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米先物取引、問題点を考える

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なぜ今、試験上場なのか?

・閉鎖された現物市場
・米流通業界の現状と価格形成
・相対取引が主流になった理由

 米先物取引の試験上場が8月8日、東京穀物商品取引所と関西商品取引所で始まった。 東穀では初日は買い注文が殺到し取引が成立しなかったが、9日には基準価格を引き上げたところ来年1月を期限とする取引で1俵1万7280円の初値がついた。関西商品取引所では初日に同1万8910円と高値がついた。その後の取引では24年1月限は同1万5900円(6月16日・東穀)となっている。
 茂木守・前JA全中会長は8日に発表した談話で「こうした現物相場とかけ離れた価格で取引が行われ価格が大きく変化することは、当初から懸念していた価格の乱高下が現実に起こってしまったことであり極めて遺憾」と批判し、「まさに生産現場を混乱させ米の計画生産や非主食用の需給に影響を与えるとともに、主食用の現物市場にも悪影響を与える」と強調、引き続き米先物取引には反対していくことを表明した。
 JAcomは8月10日付「主食をマネーゲームに放り込むのか」(リンク先本文下)で米先物取引問題に焦点を当てたが、今回から改めてシリーズで取り上げる。第1回はそもそもなぜ今、米先物取引が試験上場されたのか? 疑問のいくつかを提示しておきたい。

「先物」求めるのは業界の一部だけ

その事情を探る

◆閉鎖された現物市場

なぜ今、試験上場なのか? 「先物」求めるのは業界の一部だけ 東京と関西の商品取引所が米先物取引の試験上場の認可申請をしたのは今年3月8日のことだったが、その月末には奇しくも20年にわたって米の現物取引市場だったコメ価格センターが閉鎖された。
 同センターは上場にあたっての数量や回数などの義務規定を平成19年に廃止、それ以降、取り扱い数量が激減し昨年1月に当時の郡司農水副大臣が廃止を含めた見直しを表明していた。
 同センターはピーク時には約100万tの取引を行っていたが、21年度には600tと入札そのものがほとんど行われなくなった。そのため、米取引は産地銘柄ごとの相対取引が中心となっている。
 東穀などは先物取引が必要だとする理由に米の流通自由化による価格変動リスク、在庫リスクのほか、「相対取引が中心になっている」ことも挙げていた。
 7月1日、試験上場を認可した鹿野農相は記者会見で「米の価格形成の場はもうなくなったわけですよね。相対取引だけというなかで、(先物)取引がなされていくことになれば、透明性が確保されるという期待感はある」と語っている。
 先物取引があれば透明性のある価格形成がなされる、つまり、現在の相対取引には透明性がない、という認識を示したものだといえるだろう。
 しかし、相対取引は本当に透明性がないといえるのだろうか?
 さらに、そもそもコメ価格形成センターはなぜ廃止されてしまったのか? その理由の検証も現物市場の再構築の努力もせずに、なぜ先物取引市場だけをこの時期に認可したのか? などなどいくつもの疑問が湧く。

(写真はイメージ写真です)


◆米流通業界の現状と価格形成

 米の流通は平成7年の食管法の廃止と食糧法の制定によって自由化に踏み出すが、16年(2004)の同法改正で一定の流通規制を目的とし計画流通米と計画外流通米を区分して計画流通制度をも廃止、原則自由化された。
 3月に廃止になったコメ価格センターは、食糧法制定時に当時の自主流通米価格形成センターを入札の場とすることを法定化し、これを引き継いだものだった。
 一方、自由化によって米の流通・販売は非常に複線化・多様化した(図)。生産から販売までのJAグループの取り扱い量は多いものの、さまざまな業者が参入している。逆に小売業者、外食事業など川下側からいえば調達ルートが多様になったということになる。
 こうした自由化のなかで大手量販店など川下が価格決定に大きな力を持つようになったといわれて久しいが、一方では全国チェーン展開をする大手量販店などと取り引きできる米卸業者も大手に限られていった、というのが大きな構図といえる。また、家庭用消費が減少し外食・中食といった業務用米の比率が高まっていったことも、この間の米の生産・流通にとっての大きな変化で、値頃感があり大ロットの安定供給が求められるようになった。
 バイイングパワーと言われているように価格決定に川下の及ぼす力が強まったなかで、コメ価格センターでの入札が行われてきたが、その入札結果は公表されてきた。しかし、これは卸業者にとっては、実需者と取引する際には落札価格という、いわば手の内がさらされての取引ということになる。川下のバイイングパワーが強まるなかこれでは売る側にとっては不利になる。
 コメ価格センターでの取引が透明性があるかのようにいわれるが、流通業界にとっては透明性があったからこそ逆にセンターの利用が少なくなった、ということを指摘する声はかねてから業界から聞かれた。
 鹿野農相は先に触れたように価格形成の透明性を強調するが、コメ価格センターはそれなりに透明性があった。それがなぜ機能しなくなったのかが問われないまま先物取引の上場認可問題だけが先走ってしまっている。
 先物市場は現物市場が前提になってこそ成り立つと商品取引関係者も強調する。しかし、現物市場をどうつくるか、その努力もしないまま先物取引の必要性だけが強調されてきた状況にあることを改めて認識しておく必要があるだろう。


◆相対取引が主流になった理由

 ところで、コメ価格センターの廃止を含めて見直しを表明した昨年1月の記者会見で、当時の郡司副大臣は、最近の米流通について「売り手、買い手双方が引取時期や産地、品種、栽培の方法等、各自のニーズに応じた多様な取引が可能である相対取引のほうが志向が多くなってくる」と指摘している(平成22年1月7日)。
 この指摘はそのまま米流通の現状を表したものではないか。
 米流通に詳しい専門家は「相対取引が問題だと卸業界も強調するが、量販店、コンビニと提携して一元的・安定的な納入が求められるなか、相対取引が便利だとして扱いを増やしてきたのは卸業界自身」と指摘する。
 もっとも相対取引できる業者は在庫を抱えることができる数社に限られているといわれるのが現状だ。その他の小規模な業者は大手卸からスポット取引などで二次的な仕入れをしている。
 そうなると大手卸にとっては在庫リスクを抱えることになるから、リスク回避のための先物取引の必要性を叫ぶ理由も分からなくもない。しかし、ここで指摘しておきたいのは、その声は卸業界全体の声ではないということだ。
 また、何よりも現在の国内の米流通の現状を改めて認識しておく必要がある。
 郡司前副大臣が指摘したように、多様な消費者ニーズを背景に、米は産地・銘柄ごと、あるいは栽培方法などによってまったく異なる商品として扱われている。それらを産地は消費者に向けて「顔の見える」関係を重視して供給してきている。そのなかで価格も決定されてきている。播種前契約など契約栽培も品種・産地、さらには生産者まで特定されるケースもある。
 こうした取引が日本の米の流通実態に即した取引であり消費者も納得してきたことではなかったか。その他の疑問点も含めて、次号から先物取引の問題点を考えていくが、問題の出発点はどこかをしっかり考えていきたい。

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