シリーズ

農薬のいろは

一覧に戻る

農薬のいろは(2) もし農薬がなかったら

 春の異動で生産資材の担当や営農指導員として赴任された方も多いと思います。いままで肥料や農薬などの生産資材に触れたことがなく、初めて触れる「農薬」に不安を感じている人もいると思います。
 でも何も恐れることはありません。農薬は開発から農薬取締法に則って農薬登録されるまで10年前後の時間をかけ、病害虫や雑草に対してどれだけ効果があるかだけではなく、人はもちろん環境などに影響をおよぼさないかどうかさまざまな試験が行われています。

◆農薬は安全

seri1204130202.jpg 4月になり温かくなってきた地方から桜が咲き始めたというニュースが次つぎ届いてきます。そして桜の下で入学式を迎えている子どもたちもたくさんいると思います。
 全国のJAにも初々しく希望に満ちた若い人たちが入ってきてのではないでしょうか。
 そして、春の異動で生産資材の担当や営農指導員として赴任された方も多いと思います。いままで肥料や農薬などの生産資材に触れたことがなく、初めて触れる「農薬」に不安を感じている人もいると思います。
 でも何も恐れることはありません。農薬は開発から農薬取締法に則って農薬登録されるまで10年前後の時間をかけ、病害虫や雑草に対してどれだけ効果があるかだけではなく、人はもちろん環境などに影響をおよぼさないかどうかさまざまな試験が行われています。そしてそれらをすべてクリアしなければ登録されず、世の中にでてくることもありません。
 だから、登録されて市販されている農薬は間違いなく安全です。ただし、人間が飲む風邪薬でも使用方法を間違えば健康被害がでることがあるように、農薬もラベルなどに記載されている使用方法をキチンと守って使えば安全です。


◆10アール50時間以上の除草作業が30分の1に
 
水稲作物における農作業時間の比較 ところで、なぜお米や野菜や果物を作るときに農薬が必要なのでしょうか。
 例えば、水稲用の除草剤があります。いろいろな種類があって、何にどう効くのか、覚えるのも大変です(そういう人は本紙の3月30日号の「水稲用除草剤の上手な使い方」を読んでください)。
 でも、いまのように除草剤がない時代には、人が田んぼに入って手で雑草を取り除いていました。初夏の気候の良いときはまだしも、真夏の炎天下の田んぼは、屋根など日射しを遮るものがありませんから、草取りは大変な労働でした。それでも雑草を取り除かなければ、米の収穫量が減るので、汗を流しながら草取りをしたのです。
 日本植物防疫協会(日植防)の調査によれば1949年(昭和24年)の水稲栽培における除草作業時間は、10アール50.6時間(年)もかかっていました(上図)。もし1haの田んぼがあったらどうでしょうか。計算してみてください。一人で作業すると仮定すると24時間労働で21日も田んぼで草取りすることになります。
 もちろん1人ではできませんし、24時間連続で草取りすることはできないので、家族総出で農作業をしていたのです。草取りだけではなく、いまでは機械ですることが当たり前の田植えも刈取りや脱穀もすべて人の力だけが頼りだったのです。
 それがどうでしょうか、優れた効果を発揮する除草剤のおかげでいま(2005年)は10アールわずか1.6時間(100分弱)、1949年の30分の1で済んでいます。
余裕ができた時間で他の作物を
 除草剤の出現は、炎天下の草取りという重労働からの開放だけではなく、稲作以外の作物栽培を行う(複合経営)時間的な余裕をうみ、農村の収益向上に貢献しました。農薬だけではなく田植機やトラクター、コンバインなど農業機械も農作業の効率化・軽減に大きく貢献し、農業以外の仕事に就く兼業も可能にしました。


◆安定した収穫量を確保

 もう一つ別のデータがあります。
 農薬を使わないと病害虫や雑草の被害で収穫量がどれだけ減るかというデータです。下表は病害虫による収穫量の減収ですが、水稲で平均24%、キャベツでは67%、キュウリで61%、根菜の大根でも39%も収穫量が減ります。
 ここには示しませんが雑草の被害でも同じような調査結果があります。
 農薬を使わないので、生産費に占める農薬代はゼロとなり、コストは抑制されるでしょうが、収穫量が減りますから当然収入は減ります。農薬代のウェイトはそれほど大きくないはずですから、収穫量が減って収入が少なくなる方が農家経営に与える影響は大きいのではないでしょうか。
 農薬は、肉体的にもきつい農作業から開放してくれることで、例えば稲作だけではなく野菜栽培をするなど複合経営を可能にしたり、農業以外の仕事をする時間的な余裕を生み出してくれましたし、安定した品質と収穫量を確保することができるようになり、農業経営を安定させるなどの効果をうみだしています。
 現代の日本農業では農薬がない営農は考えられないのではないでしょうか。

病害虫による農作物の減収
◆自信をもってつきあおう

 農薬は正しく使えば何の問題も生じない安全な化合物で、営農に欠かせない大事な生産資材です。ですから初めて農薬の担当になった人も、自信をもって農薬とつきあってください。
 なお、農薬登録の方法や安全性については本紙編集部が取材しまとめた「農薬の安全性を考える」という冊子があります(1冊1000円)ので、ご利用ください。


農薬のいろは(1) 「農薬にはいくつもの名前が」  はこちら)

(2012.04.13)