いと夢と希望を感じて頂くこと。JAグループを担うトップの方の意識の中にしっかりと組み込んでいただき、実践的にビジョンを示してほしいと考えます。
 福島の自然はほんとうに美しい。スローライフの世界です。原爆詩人・峠三吉は「ちちをかえせ」「ははをかえせ」と呻(うめ)きました。いま、福島の方々は「土を返せ」「村を返せ」と叫んでおられる。この悲痛にどう応えていくのか、それが協同組合の真の役割です。協同組合の精神が問われているのではないでしょうか。
 福島の復興は緒に就いたばかりですが、野田首相の「収束」という言葉遣いに見られるようにウソばかりついています。これに対しては本気で闘う姿勢を持たないと、再び歴史に「棄民」の1頁が書き加えられるでしょう。
 鈴木 被災者救援では女性部をはじめとするJAの組織活動がきちんと機能していたとのことです。内橋先生も生きた支援活動のもとには協同の精神があると評価されました。今後は復興活動の中でJAの組織力をどう生かすかが課題ですね。
 内橋 おっしゃる通りです。協同組合の真価が問われるのはこれからです。
 鈴木 次に再生可能自然エネルギーについて、JA広島県中央会は全国でも非常にユニークなお仕事をされていて中国小水力発電協会という団体の事務局となっています。
 小規模な水力発電事業の団体で施設数は53、うち37施設が総合JAの運営です。広島はじめ中国地方5県の1万6000世帯分の電気をまかなっています。そうした経験と、福島の復興について思うところがあればお話下さい。


◆許せぬ火事場泥棒

村上光雄氏 村上 その前にひとつ申し上げたい。JA新ふくしまの大震災対応は素晴らしいと思います。農協はやはり人と人の結合体なんですよ。はっきりした回答のできる立場にはないけれど、とにかく、みんな集まって、どんな方向が出るかどうかわからないが、語り合ってみようというのが協同組合の原点です。
 今も復興についての集まりを繰り返し、みなさんの考え方を中心にやっておられる。それが基本です。
 ところが、TPP(環太平洋連携協定)推進派の財界人や学者などは、大震災を機会に漁業権を企業に対しても規制緩和すればよい、農業も企業参入で集約的にやればよいと、農漁業者が参画しないかたちで規制緩和を打ち出しました。
 これは火事場泥棒みたいなもの。人の不幸につけ込んで自分の主張を押し付けるようなことは言語道断。絶対に許せません。復興はそこに住んでいる人々を中心にした計画によらなければなりません。
 さて脱原発ですが、今年は3年ごとのJA全国大会(第26回)の年で昨年から大会議案を詰めています。この中に脱原発の方針をきちんと入れ、地域資源を利用した創電の取り組みを提起したいと思います。
 原発による放射性物質の影響を最終的に受けるのは農業者であるからです。泣かされるのは百姓です。自然を相手に農業をしている百姓にとって環境汚染は絶対に許せません。
 環境を守ることによって生きていけることを今回実感したわけです。我々の作ったものをなんで買ってくれないのか、食べてくれないのかという問題は非常に重大です。それを胸に刻んで環境を守っていきます。


◆小水力発電の経験

 村上 脱原発をどのように実践するか。中国山地の例では農山村に電気を供給する小さな水力発電事業が戦前からいくつかあります。昭和27年には農山漁村電気導入促進法ができて地域の電気利用組合のほかに行政や土地改良区、農協などがつくる発電施設が増えました。
 しかし売電価格が安く、また、台風などの自然災害で施設が被害に遭っても国の補助はないなど、毎年約半数が赤字です。このため農協が他の事業体から「経営が難しい。農協さん、何とか面倒をみてくれませんか」という事業肩代わりのケースもあります。一方、中国電力からは技術その他様々な面でのバックアップを得ています。
 いずれにしても先輩たちがつくってくれた小水力発電は文字通り大規模なダムを必要とせず、環境破壊に至りません。環境に優しい電力です。
 地球温暖化対策の議論の中でも小規模水力発電は注目されましたが、結局は原発のほうのコストが安いとして議論はそちらへ行ってしまいました。しかし今回ばかりは1番クリーンな電力だと見直され、再生可能エネルギー特措法の中にも組み込まれました。


◆“自給圏”の形成を

 村上 それにしても我々は勉強不足でした。原発のために国はばく大なおカネ(税金)を使っているのですね。電力会社のほうも寄付という名目でたくさんのカネを使っています。
 内橋 なんというか、もはやコストレスの世界ですね。
 村上 小水力発電では全体のエネルギーをカバーできないとよくいわれますが、うまくやる気を出して原発に使うカネを、こちらに振り向ければいろいろなカバーの形が考えられます。日本くらい水に恵まれた国はないのですから。また水は循環させて何回でも使うことができます。
 それにバイオエネルギーなんかもあるわけですし、もう少し全体の売電量を上げてくれたらと思います。また初期の設備投資に対する助成率をもう少し上げればクリアできる点もあって、かつてガットウルグアイラウンド対策費の時に建設省に提案しましたが、受け入れられませんでした。
 小水力発電は地域資源を生かした売電によって、とりわけ中山間地域の振興を図ることができる一挙両得ならぬ三得くらいの事業です。発電で稼げば国の補助金などいらないのです。国が本気になればまだまだ色々な可能性があるのに国の政策は余りにも原発に偏り過ぎていました。
 内橋 その通りです。村上さんの今のお話、私はほんとうに勇気づけられました。
 私は90年代からF(農と食)、E(再生可能エネルギー)、C(ケア)の「自給圏形成」こそ私たち社会が求めるべき未来図だと呼びかけてきました。
 最初のころはテレビ番組なんかでも“食料は安い国から買えばよいのだ”と反論する東大教授などがもてはやされた。
 しかし、私はその後もしつこく著作やテレビ、ラジオの番組などで、「一定の地域内で有機的なつながりをもつ自給圏形成の仕組みを築けば、農業力の強化、雇用の場の創造、地域力を高める対抗経済が可能だ」と唱えてきました。
 これはTPPに象徴されるような、進むグローバル化に対する強固な「対抗経済」構築の論理です。いま、ようやく一般にも急速に関心が高まってきました。被災地でも「FEC自給圏の形成」のほかに再生の道はない、そう説く方がずいぶん増えています。やがて良きモデルが生れてくるでしょう。
 中山間地域では木材チップを使ったバイオエネルギーもとても有力です。私は著書『共生の大地』(岩波新書)などに詳しく書きましたが、デンマークの例が参考になります。


◆「始まっている未来」

 内橋 デンマークは面積で北海道の半分、人口で北海道の9割。オイルショックのころのエネルギー自給率は1.5%に過ぎませんでした。それがいまはエネルギー自給率180%以上。余剰分はEU諸国へ輸出しています。食料自給率に至っては300%です。どうしてこうなり得たのか。要するに?知恵ある制度設計?の結果です。自然の再生可能エネルギーを普及させるためにあらゆる知恵と努力を結集しました。
 日本でもすでに「始まっている未来」です。FEC自給圏の形成を強力に進めていくことが、被災地復興への大きな推進力となるでしょう。
 強調しておきたいのは、「命と農と土と水」は原発とは絶対に両立しないということです。これは私の堅い信念です。
 原発は「合意なき国策」としてむりやり依存度を高め、そのため、あらゆる選択肢を全て棄ててきた。つまり多様なエネルギー選択の余地を自ら狭めてきたということです。戦時にも匹敵する「合意なき国策」。いったいだれが進め、だれが利益を得てきたのか。いまだ総括されていません。もっと自由で柔軟だったはずのエネルギー選択の幅を狭め、利益を得てきた限られた階層に対して国民的糾弾がなされなければならないと思います。
 村上 水力も石炭火力もありましたのにねぇ。
 内橋 そうですよ。原発推進はまさに特定の「利益複合体」によるもの。総括原価方式なんて、その典型です。複合体にしがみついておれば、もうかるようになっている。経済界も政治家も学者も甘い汁から離れようとしませんでした。
 協同組合のプロフェショナルズこそ、そういう日本的あり方をぶっつぶす先頭に立っていただきたい。官僚、政治屋、御用学者などに対峙(たいじ)していく、そういう穢(けが)れなき崇高な精神を末端の組合員の方にも職員の方にも刻み込んでいただきたい。失礼な言い方かも知れませんが、農協役職員の中に本物の官僚以上に官僚的な人が見受けられます(笑い)。まさに「民僚」ですね。1人々々がもっともっと自覚を高め、協同組合人として共生セクターの担い手の先頭に立って大きな力を発揮してほしいと切望しています。
 鈴木 大震災を契機に農協そのものが変わらなくてはいけないなと襟を正して聞かせてもらいました。
 内橋 ここで副会長さんにぜひお願いしておきたいことがあります。


◆「汚染地図」つくる

 内橋 農協も生協も大きな組織となり、その力を生かす点では有利ですが、大組織になると企業社会と同じように一人ひとりの人間性が問われなくなってきます。いまでは真に協同組合活動に献身なされている方々への敬意も、社会から余り寄せられていない状況です。
 残念な現実を克服するための教育を徹底して頂き、「あの家族は協同組合員だから信用できる」「あの方の仕事は協同組合だから素晴らしい」と社会が畏敬の念をもって遇してくれる、そのような人づくり、風土づくりをぜひ、とお願いしたいのです。理念とか思想性とか運動性を磨いていってほしい。
 残念なことに、昨今、協同組合は社会的正義に適う存在として認知されなくなってきました。前回の座談会でも話しましたように国も政府ももはや頼りにはならない。いまこそ「正統な政府機能」の発揮を、と声を大にして迫らないといけないと思いますが、それも協同組合の役割です。政府のいうことを聞くのでなく、まさに政府を動かすという協同組合のあり方に、私は大きな期待をかけているのです。
 村上 宮崎県は口てい疫禍で全国の支援を受け、その恩返しという形で、大震災ではJA組合長ら全員が被災地へ入りましたが、JAはそういう素晴らしい助け合いができる組織となっています。
 とはいっても、今の農協の姿が良いとは思っていません。大組織になると総身に知恵が回りかね、上ばかり見て下が見えないという面もあります。
 そこで我々としては基盤となる組合員の間に芽生えた小さな協同、いわゆるグループづくりを、支店を中心として職員も一体となった協働いう形の中で育てていきます。
 菅野 消費者との連携についてですが、放射線汚染の度合いは田んぼによって全部違いますから生産者も自分の田の状況をよくつかんでいません。消費者に説明するにはデータが乏しいのです。これではJAとしての責任を置き忘れているような気がします。
菅野孝志氏 そこで田の状況を1枚ずつ測ってデータを積み重ねる調査をして土壌汚染のマップづくりをします。すでに準備を開始し、直売所の会員など一般住民にも参加を呼びかけています。
 こうして消費者に科学的な説明ができるシステムを新しく組み立てていくベースを築き上げたいと思います。これは分断されていた消費者と生産者をくっつけるものです。


◆“競争”から“共生”へ

 内橋 おっしゃる通りです。例えば、コメは米国から輸入したほうが安いといって生産者と消費者を分断、対立させ、その隙間に商社が利益チャンスを置くといった「競争セクター」一辺倒の構造。まさにTPPの狙いです。社会統合の復活を急ぐべきです。
 小泉構造改革のころ、競争さえすれば社会は豊かになる、競争社会は活力ある社会だ、市場がすべてを決める、といった考え方が猖獗(しょうけつ)を極めました。これに対抗できる連帯、参加、協同の「共生セクター」は衰弱するばかりでした。「共生セクター」のパワーを取り戻す―協同組合の大きな使命ではないでしょうか。
 社会統合の回復は被災地JAの大きな役割です。菅野さんたちが進めておられるマップづくりも、たいへんに重要ですね。地域のすべての人びとに参加して頂きながら進めていってほしいものです。今後、放射能汚染とどう闘っていくのか、あるべきモデルの一つが示されることでしょう。
 先に話しました福島での集会では「あんしんフクシマの創造」というテーマも話しました。私は福島こそFECの「ケア」のモデルを生み出せる地だと思います。
 日本では「介護の社会化」がいわれて久しいのですが、結局、目の前に広がっているのは「介護の市場化」でした。これでは老後の真の安心などありません。これからどういう社会を目指すのか。海外の実際から多くを学ぶことができます。
 たとえば、デンマークでは18歳で選挙権を持ち、自立します。もし働きたくても職がなければ年金のようなものが公的に支給されます。大学の授業料は無料です。
 親は60歳を過ぎると、自宅から「デイセンター」に出向き、年配者同士のコミュニケーションを深めます。どこか健康に懸念が出てくれば今度は「ケアホーム」で医師から治療を受けることができます。むろん、軽度であれば自宅から通います。
 さらに「活動センター」というのがあって、元気なお年寄りは他の高齢者の面倒を見る。活動センターはまさに介護の?自給圏?ですよ。スポーツを楽しみ、共にレジャーや旅行に出かけたり・・・。そして、いよいよ動けなくなったら「介護センター」です。終(つい)の棲家(すみか)といってよいでしょう。このように4種類の施設が各地域に配置されている。元気なうちは他の年寄りの面倒を見る活動センターのように“自給圏”のあり方が面白いと思います。


◆「社会転換」へ第一歩

鈴木利徳氏 内橋 親子の愛情はどうか。逆にいっそう深まっていく。人間同士として・・・。日本では、介護を必要とする老人が、さらに老いた親の介護を迫られる。また、50歳近くになったワーキングプア(働く貧困層)の子どもを親が面倒みなくてはならない。それが「絆(きずな)」だと。このような日本の「貧困なる思想」を根源的に変えていく。「社会転換」への第一歩です。
 鈴木 では最後に言い残したことがあれば、ひとことずつお願いします。
 菅野 我々のJA綱領は朗誦するだけでなく、それを実践の中にどう生かしながら運動として広めていくかです。綱領を体に沁み込ませることが自らの行動の一歩を踏み出させる力に変わっていくと考えます。この点を申し添えて置きたいと思います。


◆誇りと自信持って

 村上 協同組合の理念、そして、その取り組みが崇高なものであるということが、まだ、よく理解されていません。協同組合運動に携わっているという誇りと自信を持って進んでいくことが大切です。
 内橋 歴史上、最も新しい社会システムは最も苦しんだ地域から生れています。例えばスペイン北部のモンドラゴンで協同組合コミュニティが形成されたのは、長い内戦続きの苦しみのなかからでした。モンドラゴンと同じバスク自治州のゲルニカが、1937年にドイツ・ナチスによって空爆されました。史上初の無差別都市爆撃によって虐殺が行われたわけで、これが後に広島、長崎へとつながっていく。この悲劇を知った画家ピカソが『ゲルニカ』という大作を描いたことは有名です。私は、この12月8日、つまり70年前の真珠湾攻撃の日でしたが、福島でそのことを話しました。最も苦しんだ地域から最も人間らしい、最先端の社会システムが生まれるのだ、と・・・。
【座談会】「震災復興と協同組合」 そして、日本のような社会で「協同組合」が今に至るまで社会を支えつづけたということは、私たちがほんとうに「希有の宝物」を保っているということです。宇沢弘文先生が唱えてこられた「社会的共通資本」そのものです。
 1980年のICA大会で『レードロー報告』が指摘したように、もう一度、協同組合の思想性をしっかりと掘り下げていってほしい。深い思想性を求めて頂きたい。その後から事業性は必ずついてくるでしょう。それが21世紀社会というものです。協同組合こそ日本再生の先頭に立って頂きたいものとひたすらに願っています。

前編はこちらから

(2012.02.10)