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米先物取引、問題点を考える

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誰のため何のための試験上場なのか?

・商品先物市場の実態
・誰のための試験上場?

 米先物取引の試験上場が開始されて約1カ月―。
 東京穀物商品取引所のまとめでは、8月の出来高合計は約2万枚。一日の最高出来高は取引開始翌日の8月9日の6765枚で、以降は低調な取引が続き1日平均は1150枚だった。
 関西商品取引所も3000枚程度の取引が続いており、両取引所とも一日5000枚程度、としていた目標を下回っているのが現状だ。
 今回もなぜ今、試験上場なのか、その疑問を指摘しておきたい。

◆商品先物市場の実態

 東京穀物取引所の今年3月末の決算によると、22年度の先物取引の出来高は約330万枚となっている。前年度に比べて25%減った。3年前の19年度の出来高は1967万枚だったから激減していることになる。
 実は東穀だけではなく日本の商品先物取引は、その出来高が減少を続けている。
 平成15年には工業品出来高と農産物出来高の合計は1億5000枚を超えていた。しかしその後減少が続き、19年までの4年間で50%以上も減った。
 出来高減少の要因として専門家が指摘しているのは健全な取引をめざした商品取引法の改正だ。これによって商品取引員が個人投資家の勧誘に慎重になったといわれ、参加者が減少したという
 そのことが出来高全体の大幅な減少につながるのは、日本の商品先物の市場参加者は個人投資家の割合が極めて高いからだ。その割合は9割を占めるといわれ、当業者(当該商品取扱業者)は1割にすぎない。農水省と経産省が作成した資料によるとシカゴ商品取引所の主要商品であるトウモロコシ、大豆の場合、当業者は4割程度だという。また、ロンドン金属取引所は当業者・機関投資家が9割以上を占める。(市場の流動性の増大に向けた課題:平成19年)
 日本の商品先物取引市場はそもそも当業者の割合が非常に少なく、投機目的の個人投資家が多数を占めるという実態にある。
 しかも参加者が減っているという現状について、専門家は「参加者が減り流動性が失われた市場では、価格変動が大きくなり透明な価格指標としての公正な価格形成機能も低下してしまう」と指摘している。(「調査と情報」第615号:商品先物市場をめぐる現状と課題 岡田悟 08年)

商品先物市場、出来高・取引金額の推移
◆誰のための試験上場?

 東穀の今年3月期の決算によると、出来高の減少などにより7.4億円の経常損失を出している。当期純利益は9.1億円を計上しているが、これは本社ビルなどの売却益があったためだ。
 東穀の経営は厳しく、銀行借入が難しく株主に増資を求めた経緯もある。こうした状況をみると、今回、米の試験上場を急いだのは、米の価格形成の場をつくり生産者、卸などの経営安定にも寄与させるためなどという理由よりも、米を先物取引の品目に加えることで出来高を増やし商品取引所の経営を良くすることが狙いだったのではないのか。誰のための試験上場だったのか、疑問だ。関係者からは「米の先物取引で経営状態が改善するのかどうか疑わしいが、そもそも財務が厳しい状態の取引所が市場運営することが適切なことか」との指摘も聞かれる。
 また、関西商品取引所も試験上場を申請し認可されたことについての疑問の声もある。 世界の商品取引所は合併、資本提携などを行い取引規模の拡大を図っている。
 平成16年には東京工業品取引所は、ニューヨーク商業取引所と大連商品交易所に次いで世界3位、東穀は9位だった。しかし、19年に東京工業品取引所は9位に低下、東穀は10位内から姿を消した。 こうした状況のなか、米の先物取引では2つの商品取引所に上場認可がおりたのである。農水省も経産省も商品先物取引での競争力強化を狙っている。それなのに今回の判断は世界の流れに逆行するものともいえる。それはなぜか?
 「農産物の先物取引を監督するのは農水省。省益を守るためだろう」とは多くから聞かれるが、それどころかある現職閣僚も農業関係者との懇談で同主旨のことを指摘していたのである。
 ちなみに前回、米先物取引は卸業者にとっては経営安定のためのニーズがありそうだと指摘した。しかし、本紙のこれまでの取材で最大手の卸2社は米先物取引には参加しない意向であることが分かった。ますます誰のため、何のための試験上場なのかが疑問になる。

商品取引所の出来高順位の推移
(注)米先物の「1枚」=東穀は6t、関取は3t


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