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美味しい農産物と土づくり――土壌診断にもとづく土づくりと効率的な施肥

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第6回 露地野菜・畑作の土壌診断と土づくり(2)

地中で根を十分に張れる環境づくり
土づくりの基本は土壌の物理性

 まず、作物が正常に生育し、目標とする収量を得るためには、根が健全で、地中に十分に張れる環境づくりが必要である。
 そのためには、土壌の排水性、通気性、保水性、膨軟性など物理性が良好な作土を作ることであるが、野菜畑土壌では先ず圃場全体の透排水性を良好にし、有機質肥料や良質な有機性資材を適切に施用することにより団粒構造が発達した有効土層(有効根群域)を拡大することが重要である。

地中で根を十分に張れる環境づくり

山中式硬度計の構造 まず、作物が正常に生育し、目標とする収量を得るためには、根が健全で、地中に十分に張れる環境づくりが必要である。
 そのためには、土壌の排水性、通気性、保水性、膨軟性など物理性が良好な作土を作ることであるが、野菜畑土壌では先ず圃場全体の透排水性を良好にし、有機質肥料や良質な有機性資材を適切に施用することにより団粒構造が発達した有効土層(有効根群域)を拡大することが重要である。あわせて窒素、リン酸、塩基成分の量とバランスなど、有効根群域全体にわたり適正な化学性を維持することで、作物の根や微生物が健全に生育できる環境となる。さらに適切な作付けローテーションを導入することによって、生物性も含めた良好な根圏環境となり、作物が必要な養水分を効率的に吸収できる「土」となる。
 一般に地上部の生育量(収量)は地下部(根)の生育量に比例し、肥料成分の吸収量も比例するが、根の生育環境が良くなれば、肥料の利用効率も高くなる。
 土壌診断はこれらの性質が作物の生育環境として適正かどうか、また適正な肥培管理が行われているかを調査し、その結果にもとづき適切な診断と処方を行うことが目的である。このなかで筆者は、圃場の物理的条件がもっとも大切であり、作物の生育に大きく影響すると考えている。
 表1は主な物理性の診断項目であるが、土壌の物理性は重要であるにもかかわらず現場では広くやられていない。測定するには機器が必要であることも理由の一つであるが、少なくとも山中式硬度計(図1)があれば、有効土層や膨軟性など土壌の基本的な性質を簡単に測定できるため、スコップさえあれば現場で診断でき土壌診断車には必携道具として常備したいものである。

物理性の主な測定項目と使用機器

 

最低限必要な診断項目

作物の生育に好ましい土壌の種類別三相分布 さて、ここからはこれまでと一転して、土壌診断を行ううえで最低必要な診断項目について、それぞれの項目がなぜ重要なのか、そして測定値の見方と改良目標値の考え方、改良手段について解説するが、分析結果を読みこなし、どう処方するのか、できるだけ分かりやすく紹介するので、現場の指導に役立てていただきたい。
 特に、筆者の経験を踏まえて、一般の土壌診断に関するテキストには書いていない内容も紹介する。称して、「現場で役に立つ実践的な土壌診断講座」。

1土壌の三相分布
 土壌は、固相、液相、気相から構成されており、その容積割合を三相分布という。表2に土壌の種類別に作物の生育に好ましい三相分布を示したが、熟畑では固相30〜40%。液相30〜40%、気相30%が望ましい。
 三相分布は、土性、気象、管理方法などの諸条件で変化するが、深くなるにつれ固相の割合が増え、また気相と液相の合量は孔隙の割合を示しており、気相が減れば液相が増える関係にある。固相率の大小は土壌の透水性、保水性、通気性に影響を与え、養分の保持、流亡、酸化還元にも関係する。特に、水田転換畑のような地下水位の高い圃場は液相が多くなりやすい環境にあるため、排水対策が不可欠であり、還元状態で根痛みを起こさないよう高畝栽培をするなどの対策が必要になる。このように、三相分布は土壌の基本的性質であり重要な要因である。

2土性
 固相を構成する無機物や有機物の内、主に土壌コロイドを形成する粘土と腐植の種類と量が土壌の物理化学性を左右し、特に土壌コロイド粒子の大きさと割合が土壌の保肥力、緩衝能、燐酸吸収係数、排水性、保水性などの土壌の基本的な性質に関係する。粘土含有量によって土性が区分されるが、多少の経験があれば、表3のように現場において触診でおおよそ判定することができる。
 砂土に近い土壌に比較して粘質な埴土ほど、さらに腐植が多い土壌ほど保肥力が高く、緩衝能も高くなる。土の色も判断材料であり、一般的には黒色が濃い土壌は腐植が多い。標準土色票により判定するが、水分によって色合いが変わるので注意する。
 保肥力は土壌診断では陽イオン交換容量(CEC)を分析するが、CECは粘土と腐植の種類と量によって異なり、これが大きいか小さいかで、塩基などの改良目標値や肥料・資材の施用量も変わり、窒素の施肥方法も変わってくる(後述)。土性は土壌診断のベースとなるので重要である。(前回記事はこちらから)(次回につづく

土壌の区分と特性

 

 ※吉田吉明氏の姓「吉」の字は、常用漢字で掲載しています。

【著者】吉田吉明
           コープケミカル(株)参与 技術士

(2009.08.04)