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美味しい農産物と土づくり――土壌診断にもとづく土づくりと効率的な施肥

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第11回 施設土壌の土壌診断と土づくり

・水管理と施肥管理
・交換性石灰が高くても石灰欠乏がでる
・リン酸施用量は土壌分析結果に基づいて

 通常、施設土壌は水田転作畑のような排水が悪い圃場、もともと耕土が浅い圃場は別として、堆肥や生ワラなどの粗大有機物や有機質肥料を多く使用するため、土壌の物理性は比較的良好である。しかし、全般に肥料の施用量が多くなりがちであり、ハウス内は閉鎖系で気温が高く土壌水分が表層に移動しやすいことから、土壌中の肥料成分は表層に集積することが多い。そのため、塩類集積による濃度障害や養分間の拮抗作用による栄養障害が発生しやすい。ここでは施設土壌の塩基とりん酸を中心に土壌診断の対策のポイントについて説明することとしたい。

◆水管理と施肥管理


 施設土壌を分析すると、概ね(1)硝酸態窒素が多い(2)リン酸含有量が非常に高い(3)塩基飽和度が高く(4)塩基バランスが悪いと診断されることが多い。原因としては追肥回数が多く全体に施肥量が多いこともあるが、多量の堆肥や生ワラの連用による加里の蓄積、特に家畜糞堆肥の多量施用によるりん酸の蓄積も無視できなく、畜種によっても蓄積する成分量も異なるので施用量を決める時は注意が必要である。このような施設土壌は過剰や養分のアンバランスが多いため、土壌の分析結果から処方せんを作成するには経験が必要で、営農指導員を悩ませることが多い。
 よく篤農家は水管理と施肥管理の自らの経験技術により高い収量を維持しているといわれている。実際に生産者は塩基飽和度が高い土壌で生産力を維持するためにどう対処しているのだろうか。図1は現場の生産者の対応を想定し全農農業技術センターで行った試験で、トマトの収量に及ぼす塩基飽和度、窒素施用量、灌水量の影響をみたものである。適正な塩基飽和度(80%)であれば、普通かん水(pF2・3)と少し多めのかん水(pF1・8)で収量に与える影響の差は小さい。
 一方塩基飽和度が200%の土壌の場合、通常のかん水では収量が低下するが、水分をやや多めに水管理し、窒素施用量を適正に管理することでむしろ増収しており、水管理が重要なポイントであることが分かる。この図はトマトの例であるがキュウリでも同様な結果となっている。
 しかし実際の圃場では、塩基が過剰な土壌はりん酸含有量も高い圃場が多く、濃度障害も発生しやすく、石灰、苦土、微量要素の欠乏が発生しやすいなどのリスクが大きいため、基本的には土壌診断にもとづき塩基バランスに注意しながら塩基飽和度を徐々に100%に近づけるよう処方すべきと考えている。

トマト収量に及ぼす塩基飽和度などの影響


◆交換性石灰が高くても石灰欠乏がでる

 

 また、土壌中に硝酸態窒素や硫酸根が多く存在する以外は、塩基飽和度が高いとpHが高くなる。土壌がアルカリ性になるとホウ素、マンガン、銅、亜鉛、鉄など微量要素の溶解度が低下し欠乏症状が発生しやすくなる。石灰も溶解度が低下するため、交換性石灰が十分にあるにも関わらず欠乏症状が出ることがある。
 石灰欠乏の代表的なものにトマトやピーマンの尻腐れがあるが、ハウス内の温度が上昇し、特に土壌中に窒素が多い場合に生育が急激に進むことで、同時に石灰の吸収も旺盛になり土壌溶液中の水溶性石灰の供給が間に合わないため発生しやすくなる。特に、加里、アンモニア態窒素が多い場合拮抗作用で、しかも土壌が乾燥すると発生しやすい。
 石灰は作物に吸収されると窒素やリン酸と異なり他の部位に移動しにくく、一旦欠乏が発生すると回復しない。葉面散布剤も現場では使用されるが、散布した部位しか効果がなく全体の吸収量も少ない。そのため石灰は、土壌溶液中に一定の濃度を維持し根から吸収させることが重要と考えている。
 加里の過剰によって苦土欠乏が発生しやすいことはよく知られているが、これも拮抗作用で、図2で示したように、加里は石灰、苦土、窒素、ホウ素と拮抗関係にある。一方リン酸は過剰になると亜鉛、鉄、銅、加里の吸収を抑制するが、苦土とは相乗作用の関係にある。この図の関係は作物の栄養診断にも使われるので結構重要である。

要素の相互作用


◆リン酸施用量は土壌分析結果に基づいて

 

 もう一つはりん酸問題である。土壌の有効リン酸として土壌診断ではトルオーグリン酸が普通使われ、これを筆者は土壌リン酸(地力的リン酸)と呼んでいる。一方、基肥などリン酸質肥料施肥量を施肥リン酸というが、肥料の形態、土壌の種類(リン酸吸収係数の大小)、施肥位置などにより肥効が異なる。施肥量は各県の試験機関の指導で、作物の種類や作型で吸収量、土壌の種類などによって決められておりそれに従えばよい。土壌分析の結果土壌リン酸が改良目標値に達していれば基準施肥量を施用することになるが、土壌リン酸が多い場合は減肥することになる。
 りん酸の改良目標値は、水田の場合は火山灰土壌でトルオーグリン酸で10mg、非火山灰土で20mgあれば基準施肥量でよいと考えている。還元状態になると鉄型のりん酸が易溶化するからである。
 一方、施設作物は作物によって異なるが、果菜類はりん酸は花芽分化に対する影響、土壌りん酸の吸収効率も配慮し、概ねトルオーグリン酸の適正範囲は20〜100mgと考えており、100mg以下は通常の施肥量で対応する。100〜200mgであれば2〜3割減肥し、次の作前に土壌分析を行い、同じレベルであれば半分に減らす。これは土壌の分析にはサンプリングの誤差や分析のバラツキが伴うため、特にトルオーグリン酸は分析値にバラツキが多く1回の分析結果で判断するにはリスクがあるため、次の作も分析し確認しながら改善していくほうが現実的であるからである。
 200mg以上では拮抗作用で鉄や亜鉛欠乏を発生する可能性があり、スターター程度の施肥量とする。次の作前に分析した結果が200mgを越えるようであればリン酸肥料は無施用とする。300mg以上の土壌は鉄、亜鉛欠乏が発生する可能性が極めて高いためリン酸肥料の施肥を控えることを指導している。
 土壌分析は、作土だけでなく下層についても実施し、診断することが必要である。

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 筆者が講演会に呼ばれて感じることは、生産者は栽培管理については自らの技術があり長けているが、意外と自分の圃場の養分状態を十分理解していないことが多いことである。レベルの高い生産者ほど土壌診断に関心を示すのはそのためである。営農指導の現場では、肥料は要らないと指導すると収量に影響が出ないか、また事業への影響も考えると辛いものはある。しかし、施肥コストを抑える面では無駄な施肥を控えることは当然であり、「多いものは多い」と言い切り、土壌診断を継続して行うことにより農家の信頼を得、「土壌診断にもとづく指導」が長い目で肥料事業につながると筆者は確信している。
 
(前回はコチラから

※吉田吉明氏の姓「吉」の字は、常用漢字で掲載しています。

【著者】吉田吉明
           コープケミカル(株)参与 技術士

(2010.04.28)