農政・農協ニュース

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【第26回JA全国大会記念 トップインタビュー】JA全中・萬歳章会長

 「次代へつなぐ協同」をメインテーマに、第26回JA全国大会が開催される今年は、国連が「国際協同組合年」と定めた年でもある。市場原理主義の破綻を示したリーマンショックによって「100年に1度」といわれる世界同時不況が進むなか、改めて協同組合の存在意義と役割が問われているといえる。
 そこで、JAグループ全国連のトップである萬歳章JA全中会長、中野吉實JA全農会長、安田舜一郎JA共済連会長、河野良雄農林中金理事長に、今日の協同組合の役割とこれからのJAグループのめざすものなどを、梶井功東京農工大学名誉教授に聞いてもらった。

全国農業協同組合中央会
萬歳 章 会長

協同組合こそこれからの時代が求める力


◆支店をJAの総合力発揮の場に

 ――第26回JA全国大会では、「次代へつなぐ協同」をメインテーマに掲げていますが、会長として一番強調したい点をお聞かせください。
萬歳 章 会長 萬歳
 「次代へつなぐ協同」というテーマのとおり、協同組合の10年後の将来を見据えて様々な取り組みを展開していこうという共通認識を高める契機にしたいと考えています。
 3年前の第25回大会では、農業の復権や地域の再生を掲げるとともに、JA経営の変革を目指していこうと「大転換期における新たな協同の創造」を決議しました。しかし、これらの取り組みが、この3年で、すべて達成できたとは言えないと思います。また、JA間の格差が拡大している状況にある中で、この内容についてもう一度点検し、具現化できる対応をきちんと図っていきたいと考えています。
 まさに農業の復権は待ったなしの現状にあり、組合員のための組織であるJAとして、担い手不足や農家所得の減少という状況を好転させていくことが喫緊の課題です。
 ――今回の大会議案では支店を核とした活動が強調されていますね。
 萬歳
 現在709あるJAの多くは、合併によって経営基盤が強化されていますが、一方で組合員との距離が遠くなりつつあるとの指摘もあります。やはり組合員に一番身近である支店を通していろいろな事業を利用してもらうことが大事だと思いますので、支店をJAの総合力発揮の場となるよう、利用や活動の拠点として位置づけたいと考えています。そのため、各支店には組合員のために何ができるかを考えてもらうとともに、組合員に寄り添った、きめ細かい対応をしていただきたいと思います。

◆ライフライン機能を担う地域づくりを

 ――先日農水省が公表した25年度予算の概算要求のなかでも「農村地域力発揮総合対策交付金」が新設され、行政も集落よりやや広い意味ですが「地域力」の連携を強めていく方向がうかがえます。
 萬歳
 10年後には日本の人口が500万人も減少するという予測もあるなど地方経済が疲弊していくなかで、農業生産だけでなく地域の暮らしにも一歩踏み込んで、地域住民のために役割を発揮していく必要があると強く感じています。
 近頃は、格差社会や無縁社会の投影といえるさまざまな問題が起きていますが、とくにライフラインの一翼を担いながら地域づくりをしていくことが、今後のJAの役割として重要になってくると思います。そのためには行政との連携は当然必要で、自治体に協力を要請することもわれわれの役割の一つだと思っています。人と人とのつながりを大事にしつつ、地域の中で協同組合の存在を少しでも評価いただけるような取り組みをしていきたいと考えています。
 ――そうなると農家組合員だけでなく地域の人たちにもJAの活動に参加してもらう取り組みを強化していくことになりますね。
 1970年の第12回大会で営農活動に加えて生活活動を強化していこうと「生活基本構想」が決議されたときから准組合員問題は提起されていましたが、この問題が改めて出てくるのではないかと思います。この点についてどう検討していく考えですか。
 萬歳
 われわれは地域住民にも准組合員加入を呼びかけていますが、准組合員には事業の利用権はあっても総会での議決権はありません。しかし、例えば支店運営委員会などの場に参加してもらうなどして意見を吸収していくような工夫をしているJAもあります。組合員数の正准逆転は課題のひとつとしていわれていますが、JAとしてどのように地域へ貢献していけるのかを考えた上で、准組合員対応への方針を考えていきたいと思っています。

◆協同組合の力が評価されたIYC

 ――協同組合運動にずっと携わってこられた立場から、国連が今年を国際協同組合年(以下IYC)と定めたことに対してどう思われますか。
 萬歳
 国連が協同組合を、世界的に重要な意義ある組織体であると評価したということだと思います。リーマンショックによる経済混乱に対して、一番きちんとした対応をとることができたのが協同組合組織だったという評価があったとも聞いていますし、これまでさまざまな場面で発揮してきた組合員の力による対応が改めて認識されました。資本主義社会において、人と人とのつながりが大事であることを認識するためにもIYCは重要な意味を持っていると思います。
 われわれも協同組合の意義や社会的な役割を認知・理解いただこうと、IYCを機にいろいろなイベントを行っていますが、東日本大震災での協同組合による復興支援等を通じて、協同組合の評価も上がってきていると感じています。
 ――大震災では各JAや協同組合組織が他の組織よりいち早くさまざまな対応で助け合い活動を展開し、人的支援をずっと続けられていますね。
 萬歳
 例えば、女性部を中心とした被災地へのおにぎり支援や、JAグループ支援隊として全国から被災地に入り、復旧・復興支援活動の実働部隊として地域に密着した取り組みを行ってきております。日頃からJA職員は、組合員と接する中で、“人のためになろう”という協同組合の精神が身に染みていると思いますが、これからもこういった人材を育成していかなければいけないと思っています。

◆安心して営農できる国に

 ――農業問題が山積しているなかで全中会長として農政の対応に何を求めますか。
 萬歳
 全国にはいろいろな農業のかたちがあるので、法制化に至っていない戸別所得補償制度を含めて、全国一律というのではなく、それぞれの地域にあったきめ細かい政策を求めていきたいと思っています。
 また、5年後を見据えたビジョンがきちんと見える農政が必要です。
 そうでなければ現場は安心して農業ができません。「農は国の基」です。ヨーロッパをみると国の支援による基盤づくりがしっかりできていると感じます。日本でも農業を国の基盤と位置づけた政策が確立するよう求めていきたいと思います。


(インタビュアー・梶井功(東京農工大名誉教授)氏の「インタビューを終えて」は、コチラから)

(2012.10.12)