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JA版事業継続計画、25年度中の策定をめざす 災害時に果たす社会的責務も意識  JA全中

 東日本大震災を機にJAでも事業継続計画の策定が求められている。JAは地域住民の生活に直結する食料供給や金融、介護、燃料供給など幅広い事業を行っていることから、単に事業者としての事業継続ではなく、社会的な責務を果たすという観点からも必要になる。JA全中では11月に全国説明会を開催したほか策定の手引きなども提示、25年度中にJAごとに事業継続計画の策定をめざすことにしている。

◆求められる危機管理体制

 事業継続計画とはBCP(ビジネス・コンティニュイティ・プラン)と呼ばれる。災害等が発生した際、どのような体制で人的資源、施設などの経営資源を確保し、災害支援や復旧などに取り組み、どのレベルで事業を継続させるかの計画である。
 JA全中は平成21年に新型インフルエンザが猛威をふるったことから、新型インフルエンザ対策の対応例を提示しており、全中の調査によると「新型インフルエンザを想定したBCP」を策定したJAは23年度で55.4%となっており、調査時点で策定中としたJAも合わせて約7割で取り組みが進んでいた。
 しかし、東日本大震災の発生で改めて大地震など大規模な自然災害を想定したBCPの策定の必要性が認識されるようになってきた。全中の調査では「大地震を想定したBCP」の策定状況は10.6%にとどまっている。
 災害時にどう事業を継続するかの計画は、地域住民や組合員、役職員の生命を守ることにもつながり、事業運営のための危機管理体制を整えておくことでもある。さらにJAが広範な事業を展開している地域のインフラの役割を果たしていることを考えると、JA版のBCP策定には「社会的な責務」もあるといえる。
 ここではJA全中が提示しているBCP策定の手引きからポイントを紹介する。

◆平時の対応が重要

 BCPを考えるうえでまず重要となるのが、平時における「備え」を行うことである。
 そのひとつが人員体制づくり。災害対策本部や災害対策チームの構成員を定めることや、災害発生時でも継続させる業務ごとに必要となる人員を明らかにしておく必要がある。
 また、演習や訓練も平時の対応として求められる。全中ではこうした訓練には全役職員が1年に1度は必ず参加できる計画をつくり、長期間この種の訓練に参加しない役職員が出ないようにしておくことが重要だとしている。さらに訓練も事業を継続させるチーム単位、あるいは中央会、連合会等の他組織等と共同実施などさまざまなケースを想定した訓練も大切だとしている。
 物的資源の確保も重要で、とくに役職員が帰宅困難者になることも想定し数日から1週間程度の水や食料の備蓄のほか、業務継続のための物資についても備蓄の想定を行うことが望ましいとする。
 そのほか、施設等の免震状況の点検、また、緊急時の集合地点の設定も必要になる。とくに震災等では、交通網の遮断、電力供給の停止などで連絡、情報収集が困難となる可能性があるため、経営資源(人的資源と施設等の物的資源)が分散しないような地点を考えておくことが求められる。
 これらは災害対策本部設置・運営要領として盛り込むことも考えられる。そこでは役員クラスの意思決定順位や、対策本部の設置場所(緊急時の集合場所)の第一順位、第二順位なども決めておく。

◆どの業務をどのレベルで継続させるか

東日本大震災で被災したJAいわて花巻釜石支店 業務継続計画の前に災害が発生した際の初動時対応計画を策定しておく必要もある。
 ここでは役職員の安否確認のための情報収集の方法、役職員の行動基準などを定める。JAとしての対応、役職員の行動については▽就業時間内に震災等が発生した場合、▽就業時間外に震災等が発生した場合に分けて計画を策定することが必要だ。
 これらの計画を策定するとともに、業務継続計画を策定することになる。
 前提となるのはどの業務を継続させるかの選定。そのためまずはJAが現に行っている業務を改めて洗い出す必要がある。
 それに基づき継続業務を選定することになるが、JAごとに違いがあるものの全中はその基準として▽組合員による要請、▽地域社会による要請、▽法令および当局等による要請、▽代替性のない業務などの観点を提示している。これに基づき業務を区分し、「優先業務」(当該業務の中断が生命の危機、社会秩序、JAの経営等に深刻な悪影響を招き得るもの。経営資源を優先的に振り分けて直ちに復旧、最後まで継続が求められる事業)と「重要業務」(早急な復旧と極力継続が求められる事業)に位置づけることが必要になる。
 さらに目標復旧レベルと目標時間の設定も行っておく。
 どの事業を何日以内に、どのレベルまで復旧させるか、である。
 たとえば信用事業であれば、当座性貯金については当日中に払い出しと入金までは復旧させる、営農資材供給事業については組合員の状況確認と資材倉庫等の情報提供を当日中には完了させる、などである。
 このように目標復旧レベルを設定しておき、その目標が達成できればBC(事業継続)が実現していることになり、ある分野でそのレベルが達成できていなければそのレベルを回復することが当面の目標となる。
 また、BCPには当然、JA単独で実現できず、中央会や連合会、さらには県外JAとの連携も必要になる事項がある。JAの実態に合ったBCPを策定することが必要で、この計画策定にもJAトップの強いリーダーシップが求められることになる。

(写真)
東日本大震災で被災したJAいわて花巻釜石支店

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