シリーズ

美味しい農産物と土づくり――土壌診断にもとづく土づくりと効率的な施肥

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第5回 露地野菜・畑作の土壌診断と土づくり(1)

土づくりを説いた大正初期の書
生産力向上のための「土」への思い

 つい最近、JAおやま(栃木県)元理事で大学の友人の蔵の中に保存されていた、大正5年6月大正農事協会発行・江幡辰三郎(結城農学校長)著「通俗肥料経済鑑」を拝見できる幸運に恵まれ感激した。当時の農商務大臣高野廣中閣下題字、農科大学澤村眞教授校閲だからかなり年代物であるだけでなく、土壌肥料学をはじめ各肥料の解説、肥料経済、肥料試験、作物別の施肥法、肥料取締法などが掲載された今でいう肥料協会新聞部の「肥料年鑑」と土壌肥料学の本を合体させたような内容であり、650頁の大作である。

sericat1220907070301.gif土づくりを説いた大正初期の書

 つい最近、JAおやま(栃木県)元理事で大学の友人の蔵の中に保存されていた、大正5年6月大正農事協会発行・江幡辰三郎(結城農学校長)著「通俗肥料経済鑑」を拝見できる幸運に恵まれ感激した。当時の農商務大臣高野廣中閣下題字、農科大学澤村眞教授校閲だからかなり年代物であるだけでなく、土壌肥料学をはじめ各肥料の解説、肥料経済、肥料試験、作物別の施肥法、肥料取締法などが掲載された今でいう肥料協会新聞部の「肥料年鑑」と土壌肥料学の本を合体させたような内容であり、650頁の大作である。
 その中の第一編総論第一章農業と肥料の項に、「農業とは如何なる業ぞと問いを発すれば答ふるものは簡単に云う。曰く農業とは土地を利用して作物を栽培して、(中略)其土地の中に含有する力即ち養分を利用しなくてはならぬ。然るに天然の土地の力のみに依頼して、何等人力を加ふるなければ何時しか耗竭(もうけつ)して作物の収穫を見ることの出来ないやうになるのは明らかである。此に於いてか、或は施肥して其地力を維持すると共に益々之が増進を謀り以て眞に土地利用の目的を達することに努むるのである。而も農業最後の目的は利益を多く求むるのである。(後略)」とある。
 大正初期に「地力を維持…増進…」という文言が出たことに感服したが、さらにこの頃から金肥(化学肥料)への頼りすぎによる有機質欠乏を警鐘し、「農家の特に注意すべきは学理応用の肥料の施用する点にあらねばならぬ」と土壌肥料の理論にもとづく効率的な施肥に触れている。
 
「土づくり」は日本特有の考え方

 昭和27年に耕土培養法、昭和34年から始まった地力基本調査で土地の生産力を評価するために土地生産力可能性分級を行い、さらに59年に地力増進法が制定され、「地力」とか「土作り」という言葉が定着してきたと考えている。
 「土づくり」の文言は、昭和45年にJAグループが提唱した「土づくり運動」が定着したものであると考えているが、いずれにしても「土づくり」の概念は、日本に特有な考え方といわれており、生産力を維持・向上するための「土」に対する思いや感謝の気持ちがこのような概念を作り上げてきたものと思われ、筆者もそう思っている。以前に、佐賀県の農家の山下惣一氏が書かれた「土と日本人―農のゆくえを問う」(日本放送出版協会)を読んだことがあるが、土つくりと農の思想について、生産者の思いを如実に表しているように感じたことをあらためて思い出す。

農地土壌を公益機能として評価

 土壌の役割は大きく分けて養分供給的な性格と、機能的・容器的な性格がある。土壌の性質からみると前者は土壌の化学性、後者は物理性、生物性(微生物活性)におおよそ分けられる。それらの性質(因子)は相互に影響し合っており、それぞれの性質が健全でこれらの性質のすべてが総合した性質を土地の生産力を「地力」と称している。
 表1は「地力要因と維持手段とのかかわり」を示したものであるが、いろいろな土壌肥料に関する本に引用されており、「土づくり」の目的と方法を概括的に説明するのに分かりやすい表であるので記載することにした。
 ところで、土壌の機能的・容器的な機能のひとつと考えられるが、最近、地球温暖化対策として、二酸化炭素(CO2)発生抑制とともにほ場の炭素貯留機能の計数化や不耕起栽培を評価しようという国が現れるなど、先進国では「土」や肥培管理に関心が高まっているようである。
 農水省は、平成20年3月に「今後の環境保全型農業に関する検討会」報告書を、7月に「土壌管理のあり方に関する意見交換会」報告書を公表し、農地が有する公益機能と今後の土壌管理のあり方を示した(農林水産省ホームページ参照)。このように農地土壌が公益機能として評価されて古くはないが、堆肥など有機物の施用が炭素取引の対象として期待されているのには時代の流れを感じさせられる。
 次回から露地野菜・畑作の土壌診断と土づくりの実際を連載する

 ※吉田吉明氏の姓「吉」の字は、常用漢字で掲載しています。

【著者】吉田吉明
           コープケミカル(株)参与 技術士

(2009.07.07)