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美味しい農産物と土づくり――土壌診断にもとづく土づくりと効率的な施肥

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第12回 健全な農産物を生産するために

・農作物に依存するミネラル
・野菜からのカルシウム摂取量に注目
・お米からのミネラル供給量は意外と多い

 土づくりの基本は、根が健全で地中に十分張れる環境づくりということになるが、作物の品質との関係では必ずしも根が拡大すればよいものでもない。表1は野菜の品質の評価について示した例であるが、作物によって評価が異なることが分かる。筆者は果菜類の評価は作物の種類、品種によって異なると思うが、大雑把には未熟果菜と完熟果菜に分けて考えている。
 キュウリ、ナス、ピーマンなどは前者で、生育全期にわたって栄養生長を確保する必要があるため、根の張りを拡大し、水分も高めに管理し瑞々しい状態で収穫する。一方、メロン、トマト、スイカなどは糖集積時期に水分ストレスを与えることで糖度を高めるため、むしろ根群域を制限したり、塩類濃度を高める栽培管理の方を選択することにより差別化商品として販売する場合がある。

◆作物によって異なる品質評価基準

 キュウリ、ナス、ピーマンなどは前者で、生育全期にわたって栄養生長を確保する必要があるため、根の張りを拡大し、水分も高めに管理し瑞々しい状態で収穫する。これらの野菜は消費者からは皮が軟らかい、新鮮で瑞々しく、艶がある果実が評価されるからである。
 一方、メロン、トマト、スイカなどは糖集積時期に水分ストレスを与えることで糖度を高めるため、むしろ根群域を制限したり、塩類濃度を高める栽培管理の方を選択することにより差別化商品として販売する場合がある。
 根群域が多くなると水分のコントロールができにくいからである。反面、こうした栽培法は乾燥気味で管理するため、石灰などの養分欠乏が発生しやすく、また収量が低下するリスクはある。
 現在、作物の品質評価項目として、色や形など外観、糖・ビタミン・シュウ酸・硝酸などの内容成分、食品の健康的要因として機能性成分や安全性、そして商品の収穫後の保存性や加工特性があげられている。野菜については、品種、作期、作型、特に養水分など栽培条件や肥培管理、更に最近では日射量や収穫の時期が作物の品質形成に影響を及ぼすことも分かってきている。
 例えば葉菜類では、窒素肥料を多量に施用することで硝酸態窒素の吸収が多くなり、糖やビタミンCが低下することが言われている。また、最近加工用・業務用野菜が増加しているが、鮮度は無論であるが食感(食味・固さ)や煮崩れしないなど基本特性(品質・規格、出荷形態など)は家計消費用と異なり、実需者のニーズに対応した野菜の生産・流通体制の整備が益々求められるようになっている。

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◆農作物に依存するミネラル

 表2は作物の品質に係る成分内容の一部を紹介した。これらの品質の中には、食物として蛋白質、アミノ酸、糖質、脂質など栄養素的な評価は勿論であるが、近年、野菜による高血圧症、動脈硬化、肥満防止、糖尿病など成人病の予防に効果があり、ビタミンや抗酸化物質などの機能性成分や食物繊維などが注目されている。品種改良や肥培管理でこのような成分が富化できればと思っているがまだまだ試験例は少ない。
 また、ミネラルは、生命活動に必要な各種生理作用、酵素作用、代謝調節作用などと密接に関係しており、その作用機作は作物と人間は共通点が多く、人間の健康や病気にも関与することが明らかになりつつある。
 ミネラルの中でも、農産物に最も依存しているのがケイ酸(Si)とホウ素(B)であり、両者の役割は人間の骨を丈夫にすることに関係しており、Siが不足するとコラーゲン、ムコ多糖類の低下に現れ、動脈硬化の促進、各器官の老化症状に関係するといわれている。また、日本人はマグネシウム(Mg)の1日当たりの摂取基準は370mgであるが、成人男性で平均252mgと摂取不足であり、Mgは血管の収縮を防ぐ役割があり、糖尿病や慢性合併症患者は血中のMg濃度が低いことが知られている。
 これは、昨年日本土壌肥料学会愛知大会で公開シンポジウムが開かれ、その重要性について論議された一部であるが、ミネラル強化野菜等付加価値の高い農産物の生産に関心を持つことを農家に提案しており、消費者に対しても野菜の摂取の重要性を惹起するものである。

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◆野菜からのカルシウム摂取量に注目

 筆者はカルシウムにも注目している。カルシウム(Ca)も比較的摂取量の多いミネラルであるが、1日当たりの基準摂取量700mgを下回っている。1日の摂取量のうち野菜からほぼ2割摂取されるといわれており、野菜は重要な供給源になっている。
 当社の試験で、コマツナなどのCaの吸収量の高い野菜に水溶性Caを含む「畑のカルシウム」を施用すると、1.2から2倍にも吸収量が増加することが分かっている。このように土づくり肥料・資材の施用など肥培管理で含有率を高めることができ、例えば、コマツナの「おひたし」でCaの摂取量を補強できれば「カルシウムリッチな健康コマツナ」として、また野菜ジュースの原料としてのツケナ類に施用することで差別化商品化も可能と考えている。


◆お米からのミネラル供給量は意外と多い

 一方、米の品質は、品種特性、土壌や気象など産地性、施肥管理を含む栽培条件、収穫時期、そして収穫後の調整・貯蔵方法などの基本的な因子に左右されるといわれるが、土づくりと食味との関係は第4回の「良食味米のための土づくり」で述べた。日本人の平均栄養所要量のうち、エネルギーベースでみるとお米の役割が大きいことは周知のとおりである。
 京都大学の高橋名誉教授は多数の米のミネラルなどを分析し、摂取白米(200g/日)によるミネラル供給量ならびに必須ミネラルに充足率(%)を計算している。これによると蛋白質は22%、リン、マンガンは約50%、亜鉛(Zn)、銅は20%供給でき、お米からのミネラル供給量は意外に多いことが分かる。Znが不足すると食欲不振を誘発し味覚障害が発生しやすいといわれており、米食の人は発生が少ないといわれている。
 筆者もお米のミネラルの供給に関心を持っており、前に述べたとおり、水稲にとってケイ酸は重要な役割を果たしている要素であるが、水稲の土づくり肥料として鉱さいけい酸肥料を推奨するのは、ケイ酸、石灰、苦土の他に種々の微量要素も含まれているからである。
 作物にとって栄養的に不足することは、それを摂取する人の栄養にも関係すると考えているので、健全な農産物を食することは人間の健康にも通ずると考えている。


(前回はコチラから)

※吉田吉明氏の姓「吉」の字は、常用漢字で掲載しています。

【著者】吉田吉明
           コープケミカル(株)参与 技術士

(2010.07.08)