農政・農協ニュース

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【第26回JA全国大会記念 トップインタビュー】JA全農・中野吉實経営管理委員会会長

 「次代へつなぐ協同」をメインテーマに、第26回JA全国大会が開催される今年は、国連が「国際協同組合年」と定めた年でもある。市場原理主義の破綻を示したリーマンショックによって「100年に1度」といわれる世界同時不況が進むなか、改めて協同組合の存在意義と役割が問われているといえる。
 そこで、JAグループ全国連のトップである萬歳章JA全中会長、中野吉實JA全農会長、安田舜一郎JA共済連会長、河野良雄農林中金理事長に、今日の協同組合の役割とこれからのJAグループのめざすものなどを、梶井功東京農工大学名誉教授に聞いてもらった。

全国農業協同組合連合会
中野 吉實 経営管理委員会会長

JAの地域農業戦略を積極的に支援する


◆組合員の収入向上でJAに信頼が

 ――会長が久保田町農協組合長になられたのは32歳のときだったそうで、それ以降、一貫して農協運動に携わってこられたわけですが、当時の農村状況や農協運動と現在で大きく変わったのはどういう点ですか。
中野 吉實 経営管理委員会会長 中野 
農業の現場が大きく変わりました。佐賀は、ほ場整備が進みましたし、共同乾燥施設が米作付面積の90%以上をカバーするなど、先進的な地域になったことです。
 私が農業を始めた20歳代は稲刈り・麦刈りは鎌でしたが、その後バインダーになりコンバインへと変わりました。また、田植え機が出てきてからは、それまで人を雇っていたのが一人で田植えをするようになるなど、昭和40年頃以降の農業の技術革新はものすごいスピードですね。
 ――佐賀県は生産調整に対する対応が、地区ごとにブロックローテーションを組むなど他県とはだいぶ違いますね。
 中野
 転作を避けて米生産を最優先するのではなく、大豆に転換した方がいいと考えて力を入れてきました。今年も500〜600haに作付けをし、平均で220〜230kg/10a収穫しています。
 ――農家のあり方も変わってきていますね。
 中野
 佐賀県の平均耕地利用率は140%くらいですし、有明海沿岸は200%近いというように、農家の生産意欲が高い県です。米価が低迷するなかで大豆に転換し手取りが向上しましたので、農地が専業農家に集積されてきています。
 ――JAがかなり先を読みながら指導をされてきたわけですね。
 中野
 最初はいろいろ反発もありましたが、基本は組合員主体で、組合員の収入が向上して生産物の販売を安心してJAに任せられるようにすることです。いまJAさがでは縁故米などを除けば9割近い米の集荷率があります。

◆改めてJAを見直してもらう機会に

 ――長年、農協運動に取り組まれてきた経験からみて、IYCについてどう思いますか。
 中野
 自由貿易重視の考えから食糧問題がないがしろにされていますので、今年をIYCに定めたことは、非常にタイムリーであり、協同組合について大いにアピールし、皆さんに協同組合を改めて見直してもらい、JAという組織が地域にどうしても必要だと理解してもらえる機会になればと思います。
 ――国連はそのことを国が行えといっているわけですが、日本はどうですか。
 中野
 日本も食糧問題がないがしろにされているという状況です。
バリューチェーン構築で生産者に付加価値還元
 ――会長として、JAが力を入れて取り組んでほしいのはどういう点ですか。
 中野
 今回のJA全国大会では経済事業の課題として「JAグループバリューチェーンの構築」があげられています。これは最近、流通資本主導による産地の囲い込みが進み、農畜産物の販売から生み出された付加価値が流通資本サイドに落とされるという動きが強まっており、JAグループ主導でバリューチェーンを構築することで付加価値を生産者側に還元しようということです。
 これを実現するために、地域別の農業戦略の策定や地域に適した作物・品種の選定、TACによる日常的な生産者対応などに、JAに主体的に取り組んでいただき、これを私たち連合会が補完し支援する取り組みをすすめていきたいと考えております。
 また流通段階では、作物の1次・2次加工などに向けた事業施設の整備促進など、JAと全農が連携して取り組みたいと思います。
 いずれにしても、JAと全農が互いに協力しあいながら取り組んでいくことが不可欠ですが、とくに生産段階ではJAが果たしていく役割が大きいので、そこに力を入れていただきたいと思います。
 ――大会議案では、支店を中心にした活動を強調されていますね。
 中野
 方策として支店中心とした活動はいいと思いますが、実際はそこで活動するJA職員の意識や能力しだいではないですか。 
  ――職員教育が重要ということですか。
 中野
 今回の大会では支店重視という方針を出すわけですから、次の大会ではさらに踏み込んだものが出せるように頑張らなければいけないと考えるように職員の質を高めることではないでしょうか。

◆統合で競争力ある事業運営が可能に

 ――そういう中で全農はどういう役割を果たしていくのでしょうか。
 中野 
全農の役割はJAの経済事業に対する後方支援ですから、それをきちんと果たしていくことだと考えています。今回の全国大会決議の実践は、25年度からになりますが、大会決議の主旨を踏まえて、事業展開をはかる必要があると考えています。
 また、現在の3か年計画では、国産農畜産物の販売力強化や生産コストの低減など4つの最重点施策に取り組んできていますが、これらの取り組みの総括を通じて、不足する点は補い、新たに取り組むべきことは次期3か年計画で計画化していきたいと考えています。
 ――全農が組織2段になった成果をどのように捉えていますか。また課題があるとすれば何ですか。
 中野
 統合した成果としては、効率的で競争力のある事業運営ができるようになったことです。そのために統合時から重複業務の排除などによって事業運営の効率化をはかるとともに、大幅な要員削減をして経営構造の改革を進めてきました。
 課題としては、事業環境 が悪化するなかで、JAグループや全農のシェア低下を反転させることなどがあると思います。
 また、コンプライアンスの徹底も重要課題と考えていますので、全農の全役職員への意識の浸透をはかるとともに、各事業拠点でのコンプライアンス態勢の強化に引き続き取り組んでいきます。
 今後も組織の期待に応えるべくしっかりと取り組んでいくつもりです。


(インタビュアー・梶井功(東京農工大名誉教授)氏の「インタビューを終えて」は、コチラから)

(2012.10.12)